78話 サボリ
ドラゴンはどえらい値段になった
小さくて少ないのに、ミラードラゴンより高かった。
レベル90台の魔物の素材などで回ったことなどないのだから当たり前のことではあったが。
カマンに夕食を御馳走になり、帰った。
装備が多かったのでカファに装備を一式装備させたが、中々格好良かった。
カファの分の家具は揃えていなかったので、その日、カファはポーラのベッドで寝てもらった。
ポーラは当然のことながら、修のベッドで寝ていた。
当然の如く、とってもハッスルしていたが、突如修の部屋の扉が開けられた。
「うぉぅ?!」
ちょっと集中ていた修は、開けられてから初めて気づいた。
そこに立っていたのは、カファだった。
カファの表情の読めない目が、修とあられもない状態のポーラを見据えた。
ちょっと恍惚とした顔で、口の端から涎すら流して意識を飛ばしていたポーラは、遅れて気付いた。
「……はへぇ?…ひっ、ひゃあああああああああ!!!」
とっても情けない悲鳴をあげて、慌てて布団に包まった。
頭から布団を被ったが、ぶるぶると震える尻尾が出ていた。
頭隠して尻尾隠さず。
新しいことわざが生まれそうだ。
そして乱入したカファが一言だけ呟いた。
「……うるさいです」
隣の部屋から大音量が聞こえてくるのだ。
至極当然の苦情だった。
奴隷としてはどうかと思うが。
「……ごめん」
修は素直に謝った。
カファは無感動な瞳のまま、扉を閉めて部屋に戻った。
「…………」
ポーラは布団の中で凹んでいた。
その日は、当然の如くもう致さなかった。
翌日、家具を買いに行った。
カファは何が欲しいかも言わないので、まだ凹んでいるポーラが選んでいた。
カファに確認を取っていないが、大丈夫なのだろうか、と修はカファを見てみた。
「……」
カファはやっぱり無感動な目をポーラに向けているだけだった。
特に不満は無さそうだ。
カファの部屋は、修の部屋から遠ざかった。
そして陽の一番当たる部屋を割り振られた。
放っておくと、一日中部屋から出てこない。
物音すらしないので、修が不安になって見に行くと、陽の当たるところでぼーっと突っ立っていた。
木人は不思議だ。
陽の動きに従って僅かに動いているので、寝てはいないはずだ。
木人は更に不思議だった。
修とポーラが食事を取っていても、全く食べようとしない。
見向きもしないし、準備すらされていない。
ポーラが呼んだら一応来たが、カファの前には水だけが置いてある。
「……食べないの?」
「……はぁ」
修が問いかけたが、カファは気の無い返事だ。
「大丈夫です。彼らはあまり食べません」
ポーラが教えてくれたが、なんだか悪い気がする。
「……」
カファは気にした様子も見せず、今気づきました、と言った風にコップを持ち、水を一口飲んだ。
と、突然カファが止まった。
カファは残りの水を一口で飲むと、水差しを持って、狂ったように水を飲み始めた。
「……ええ?」
水差しは、カファの為にポーラが買ったものだ。
大きくて、3リットルは入るだろう。
それをガブ飲みしている。
修が呆気に取られてみていると、ポーラが口を開いた。
「栄養剤を入れてありますので」
植物用の。
カファはあっという間に水を飲み切った。
後はぼーっと座っているだけだった。
不思議すぎる。
翌日、迷宮に連れて行った。
懐かしすぎる一層だ。
修はカファの様子を一日見て、益々不安になっていたが、ポーラは「大丈夫です」と繰り返していた。
一層に入ってすぐ、ポーラがカファの肩に手を置き、ゆっくりと言い聞かせている。
「カファは盾役です。あなたが防いで私が攻撃です。分かりましたね?」
何だか、子供に教え込んでいるかのようだ。
言葉も実にゆっくりと発している。
「・・・・・・・・・・・・・・はぁ」
カファが無感動な瞳のまま、ぽつりと呟いた。
本当に分かっているのだろうか。
しかしポーラは伝わったと確信しているようだ。
「では、まずは受けてみましょうか。装備は非常に良い物ですので心配は要りません」
ポーラがカファの背中を押す。
「・・・・・・・・・・・・・・はぁ」
カファがのそのそと歩き始めた。
やはり、一応わかっているのだろうか。
懐かしきブルーラビットと出会った。
「駆け足!」
ポーラがカファに叫んだ。
のそのそと歩いていたカファが、ちゃんと走り始めた。
なんだか、とってもだるそうな足運びだったが。
ブルーラビットはカファめがけて、どたどたとあわただしく足を動かして突進してきた。
そのまま地を蹴り、カファめがけて頭突きを仕掛けて来る。
「停止!」
ポーラが叫ぶと、カファは止まった。
ちゃんと動けるではないか。
「……」
カファがブルーラビットを受け止めた。
受け止めたと言うよりも、大盾がカファの体を覆っているので、当然ぶつかったと言うべきか。
お互いの速度が衝突したと言うのに、カファは全くぶれなかった。
代わりに、ブルーラビットが弾き飛ばされたくらいだ。
ポーラが続けて叫ぶ。
「良い感じです!そのまま受けてみてください!危ないときはすぐに言うのですよ!」
「……はぁ」
カファは、ブルーラビットの跳び蹴りを受けながら呟いた。
ブルーラビットは結構動き回り、色々な角度から蹴りを放ってきているが、カファはのっそりと動いて、きちんと盾で受けている。
昨日家で突っ立っていただけの人間とは思えぬ。
全く問題なく、何度も何度も受け止めていた。
頃合いを見計らって、ポーラがブルーラビットを切り捨てた。
一撃だった。
成長した物である。
ポーラは剣を収めながら、カファに歩み寄った。
「何か問題はありましたか?」
「……いえ?」
何故疑問形なのだろうか。
修はとっても気になったが、ポーラは気にもしない。
「では続けましょう。魔物が来たら、あのタイミングで動くのですよ」
ポーラは先生役をちゃんとしている。
カファを褒める様に言っていたが、
「……はぁ」
カファは相変わらずだった。
数匹のブルーラビットと戦ったが、カファは全く問題なかった。
盾を構えている場所以外に攻撃をされても、ちゃんと盾で防ぐ。
流石に痛いのは嫌なのだろうか。
そんな中、ポーラがメテオドラゴンの剣を振った。
カファの目の前に立っているブルーラビットが燃え盛った。
「あ」
火の粉が一粒、カファに向かって飛んだ。
その瞬間、カファが俊敏に大盾を構えて火の粉を防ぎ、同時に大きく後ろに飛んだ。
「ぅあっちゃぁぁぁああっ!!!」
とっても機敏な反応で、元気な叫び声をあげながら。
あなたに火の粉は当たっていませんよ。
「……」
修は理解した。
サボってるだけなんだ、木人
カファさんは空気キャラです。
空気キャラになるまではある程度書きますが、基本戦闘しか出て来なくなりますよ。
イチャコラの邪魔はさせんよ・・・!!




