76話 意味が分からない
サムハン達と分かれて、家のあるファウスの街に向かった。
荷物をかなり買い込んだので、流石に小形の馬車を借りた。
とっても安全で、快適な旅だった。
意外にも、修は馬を走らせることが出来た。
その為、業者台に修が座り、のんびりと走らせていた。
ポーラは修の隣に座り、ニコニコ顔で擦り寄っていた。
ポーラは、徒歩は徒歩で長く楽しめたので良かったが、これはこれで良かったかもしれない、と考えていた。
歩いている時は流石に密着できないのだ。
盗賊にも魔物にも出会わない、安全な旅路だった。
そして遂に、ファウスの街に辿り着いた。
まずはカマンの屋敷に向かい、預けていたお金を回収した。
カマンは不在だったが、依頼した物は揃っているそうだ。
「買って帰られますか?」と使用人さんに言われたが、後日カマンが居る時に、とお願いした。
メテオドラゴンの素材も一緒に売りたいし、直接礼も言っておきたい。
それに、家に帰ったら掃除とか色々しないといけないのだ。
あまり時間は使いたくなかった。
修とポーラは、こそこそと移動していたが、やはり時間がたったおかけが、以前の様な騒ぎは起きていなかった。
修のことで騒いだせいで、修が居なくなったと噂された結果でもある。
その噂は、旅立つ前にポーラがカマンに頼んで、それとなく流しておいてもらったものだ。
そのおかげで、遠巻きには見ても、騒ぎ出すことは無くなっていた。
ホッと一安心だ。
久々の我が家に入った。
カマンが気を利かせて、定期的に軽く掃除をしてくれていたそうだ。
とはいっても、流石に生活していない家は埃っぽい。
修とポーラは、二人がかりで掃除をした。
ポーラは、特に修の寝室と厨房の掃除を念入りにしていた。
厨房は分かるが、寝室はどういう意味かな、ポーラさん。
他の場所はある程度のとこで切り上げ、食材の購入に行った。
そして、ポーラが久しぶりに自宅で腕を振るった。
ポーラは細腕で、でっかいフライパンを振るっていた。
フライパンで踊る食材の量は、とても二人分とは思えぬ。
お肉も野菜もたっぷりだ。
修とポーラは、がつがつと貪った。
「やっぱり、家でのご飯は美味しいね」
修の腕が、残像を発生させながら肉も野菜も差別なく貪っていく。
「はい」
ポーラも、残像までは発生させることはできないが、恐ろしい勢いで動いていた。
肉肉野菜肉野菜、肉肉肉肉肉野菜のリズムだ。
ポーラは肉食なのだ。
必然的に、修の野菜摂取量が増える。
しかし、修は全く気にせず貪り続ける。
「ポーラの腕が良いからかな」
修が舌鼓をうちながら、ポーラを褒めた。
「・・そんな、ありがとうございます」
ポーラは嬉しそうに微笑んだ。
断らない。
ポーラさんは、存外に図太いのだ。
その日の夜、ポーラさんは新しく入手した装備を身に着けて修の部屋に現れた。
ヒラッヒラのスッケスケだった。
そして当然の如く、朝まで一緒に居た。
修が目を覚ますと、ポーラは布団の様に修に圧し掛かって寝ていた。
ポーラの甘い匂いが鼻をくすぐり、押し付けられた胸の感触が素晴らしい。更に、細い手足が修に絡みついている。
動けぬ。
何時の間にこんな技を習得したのだろうか。
修は密かにベッドを大きくすることを決意した。
寝れることは寝れるが、流石に二人では狭くなってしまう。
翌日早速買いに行った。
ベッドを探す中で、家に入る、かつ大きな物を探した。
運ぶ心配はしなくても問題ない。
なんなら、修が指先一つで持ち上げるだろう。
そして明らかに複数人が使用する用のベッドを発見した。
「コレください」
「あいよ!毎度あり!」
修がおっさんに購入を告げると、おっさんが飛んで来た。
値段やら、運ぶ人手はどうとか話している間に、おっさんの妻だと推測できるおばちゃんがポーラに近づいて来た。
「お盛んね」
おばちゃんは口元を隠して、ポーラに好色な瞳を向けて囁いた。
「・・・はい」
ポーラは頷いた。
そこは否定する場所でしょう、ポーラさん。
おばちゃんは案の定、「グヒュフフフ」と笑っている。
これでしばらくご近所さんの話題は決定である。
ベッドは当然の如く、修が持った。
担いだ、ではなく持っていた。
突っ込みの必要はもう無いだろう。
そして、昼からは、久々に迷宮に潜った。
21層なので、懐かしき、シノビキャットがいるはずだ。
とはいっても、まだ二度しか対面していないが。
早速出会ったシノビキャットは、やはり正座で座っていた。
「では私が!」
ポーラさんがやる気満々で駆けだした。
実際、もうかなり前にはなるが、煙幕でいい感じに苦しめられたのだ。
明らかにシノビキャットの方が大ダメージを受けていたが、あの過去の汚点は忘れていない。
シノビキャットは、ポーラに向き直った。
そのまま頭を下げる。
修はそう信じていた。
が、ポーラの駆けて来る速度を見て、シノビキャットのとても落ち着いた瞳が見開かれた。
「やっ!!」
あっという間に肉薄したポーラが、シノビキャットの頭めがけて剣を振る。
メテオドラゴンの素材で出来た、真っ赤な剣を。
ここで礼などしようものなら、そのままあの世に送られそうだ。
「?!」
正座をしていたシノビキャットが、ポーラの剣戟を後ろに飛んで回避した。
シュバッ!!と、音が聞こえてきそうな動きだった。
ポーラは、シノビキャットがそんな行動を取るとは考えていなかったようで、目を丸くしていた。
流石のシノビキャットも、あそこで礼をしたらどえらいことになることを理解したのだろう。
礼をするどころではなく、逃げ出してしまった。
しかもシノビキャットは、空中ですらりと腰の刀を抜き、更にはくるりと回転して着地姿勢を整えた。
が、真後ろに飛んだのが頂けない。
飛んで来た真っ赤な斬線が直撃した。
剣戟が直撃し、べちゃっ!と壁に叩き付けられた。
更に服が燃え、めらめらと燃えていく。
「・・・・・・」
ポーラは油断なく、燃え盛るシノビキャットを見つめる。
突如、燃え盛るシノビキャットから、ぼんっ!と爆発したかのように煙が弾けた。
「!?」
ポーラは、二歩ほど距離を取った。
煙が晴れると、そこにシノビキャットは居なかった。
炎の中、小さな丸太がめらめらと燃えていた。
「か、変わり身!?」
修が叫んだ。
ポーラは慌てず騒がず、周囲の気配を探った。
合わせて、鼻を鳴らして匂いでもシノビキャットを探す。
奇襲をされても、防ぎきれる自信があるのだ。
「・・・・・・?」
だがおかしい。
どこにも、シノビキャットの気配が無い。
辺りを見回したポーラは、再び燃えている丸太を見た。
もう火は消えていた。
丸太も無かった。
代わりに、『またたび酒』があった。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
修とポーラは理解した。
変わり身などしていない。
どこかからか取り出したであろう、丸太の中に、シノビキャットが潜んだのだ。
そして燃え尽きた。
意味が分からない。




