81話 NINJA!!
ボス・シノビキャットは静かに座っている。
ポーラが二刀を抜き放ち、カファに向かって叫んだ。
「行きますよ、カファ!」
「……はぁ」
カファも実にやる気なさげな返事を返しながら、盾を構えて駆け出した。
仕事故致し方なし、と言った雰囲気がまざまざと出ている。
それでもちゃんと仕事をするのだからまだ良いだろう。
ボス・シノビキャットは、礼をせず、立ち上がった。
代わりに、顔の前で手を合わせた。
「ニンニン」とか言いそうな感じだった。
次の瞬間、シノビキャットの体がぶれた。
そして、シノビキャットが増えた。
三毛猫を中心に、同じ格好をした、ちょっと薄い白猫と黒猫が出現していた。
「ぶ、分身…?!」
本体がもろばれなので、修も分身と呼んでよい物か戸惑い気味だった。
三体の猫が駆け出した。
カファは当然騙されるわけも無く、三毛猫を見て盾を構えた。
三毛猫の攻撃を盾で受ける。
威力は大したことは無く、あっさりと受け切った。
しかし、左右に別れた白猫と黒猫が、挟み込む様にしてカファに飛びかかった。
それぞれが二本の刀を構えている。
「……?!」
カファは敏捷に後ろに下がった。
白猫と黒猫の攻撃が、ミスリルの鎧に触れた。
瞬間、ガギギギィ!と金属が擦れる音が響く。
「……ぅ」
衝撃は本物だった。
何と、白猫と黒猫も攻撃してくるのだ。
「影分身だと?!」
修が愕然とした。
良く見れば、三匹とも顔が違う。
影分身と言う織り、純粋に数を増やしたのだろうか。
でも薄いのだ。
そのあたりの判断ができかねる。
攻撃を受けて体制を崩したカファに対し、三毛猫が飛んだ。
キャット空中三○転を華麗に決めながら、カファに斬りかかる。
「はっ!!」
ポーラがそれを叩き落した。
ついでに三毛猫を蹴り飛ばし、遠くに追いやった。
そして白猫と黒猫に向き直って、カファに向かって叫んだ。
「カファは本体を!」
そして白猫と黒猫に斬りかかる。
「……」
カファは指示通り、三毛猫に向かって走り始めた。
三毛猫は空中で回転し、足から着地した。
そして駆けて来るカファに向かって飛びかかる。
一対一なら抑え切れる。
カファは三毛猫の攻撃を防ぎ続けた。
ポーラは二刀で白猫と黒猫の相手をしていた。
二対一なのに、ポーラ押せ押せだった。
「やっ!」
白猫がぶった切られた。
斬られた白猫はボゥン!と音を立てて消えた。
やはり影分身で正解だった。
そしてポーラは、そのまま黒も叩き切った。
ポーラがカファの抑え込んでいる三毛猫に駆け出そうとしたところで、目を見開いた。
カファから飛び離れたシノビキャットが、天井に直立していた。
また「ニンニン」の体勢を取ると、また白猫と黒猫が出現した。
「厄介な・・・!」
ポーラが叫び、カファの隣に並んだ。
襲い掛かって来る三匹のうち、三毛猫の攻撃をカファに任せ、白猫と黒猫の攻撃を、それぞれの剣で受け止める。
「せいっ!!」
受け止めた、力任せに剣を振り回した。
白猫と黒猫が、「にゃー」とか言いながら飛んでいく。
ポーラはすぐに振り返り、三毛猫に攻撃を仕掛けた。
三毛猫は、慌てて飛び退いて、ポーラの攻撃を回避した。
そこを、カファが蹴っ飛ばした。
カファもちょっとイラっと来ていたのだろうか。
「交代!」
ポーラが叫び、カファが蹴っ飛ばした三毛猫に走った。
「……」
カファも、白猫と黒猫に向き直った。
ポーラが怒涛の勢いで三毛猫を攻め立てている間、カファは二体の攻撃を受ける。
流石に受け切れぬ様で、いくつかは手足に被弾していたが、鎧の強靭さで無理矢理耐えていた。
顔だけは喰らわぬ様に、意識している。
とはいえ、カファにはどんどん疲労が溜まって行く。
ポーラ教官の鬼のしごきが無ければ厳しかったかもしれない。
ポーラの攻撃を受け切れなくなった三毛猫が、被弾を増やしていく。
攻撃力の高い武器での攻撃を受け、弱った三毛猫が懐に手を入れた。
そして取り出したるは煙玉。
また自爆攻撃をするつもりなのだろう。
しかし、
「はっ!!」
ポーラが的確に、煙玉を弾き飛ばした。
呆然と煙玉を失った手を見る三毛猫に、ポーラが止めを刺そうと剣を叩き付けた。
そしてカファを見る。
本体をやられたためだろうか、白猫と黒猫がボゥンと音を立てて消えた。
「……」
カファも疲れたようで、どっかりと座りこんだ。
ぜぇぜぇと荒い息を吐いている。
「お疲れ様です」
ポーラが安堵の顔で、カファの頭を撫でてやった。
鬼教官の優しさだ。
カファは、僅かに首肯した。
「お疲れ様」
修が二人の元に歩み寄った。
途中で何度か加勢しようかと考えたくらいの激戦だった。
特にカファが。
たぶん、ポーラ一人でも何とかなっただろうが。
流石に、一度力尽きたカファを迷宮で戦わせるほど、ポーラも鬼ではなかった。
下手すると、普通に死んでしまうし。
その為、次の階層に足を踏み入れてから帰宅した。
もうお昼は過ぎていた。
今から作って食べると時間がかかってしまうので、そこらへんにある店で、出来合いの物を買った。
修は色々な種類を無差別に購入し、恐ろしい勢いで貪っていた。
一方、いい汗をかいたポーラさんはと言うと、肉肉肉。
肉のオンパレードである。
時々野菜系も混じっていたが、誤差でしかない。
そしてカファは、ジュースを飲んでいた。
正確にはジュースではなく、植物用の栄養剤だった。
濃厚なそれと水を、交互に飲んでいる。
流石に濃い様だが、それで良いのだろうか。
修は木人ではないので、永遠に分からない。
腹も膨れ、夕食の食材も買った。
家で三人揃い、まったりと飲み物を飲んでいると、ポーラが立ち上がった。
そしてとてもいい笑顔で言った。
「では訓練をしましょう」
ポーラはいい感じで脳筋になっていた。
間違いなく修の影響だろう。
「?!」
カファは愕然とした。
呆然とするカファを引きずって、ポーラが出て行く。
修も二人の後をついて行ったが、引きずられていくカファを見ていると、何故かド○ド○を思い出した。
カファのダウンは、当然の如く早かった。
「……」
体力がそう簡単に戻るわけがない。
カファは倒れ伏しながら、修に飛びかかっては弾き飛ばされるポーラを見た。
(化け物達め…)
実に正しいことを思っていた。




