06話 実は優秀
とりあえず、ウサギの皮をポケットに突っ込み、二人は歩き始めた。
しばらく歩くと、ポーラの鼻が動いた。
「あ、来・・・「来るね」
ポーラが口を開くと同時に、修が呟いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ポーラはこっそりいじけた。
狼の獣人の一番の有用性は、その鼻だ。
魔物の臭いをかぎ分け、不慮の事態に備えるのだ。
しかし、修はほぼ同時に、むしろ少し早くに何故か接近を感知するのだ。
凹むポーラをよそに、またブルーラビットが現れた。
「ポーラ、一人でも行ける?」
修がポーラに問いかけた。
「・・・・・・・・・・はい」
ポーラは気を取り直して剣を構えた。
身体能力に優れた獣人なのだから、1、2層くらいならば一人でも戦える自信はある。
剣も素人という訳でもない。
故郷でも、迷宮外とはいえ何度も戦ったことがある。
「じゃあちょっとやってみて。危なそうだったら助ける」
「はい」
ポーラが駆け出した。
どすどすと駆けて来るブルーラビットが、ポーラに狙いを定めたようだ。
微かに方向を修正し、ポーラに向けて一直線に駆ける。
そして、地を蹴った。
ブルーラビットが、真っ赤な目を閉じて頭からポーラに向かってすっ飛んで来た。
頭突きだ。
「おお」
修が嬉しそうに声をあげた。
ちょっと可愛かった。
が、あの勢いなら、直撃すると下手すると内臓が破裂するだろう。
ポーラは身軽な動きで、ひらりと身をかわした。
すれ違いざまに剣を横腹に突き立てる。
ビクッ!とブルーラビットが痙攣し、地面にヘッドスライディングする。
しかしすぐ様立ち上がりポーラに向かって駆け出した。
またブルーラビットが飛んだ。
今度は跳び蹴りだった。
「ほぉ」
修が感嘆した。
中々シュールな光景だった。
ポーラはまたひらりと身をかわすと、再度横腹に剣を突き立てる。
ブルーラビットが、またぶるりと痙攣した。
ブルーラビットはそのまま着地し、ポーラに背を向けたまま飛んだ。
後ろ足を伸ばしていた。
飛び後ろ回し蹴りだった。
「何と」
修が呻いた。
とてつもなくシュールだった。
顔を狙ったその蹴りを、ポーラは頭を屈めて、回避した。
保険の為だろう、盾を頭に添える様にして回避しきり、またブルーラビットに剣を突き立てる。
びくっ!とまたブルーラビットが痙攣する。
そこからも、ブルーラビットは飛び跳ね続けた。
ウサギの癖に、グラップラーだ。
なるほど、常人では敵うまい、と言う動きをしている。
しかし、ポーラは冷静にそれを見つめて回避する。
危ういところを感じさせない動きで避け、剣を突き立て続ける。
10数回ほど剣を突き立てると、遂にブルーラビットは地面に倒れ込んだ。
そして一瞬で、ウサギの皮に変化した。
「お疲れ様」
ポーラがウサギの皮を拾いながら首を振った。
「ありがとうございます」
何処となくやりきった感がある。
通常の奴隷であれば、ブルーラビット相手に単身で、しかも無傷で勝てるものは非常に少ないだろう。
それをやりきったのだ。
しかし、奴隷の常識もしらない修にとっては通じはしないが。
「あと一匹くらいで帰ろう」
修が提案する。
ウサギの皮が、意外にもこもこしていてかさばる。
ポケットがパンパンになってしまう。
「はい」
ポーラも頷いた。
次の一匹はすぐに見つけた。
「サンダーシュート!!」
すぐに皮になった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
帰り道でも、更に一匹で現れた。
「セイッ!!」
修は頭突きをかましてくるブルーラビットの眉間に、真正面から拳を叩き込んだ。
皮になった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ポーラは眩暈を覚えた。
ブルーラビットの攻撃に正面から打ち返すなんて聞いたことは無かった。
迷宮を出ると、ポーラの言うことに従って、ギルドに向かった。
そこで、拾ったアイテムと換金してくれるらしい。
「はい。ウサギの皮4枚ですね。少々お待ちください」
先ほどと違う受付が対応した。
渡されたのは、銅貨2枚だった。
ギルドを出て、修はこっそりポーラに聞いた。
「通貨について教えて」
「は?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
ポーラはどこか可哀想な物を見る眼で修を見つめた。
銅貨、銀貨、金貨、朱金貨、白金貨があるらしい。
銅貨10枚で銀貨1枚
銀貨10枚で金貨1枚
金貨10枚で朱金貨1枚
朱金貨10枚で白金貨1枚
聞いた感じでは、銅貨は十円、銀貨は百円、金貨は千円、朱金貨は一万円。
白金貨は10万円だ。
200円しか貰えなかったのか、と思ったが、それでも宿で一泊する位は余裕らしい。
貨幣の価値が良く分からん、と修は思った。
帰り道に、二人分のリュックを買った。
銀貨2枚だった。
帰宅後、賞金を数えてみた。
朱金貨6枚と金貨8枚だった。
びびった。
あの盗賊は余程強かったのだろうか。
ポーラから迷宮についての話を聞いた。
曰く、一層からでも命の危険がある。
十層まで行ければいっぱしの探索者となれる。
迷宮は幾つもあり、最奥を攻略すれば自然と消えてなくなる。
各層にはボスがいる。
深くなるにつれて魔物は強くなる。
魔物は基本的に一体しか出てこないが、上層であれば一匹でも強敵になる。
そのため、PTを組んで戦うのが主流だそうだ。
そのPTも基本は4~6人となる。
6人までは大丈夫だが、それ以上だと何故か解散されるそうだ。
等と聞いていると、ノックされた。
「お食事がまだの様でしたらご一緒にと、カマン様が・・・」
メイドが控えめに言ってきたので、修は頷いた。
何だかよく分からない料理が並んでいた。
喰えるものは何でも喰うと体に染み込んでいる修は平気でがっついた。
しかし、ポーラは後ろに控えている。
メイド達もずらりと控えている。
食事をしているのは、修とカマンだけだった。
そういうものなのだろうか、と修は考えた。
食事の手が収まってくると、カマンがニコニコと笑いながら話しかけた。
「ポーラはどうでしたかな?中々使えるでしょう?」
修は取りあえず頷いた。
「そうですね。ブルーラビットと一人で戦えていました」
カマンは実に満足そうに頷いた。
「そうでしょうそうでしょう。一人で魔物と戦えるとは、実に優秀な娘です」
そうなのか、と修はこっそり思った。
メイド達も軽く目を見張ってポーラをチラチラと眺めていた。
「・・・そうですね。はい、ほんと」
修が何度もうなずくと、カマンが実に嬉しそうだった。
「しっかりと仕えているようで安心しました」
「ははは。助かってます」
その後も暫く雑談というか、カマンの苦労話が続いた。
話題が途切れたころに、修が切り出した。
「ところで・・・」
酒を飲んで、頬が染まっているカマンが首を傾げた。
「はい?」
「家を買おうと思えば、どれくらいかかるんでしょうか?」
金もかなりあるため、長期滞在するのは流石に悪いと思ったのだ。
カマンは少し考えた。
「朱金貨三枚あれば、大抵のところには住めますな。・・・・・もうしばらく滞在して頂いてもよいですよ?」
最後に言って来る。
修の考えはお見通しのようだった。
「はは・・・。あまりお世話になっているのもどうかと思いまして」
修も苦笑して返した。
カマンは少し残念そうな顔をしたが、すぐに切り替えた。
「・・・そうですか。分かりました。また家を探しておきますので」
修は素直に頭を下げてお願いした。
「すいませんお願いします」
「他に入用があれば何でもお申し付けください」
「お世話になります」
修は頭を下げっぱなしだった。