73話 危機一髪
既に村での恒例行事になりつつある、修とポーラの訓練。
その気配を感じた暇な人が、ぞろぞろと見学に集まる。
「行きます!」
ポーラが二本の剣を構え、駆けだした。
右手にメテオドラゴンの剣、左手にミラードラゴンの剣。
強い方を、利き手に持ったのだ。
実に凛々しい姿だ。
「来なさい!」
対する修は、構えもせずに迎え撃つ。
いつものことだから、誰も突っ込まない。
「はっ!」
ポーラは早速とばかりに右手の剣を振った。
ギャラリーの皆さんには、赤い軌跡すら見えぬ実に鋭い攻撃だ。
しかし、修はひらりと回避して、額にデコピンを叩き込もうとした。
ところで目を剥いた。
「「っ?!」」
ポーラも目を見開いた。
ポーラが剣を振った軌跡通りに、赤い斬線が虚空を走っていた。
見た感じ、メテオドラゴンのブレスの極小番だろう。
未だに反応できていない、斬線上にいるギャラリーのおっさんが危ない!!
当然と言うべきかなんというべきか、修は斬線に追いついた。
「っぶねぇ!!」
そして拳で消し飛ばした。
ギャラリーの皆さんは、瞬間移動したように見える修に眼を剥いて驚いた後、「おお~!」と騒いで拍手していた。
危うく逝きかけたおっさんも、気付きもせずに拍手してくれている。
「す、すいません・・・」
ポーラが修に頭を下げて来た。
危うく罪のない一般ピープルを殺してしまうところだった。
斬殺か、焼死のどちらになるかは分からないが。
「それは街中では禁止だね・・・」
修がメテオドラゴンの剣を見つめて呟いた。
下手に扱うと、どえらいことになる。
「はい・・・」
ポーラも申し訳なさそうにしたまま頷いた。
「けど、どういう原理なんだろう・・・」
修がまじまじとメテオドラゴンの剣を見つめる。
どう見ても普通の剣で、火が出る構造とか入っている様には見えない。
魔法的なアレだろうか。
「さあ・・・」
ポーラ先生も首を傾げた。
この時点で、修にはもう分からないことは確定だ。
ちなみに、実際にこしらえた鍛冶屋のおっさんは、気持ちよく寝ている。
非常に危ないので、修とポーラは村から出た。
訓練を見れなくなると分かると、ブーイングが入った。
見世物だと思われているのだろうか。
ポーラがメテオドラゴンの剣を振り、道端の木の枝を燃やすと、ブーイングは収まった。
納得してくれたのか、恐怖したのかは半々といったところだろう。
辺りに燃える物が無い場所まで来て、ようやく訓練を再開できた。
ベビン
「あぅっ!!」
訓練と言う名の、デコピン耐久大会かもしれない。
しばらく続けるうちに、当然の如くポーラがバテてきた。
力の抜けた攻撃を、修が回避し、無情なデコピンを行おうとしたところで、それに気づいた。
「・・・・あれ?」
デコピンを止めて後ろを見る。
火が出ていなかった。
「あれぇ?」
修が首を傾げる。
グロッキーなポーラは、そんな修の様子に気づかず、左手の剣を億劫そうに振って来る。
「うーん」
それを見もせずに回避して、修は腕を組んだ。
ポーラに教えてやるべきか。
いやでもまずは。
ベビン!
「・・・・」
ポーラは無言で、ばったりと倒れ伏した。
スパルタン。
ある程度ポーラが回復するのを待ってから教えてあげた。
「さっき出てなかったよ」
「・・・・そうでしたか?」
ポーラは億劫そうにふらふらと立ち上がり、メテオドラゴンの剣を振った。
両手だった。
まだ片手で振るほどの体力は戻っていないようだ。
火が出なかった。
「お・・・ほらね」
修が感心した様に言った。
どういう原理かは、もうどうでも良い。
それよりも、あの鍛冶屋のおっさんは何者なのだろうか、ということが気になる。
それともこの世界の鍛冶屋はみんなできるのだろうか。
謎は深まるばかりだった。
「・・・・ほんとう、ですね」
未だ全身から汗を吹き出しているポーラが、途切れ途切れに言った。
その後も、数回振ってみる。
出る時と出ないときがあった。
「やる気があると出るみたいだね」
どうやらそういう原理らしい。
そういえば、最初に素振りしていた時も出ていなかったように思える。
本当に不思議で仕方がない。
「・・・・・・・・・・そのよう、ですね」
ポーラは、疲労で足がガクガクしている。
ここまで頑張らなくてもよいのに。
「でもまぁ、やっぱり街中では禁止だね」
ポーラさんは訓練中はやる気いっぱいなのだ。
訓練中には火が飛び出てしまうことだろう。
結局、街中では危険すぎて使えないと言う結論は変わらなかった。
そして、結論が出ると同時に、ポーラは再び地面に崩れ落ちた。
「・・・・・・・・・・はい」
暫く休憩だ。
流石のポーラさんでも、すぐには体力は回復しきらない。
修が背負って連れて帰った。
汗の匂いを気にしたポーラが必死に断ろうとしたが、そんなこと気付きもしない修は、無慈悲に背負った。
おかげで、帰り道のポーラはとっても凹んでいた。
ちなみにポーラはとても甘い匂いがしました。
宿につくと、修はポーラを剥いて温泉に運んだ。
とてもやさぐれた目をしているポーラは、まるで人形の様にされるがままだった。
体を洗ってやり、温泉に浸からせた。
そこでムツ○ロウさんばりのよしよし攻撃をすると、ようやく持ち直してきた。
「シュ、シュウさまぁ・・・」
ポーラの目が妖しく輝いていて、鼻息が荒い。
やり過ぎた。
ちょっと手で相手をしてみたが、ポーラさんはすぐにダウンした。
失われた体力はすぐには戻らないのだ。
結局夕食まではまったりした。
それにしても、温泉に人が増えて来た。
営業を再開したためだろう。
それに頭を悩ませていたドラゴンが死んだのだ。
更に、そのドラゴンを倒した修も、段々有名になって来た。
隠すと言うことを考えれない残念な子なのだ。
修もポーラも思う存分温泉も楽しんだ。
ポーラのレベルも上がった。
何か装備も強くなったし、高そうなドラゴンの素材も手に入った。
その気になれば、一日で来れる距離であることも分かった(修限定)
ちょっと走ればすぐなのだ。
その為、そろそろ帰ることにした。
温泉に着くのが長かった割に、もう帰ります




