77話 ライバルは増えない
昼から潜って、夕方前には迷宮を出た。
この日は軽く調子を確かめた程度だ。
シノビキャットは中々できるので、確かめるには丁度良い。
確かめた結果、変態効果でポーラのレベルが上がっているので、シノビキャットでも楽になっていた。
それよりなによりも効果があるのがわかったのは、メテオドラゴンの剣だった。
攻撃的な名前だった分、攻撃力も高いのだろうか。
理屈は分からないが、とにかく強かったのだ。
それはもうびっくりするほど。
そんな訳で、少しの時間でも、ポーラの分のリュックがいっぱいになった。
儲かることである。
帰りに食材を買いに行くと、カマンが待ち受けていた。
とっても良い笑顔を浮かべていて、そのまま屋敷の中に招待された。
「お久しぶりですな!シュウさん、ポーラ」
久々に見たカマンは、やはりラマンとそっくりだった。
ラマンを少し老けさせて、横に伸ばせばカマンの完成だ。
カマンの他の親族がとても気になって来る。
そんな失礼なことを考えながら、修も挨拶を返した。
「はい。お久しぶりです」
「お久しぶりです」
ポーラも、こっそり修と同じことを考えながら頭を下げた。
段々似てきている。
「元気そうで何よりですな。・・・温泉はどうでしたかな?」
カマンが人の良い笑顔を浮かべて聞いて来る。
自然と心を開きたくなるような笑顔だ。
こういう顔が出来るから、商売が上手くいくのかもしれない。
「最高でした!・・・・こっちでも作れませんかねぇ?」
修がカマンをチラチラするが、カマンは難しい顔をした。
「うーむ。流石にどこで出るかもわかりませんしなぁ」
そもそも、この辺りに温泉が無いのかもしれない。
修は、今度こっそり地下を探ることを決意した。
それはそれとして、もう一つの案をカマンに打ち明ける。
「・・・銭湯って言うものがありまして」
「・・ほぅ?どんなものですかな?」
カマンも興味深げに身を乗り出してきた。
修が説明すると、カマンはしばらく悩んでいたが、結局首を横に振った。
コストがかかりすぎるそうだ。
修は凹んだ。
もう地下10KMくらいまでなら掘り返して温泉を探してやろうかとすら考える程に。
穴だらけになってしまう。
次にカマンは、ポーラの腰に吊られている剣を見た。
「ところで、ポーラの腰にあるのは・・・」
カマンは見たことのないものだ。
しかし、カマンの声には期待が籠っていた。
「温泉のとこの山にいた、ドラゴンのですね」
凹んでいる修の代わりに、ポーラが答えた。
「おお、やはり!!・・・ちなみに残りの素材は?」
やはりって。
ドラゴンがいることを知っていたのだ。
そして修が倒すことを期待していたのだ。
流石商人、しっかりと腹黒い。
ポーラが修をちらりと見た。
その視線を受けた修が口を開く。
「思ったより、小さかったんですよね。だからあんまりないです。ラマンさんにも少し売りましたし」
凹んでいる修は力なく呟いた。
「ラマンに!?むぅ・・・」
ラマンの名前を聞いて、カマンは難しい顔をした。
身内の、思わぬ競争相手の出現に驚いた様だ。
ラマン達に修が強いと自慢したのも、カマンだが。
「残りで良ければ、お売りしますが」
修が実に投げやりに言った。
お湯に浸かれないのがそんなに嫌なのだろうか。
その割には面倒臭がって、自分で風呂は焚かない。
実に人間らしい。
「助かります!!」
カマンは即座に反応した。
流石である。
ドラゴンの死体(解体済み)をカマンに渡すと、カマンの使用人たちが現れた。
そして修とポーラ、カマンの前で値段を調べ始める。
どえらい値段になることは間違いないので、くすねない様に見張る意味もあるのだ。
多少時間はかかるだろう。
その間に、今度はカマンにお願いしていた装備が運ばれてきた。
「こちらが大盾ですね」
まずは、大盾だった。
温泉の村の鍛冶屋のおっさんが言っていた品だ。
「お、ありがとうございます」
でかい。
マジででかい。
少し体勢を変えれば人の体を隠せるくらいだ。
これを持てば攻撃は防げるだろうが、こちらからも攻撃は出来ないだろう。
「後、装備一式、と言うことで・・・」
次に運ばれてたのは、純銀の装備が一式。
ミスリルだろう。
盾は別で買うと言っておいたので、無かったが、
「あ、剣もあるんだ」
代わりに、剣があった。
大盾を持たせるので、剣は必要なかったのだが。
ポーラに持たせても良かったのだが、今ではドラゴンの剣二刀流だ。
ぶっちゃけ、ミスリルの方が格が落ちてしまう。
「む?一式とお聞きしましたので・・・」
確かに、一式、とお願いした。
普通は剣もつける物だろう。
「あー、なるほど」
修は大人しく、ミスリルの剣も買った。
金も腐るほどあるし、更にメテオドラゴンの素材でウハウハだろう。
素晴らしい散財具合である。
最後に出て来たのは、装備品ではなかった。
「木人の奴隷ですね」
お願いしていた、木人さんが現れた。
身長はそれほど高くは無い。
緑色の太い髪に、表情の全く読めない目。
むしろどこを見つけているのだろうか。
木人の視線を先を追って見たが、そこには壁しかなかった。
「カファと言う名前です。まだまだ若いので、十分に働けるでしょう」
カマンがそう言って、カファと言う木人の背を押した。
背中を押されたカファが、一歩前に進み出た。
「初めまして」
とりあえず、修がファーストコミュニケーションを図った。
まず1秒後に、カファの目が修を見た。
更に一秒後に口を開いて、更に一秒後に頭を軽く下げた。
「・・・・・・・・はじめまして」
スッゲースロゥリーな感じだ。
「迷宮潜るんだけど、大丈夫かな?」
不安に駆られた修がカファに問いかけた。
カファは、やはり一秒後に首を傾げた。
「・・・・はぁ」
そしてYES/NOの返事を返してこなかった。
「・・・・・・・・・・・」
修はとっても心配になった。
「大丈夫です。木人なので」
しかし、ポーラが言ってきたので、信じることにした。
マジで不安が残ったが。
カマンが何事かをぶつぶつと呟くと、修とカファが何かで繋がった。
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LV.1
カファ
木人:-
16
『奴隷』
主
カンザキ シュウ
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ちなみにカファ、修以上に性別の分からぬ顔をしているが、性別も性器も性欲も無い。
森の中で勝手に生えて来る、不思議種族だ。
ポーラさんがライバルを増やす愚を冒す訳がないのである。
ポーラ様は本当に頭の良いお方




