83話 忘れていた
「あ」
迷宮に向かうため、装備を着込んでいる最中。
唐突に修が声を放った。
「どうされました?」
俊敏に反応したポーラが首を傾げた。
カファは安心の無反応だ。
修は自分のカードを見ていた。
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LV.65
カンザキ シュウ
人間:♂
19
拳士LV.■■
経験値獲得アップLV.10
攻撃魔法LV.41
回復魔法LV.41
鑑定
状態異常無効
称号変更
『竜殺し』
『探索者』
『拳を極めし者』
『神を殴りし者』
『ご主人様』
奴隷
カファ
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昨日の朝には年齢が18だったのに、今朝は19になっている。
今日が誕生日らしいのだ。
カレンダーが無いので、すっかり忘却していた。
「19歳になってる」
修はあっさりと、誕生日を迎えたことを暴露した。
「!?!?!?!?!」
その瞬間のポーラの顔と言ったら。
蒼白になり、『ガーン!!』とショックを受けているのがまるわかりの顔をした。
「……た、誕生日、きょ、今日、だったのですか……?」
ポーラは震える声で修に聞いて来た。
「嘘だと言ってよバー○ィ」っていう雰囲気だ。
が、修はあっさりと頷いた。
「うん」
その瞬間、ポーラは一瞬の早業で鎧を脱ぎ捨て、裏返った絶叫をあげて駆け出して行った。
「今日は迷宮はお休みしますッ!!」
実に素晴らしい速度だった。
ポーラはそのまま外にすっ飛んで行った。
腰に剣はさしてあったので、危険は無いだろうが。
「「……」」
修とカファは無言でポーラの居なくなった空間を眺めていた。
「今日はお休みにしようか」
やがて修が切り出した。
「……はぁ」
カファは気の無い返事を返して、のそのそと防具を脱ぎ始めた。
が、平穏な一日を手に入れて、心の中ではガッツポーズだ。
ポーラは走っていた。
恐ろしい形相で走っていた。
一生の不覚であった。
まさかシュウ様のお誕生日を見過ごしていしまうとは!!
いずれ聞こうと、甘い考えで居たのが悪かった。
シュウとおそろいのバングルを握りしめながら、ポーラは考える。
しかし不幸中の幸いにも、今日ならばまだ時間はある。
サプライズ的なものは出来ないが、腕によりをかけ、人生最高傑作を作り上げて見せよう!!
爆走しながら、ポーラはそう決意した。
ポーラは、食材を買いまくった。それはもうたらふく買った。
一人では持って帰れず、一度帰ってカファを連行し、二人でもやっと持てるくらいの量だった。
めんどくさそうにしていたカファも、ポーラの形相を見ると、懸命にも口を紡ぎ、キビキビと動いていた。
誰しも死にたくは無いのだ。
ポーラの帰宅から、厨房に音が鳴りつづけた。
カファは厨房にまでも連れ込まれ、延々と鍋を掻き回している。
実に機敏に動いている。
普段からこれくらい動けない物だろうか。
しかしそのおかげか、すぐに良い匂いも漂い始めた。
その匂いに釣られて、街灯の光に群がる蝶の様に、修がふらふらと引き寄せられて行った。
が、厨房に入る直前に、ポーラが飛び出してきた。
「シュウ様は来てはいけませんっ!!」
鬼気迫る表情で叩き出された。
ポーラの反抗期だとショックを受けた修は、すきっ腹を抱えて、部屋でシクシクとすすり泣いた。
弱い(確信)
そしてその日の夜。
「シュウ様!遅れてしまいましたが、お誕生日おめでとうございます!!」
テーブルの上に、所狭しと料理が乗っている。
というか乗せきれていない。
ポーラの笑顔に押されて、修ががっつき始めた。
「美味しい。美味しいよポーラ」
反抗期ではなかったことに安堵し、修は泣きながら食べた。
ポーラも、泣いて喜んでくれるほどなのか!と一人心の中でガッツポーズしていた。
カファは巻き込まれたくないので、料理が終わったら早々に自室に逃げた。
実に懸命なことだ。
ポーラの作った恐ろしい量の食事は、全て食い尽くされた。
最初はニコニコして見ているだけだったポーラに、修も勧めたことでその速度は加速した。
とはいっても、ポーラは最初は遠慮して食べようとしなかった。
最後に、余り物を料理すればいいと考えていたのだ。
しかし、
「ポーラ、あーん」
修がスプーンを伸ばすと。
「……あーん」
鳥のヒナの様に食いついて来た。
実にちょろい。
後はなし崩しだった。
そしてその日の夜。
修の部屋にポーラが現れる。
別にこれは毎日の事なので、問題ない。
が、ポーラは全身にリボンを巻いていた!
「プ、プレゼントは、わ、私ですっ!!」
実に古典的だ。
が、いつものエロ衣装もさることながら、普段服として使用しないリボンを使用し、エロティックを醸し出すその姿は素晴らしい物がある。
特に評価したいのが、明らかに大きすぎて隠しれ来ていないHA・MI・TI・TIだ。
そして、家では毎日なさっているのに、毎回毎回恥じらっている点もVery Good!!
しかもそれが余裕をなくしていく様、突き抜けた時とのギャップがExcellent!!
骨董品を鑑定するおっさんの瞳でジロジロとポーラの全身を眺める。
ソムリエ・修の本領発揮だ。
ポーラは恥ずかしそうに身をよじりながらも、決して隠そうとはしなかった。
その心意気や良し!お相手仕ろう!!
そんな訳で、プレゼントは有難く頂いた。
結局、ポーラにもプレゼントが行き渡った様なものだったが。
翌日には、ちゃんと迷宮に潜った。
アフロネズミと戦っていたが、アフロから針が伸びて来た。
カツラは針を隠すためにつけているのだろう。
チーズを集めながら探索していると、ボスを発見した。
カファはまだ少々辛いかもしれないが、ポーラもいるし装備もアレなので大丈夫だろう。
危なくなればいつでも加勢できるように修は決意して、見守ることにした。
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LV.22
ボス・アフロネズミ
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ちなみにボスは、アフロの侵食が全身に及んでいた。
もはや手遅れだろう。




