82話 それはさながら
修は実に珍しく、一人で歩いていた。
と言うのも、ポーラがカファとコンビネーションについて話し合っているので、主にそれを使う相手の修は席を外していたのだ。
そんな折に、ファウスに出会った。
「シュウ殿、久しぶりだ」
ファウスは、マテナを連れて修に近づいて来た。
「あ、お久しぶりです。ファウスさん、マテナちゃん」
修も立ち止まり、ファウスとマテナに頭を下げた。
「お久しぶりです、シュウ様!」
マテナの修を見る目が、ちょっとおかしかった。
何か輝いている。
以前はヒーローを見るような目だったのだが、何かが変わっている、
修は不思議に思ったが、考えが答えを見つける前にファウスが口を開いた。
「温泉に行っていたそうだね。なんでも、あそこのドラゴンを倒したとか・・・」
ファウスの目も、以前より更にギラついているような気がする。
そして間合いも近い。
何故かずんずんと修に近づいて来る。
「あ、はい。倒しましたね」
修は心持ち、体重を後ろに動かしながら頷いた。
その修の肩に、ファウスに両手ががっちりと乗った。
「そうかそうか。実に素晴らしい。……来月マテナの誕生日があってね。パーティーをするのだが、その後にでもこの子に武勇伝を聞かせてやってくれんかね。…二人っきりで」
目がマジだった。
最後にぼそりと何かを呟いたが、修はそれは聞こえなかった。
「は?はぁ・・・。大丈夫ですけど」
話自体は別に難しいことでもないので、修は頷いた。
「うむうむそうかそうか。是非、是非とも頼むよ!!ああ、その日は泊まって行くと良い!」
ファウスは実に愉快そうに修の肩をバンバンと叩いて笑った。
マテナの部屋にベッドを運んでおかなければ、などと考えている。
11歳の少女に何を期待しているのだろうか。
「……楽しみです」
マテナも呟いた。
洗脳は順調に進んでいるようだ。
「また日にちについては連絡させてもらうよ」
と告げて、ファウスとマテナは去って行った。
歩き去る二人の足取りは、やけに軽かった。
実に恐ろしいことである。
翌日、22層に来た。
三人で少し探索をすると、魔物の気配を捕えた。
「む・・・?」
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LV.22
アフロネズミ
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そのままだ。
最早特記する必要はない。
たまにはそう言いたいところだが、現実は無情だった。
何かデフォルメしたねずみだ。
ほっぺに丸い紅までさしている。
そしてこれが一番の問題だが、アフロが頭から尻尾付近まで広がっている。
四足っぽいが、突然立ち上がって、「HEY YO!!」とか言い出しかねないくらいにヒップホップな感じだ。
「ファイアランス!!」
問答無用の炎の槍が、アフロに着火した。
アフロ効果か、めらめらと普段よりも炎が燃え盛る。
そして燃え尽きた。
「・・・チーズね」
『エメンタールチーズ』だろう。
実際には、ネズミはあまり乳製品は食べません。
「はい。美味しいそうですよ」
ポーラが「晩御飯のおかず決定です」と言う顔をしていた。
「……」
修もチーズは好きなので問題はない。
しかし、猫が来てネズミが来るのは順番的にどうかと思う。
それとも、違う迷宮では逆なのだろうか。
次に遭遇したアフロネズミは、ポーラとカファが戦った。
「行きますよカファ」
何時もの様に、ポーラさんはやる気満々だ。
「……はぁ」
カファは溜め息のような返事と共に駆けだした。
まずはカファがアフロネズミと衝突した。
何故かアフロのある背中から突撃して来た。
「……む」
ネズミの小さな体に、かなりの力が込められていた。
カファは足を踏ん張って耐え、受け止めきった。
「っ!」
そこに、ポーラが横から飛び出し、アフロネズミの体に剣を叩き込んだ。
ミラードラゴンの方の剣だった。
アフロネズミの首を刈る様なコースで放たれた剣戟を、アフロネズミ辛うじて首を竦めて回避しようとした。
剣がアフロネズミの頭を掠めた。
「なっ、なにぃぃぃぃぃぃいい?!」
その瞬間、修が叫んだ。
ポーラの剣がアフロにぶつかった瞬間、アフロが飛んだ。
それはもう、ものの見事にポーン!と。
その瞬間の、アフロネズミの顔を修は見た。
「ヤッベ!!」と言う顔をしていた。
間違いないと断言できる。
そしてアフロの取れた背中には、針がびっしりと生えていた。
「針ネズミじゃねーか!!」
名称詐欺である。
修は思わず叫んでしまった。
しかもアフロはカツラである。
あの神は一体何を考えてこの生物を創造したというのか。
何も考えず、「これイけるんじゃ!?」とか言いながら、嬉々として作っていそうだ。
修には容易に想像できる図だ。
ポーラに弾き飛ばされたアフロ(?)ネズミは全身をぶるりと震わせると、背の針がミサイルの様に飛んで来た。
まるで散弾銃だ。
「わかってたわー」
しかし、ビジュアルが分かれば攻撃パターンは想像できる。
しかも針だ。
どう考えても飛んでくる。
ポーラもそう判断したようで、あっさりとカファの後ろに隠れた。
カファも無感動な顔で、盾で全て受け止めた。
ポーラはカファの影から現れ、攻撃を繰り返した。
アフロネズミの攻撃は、全て大盾で防がれている。
あっという間に追い詰められたアフロネズミが、カファたちから距離を取った。
また針を飛ばしてくるのかと修が思ったその時、ほっぺの丸い紅がパチパチと音を鳴らした。
「え?!」
まさか!
修が目を見開いてアフロネズミを見つめた。
パチパチと言う音が大きくなり、体に電気を纏い始めたではないか。
「ぴっ、○カ○ュー?!」
色とかビジュアルとかはいろいろ違うが、電気を纏いおった。
これがアフロの作成の秘密だというのか。
アフロネズミは電気を纏い、電光石火の如く勢いで突進して来た。
ボル○ッカーっぽい感じだ。
「……」
が、カファはあっさりと受け止めた。
鉄の盾ならば危うかったかもしれないが、ミラードラゴンの盾は電気すらも防いだ。
ガイーン!と、良い音を鳴らして激突したアフロネズミの全身から電気が失せ、ずるずると盾から滑り落ちる。
ポテンと地面に倒れたアフロネズミに、ポーラが止めを刺した。
まさしく最後の力だったのだろう。
「……」
微妙な顔をしている修に、チーズを回収して歩み寄ったポーラ先生が解説してくれた。
「あの電気、数年前から突然使い始めたようです」
「……そう」
神が見てはならぬものを見たのだ。
そして嬉々として導入したのろう。
修はとっても気になることを質問した。
「モ○スター○ールってある?」
もしくは、魔物を捕えることが出来る玉が。
質問を受けたポーラは目を丸くした。
「は?…ありませんが?」
流石に無い様だ。
存在していれば、また神を殴ろうかと考えたが、寛大な心で許してあげた。




