72話 爆発すればいいのに
ポーラさんが倒れるというちょっとした事件が起きたが、おおむね平和だった。
そして修とポーラが泊まる宿は、ハイグレードだ。
「うめーうめーうめー」
山の幸をふんだんに使った料理に修が舌鼓をうつ。
「これもなかなか・・・」
修の影に隠れて、ポーラも目立たぬが、もりもりと肉を貪っていた。
実に肉食。
体調を崩したら、食べて回復する人なのかもしれない。
流石の修も、数日お世話になるつもりだったので、食いだめはしなかった。
それでも大概の量を喰っていた。
翌日から修は狂ったように温泉に浸かった。
それはもう本当に。
「ふー」
溶けて消えてなくなりそうにすら思える。
「はふぅ・・・」
ポーラも、先日の醜態をさらした後でも温泉に浸かった。
前回は入りすぎただけで、やはり気持ちいい物は気持ちいい。
「温泉とは、いいものですね・・・」
ポーラは、やっぱり修にくっつきながら囁いた。
ポーラが動くたびに、髪が修の首をくすぐる。
「でしょ?街にも出来ないかなぁ・・・」
修がポーラを抱き寄せながら呟いた。
「出来ると良いですね。毎日通いたいくらいです」
ポーラも全く抵抗せず、むしろ腕を回して修に抱き付いた。
「うんうん。カマンさんにお願いしてみようかな」
修がポーラの背中を撫でる。
「・・・流石に温泉は無理ではないでしょうか」
ポーラ嬉しそうに微笑み、頬を修の首元に擦りつけた。
「いやぁ、銭湯っていうのがあってね・・・」
修は擽ったそうに笑い、ギュっとポーラを抱きしめた。
ポーラが一段と嬉しそうに微笑んだ。
爆発すればいいのに。
「シュウ様、お背中お流し致しますね」
ポーラも段々と温泉のしきたりを学んでいった。
もう何度目かも分からぬが、ポーラが修の体を洗う。
初めは布で洗っていたが、最近は体を使って洗ってくれる。
この大きなスポンジは非売品です。
それにしても、ここはどこのお店ですか?
そんな桃色空間を作っている。
「よし、今度は俺が洗うよ」
修もポーラの体を洗う。
流石に体では洗わない。
洗える様な部位が無いのだから仕方ない。
そして二人で温泉に浸かる。
「「ふ~」」
ポーラさんはやはり修に絡みついて来る。
実に素晴らしい感覚が得られるのだが、熱くないのだろうか。
とはいっても、流石のポーラも、倒れた後は修と最後まで付き合わなくなった。
申し訳なさそうにしながらも、修より先に温泉からあがるようになった。
人間は成長する生き物なのだ。
「申し訳ありません・・・。お先に上がりますね・・・」
茹蛸になりかけたポーラが、やはり先に立ち上がった。
前を隠しもしない。
実に素晴らしい眺めだった。
やはり、小川と温泉では違うのだろう。
「うん。無理しない無理しない」
修はポーラに笑いかけた。
「はい・・・」
申し訳さなそうにしながらも、ポーラは去って行った。
流石に、もう一度運ばれるのは恥ずかしかった。
ポーラの素晴らしいお尻と尻尾を見送った修は、歌い始めた。
「い~い湯だ~な~♪」
とても18歳とは思えぬ。
そして、初日はポーラがダウンしたためにゃんにゃんできなかったが、翌日からは大いにハッスルした。
「昨晩はお楽しみでしたね」と、女将さんに言われたほどだ。
女将さんは口元を隠して、「ぐふふ」と言いそうな口を隠しながら言っていた。
「いやー、はっはっは」
修は頭をかいて誤魔化した。
ちなみにポーラは頬を染め、恥ずかしそうに「いやんいやん」していた。
修とポーラも、ただ狂ったように温泉に浸かるだけではなかった。
毎日、しっかりと訓練をしていた。
レベルが超上がっているポーラは、目を丸くしたが自信を持った。
(体が軽い!)
今まで全く修の動きを見切れなかったが、今ならばあるいは・・・!
そんな自信が沸いて来る。
ベビン!
「あぅっ!!」
気のせいだった。
ちゃんと強くはなっていたが、修の力はそれどころではなかった。
ただ、デコピンを今までの3倍ほど耐えれることが分かったのが分かりやすい成長だった。
哀れなことである。
「はい、立ってー」
そして修は相変わらずスパルタだ。
「・・・・・・・はい」
ポーラは立ち上がり、修に斬りかかった。
その光景は、村の人の注目を浴びた。
そもそも、ポーラの攻撃を見える人が居ない。
とっても美人なのに、鬼強い人と認識された。
そしてそのポーラも、修には手も足も出ない。
残像を残して修に飛びかかったかと思えば、弾き飛ばされていく。
段々と腫れていく額が痛々しい。
「がんばれー!!」
ポーラには声援さえ送られている。
ベビン!
「いっ!!」
ポーラがまた額を押さえて倒れた。
「手加減してやれよー!」
不憫に思った人が修に向かって叫んだ。
「いやぁ、それじゃあ訓練になりませんよ」
やはり修はスパルタだった。
そうこうしているうちに、武器が出来た。
鍛冶屋のおっさんはヘロヘロになっている。
超大作の予感を感じる。
ちなみにその頃には、申し訳なく思った修も、宿に料金を払っていた。
宿の人達も受け取ってくれた。
喰いすぎたのだ。
「カッケー!!」
修がキラキラと瞳を輝かせていた。
やはりドラゴンの鱗で出来た鞘と、角とかで作られた剣だ。
あんまりにも修の目が輝いているので、ポーラも修が使うのかと思ったほどだ。
しかし、修はポーラに手渡した。
「はい」
修は、実にあっさりとポーラに手渡した。
「っ?!・・良いのでしょうか」
ポーラは咄嗟に受け取ったが、目を丸くして修を見つめた。
「うん。俺が剣使うと、壊れちゃうし」
修は武器を使えない。
手加減すれば使うことは出来るが、それよりも五体を使った方が強いのだ。
力加減を間違えると、剣とか槍はすぐにへし折れてしまうし。
ちなみに、中二に目覚めてメリケンサックを使ったことがあるが、ワンパンで燃え尽きてなくなった。
高速度鋼で作った特注品だったのに。
その日、修は枕を濡らした。
遠い目をした修を見て、ポーラは空気を読んだ。
「・・・そうですか。では失礼致しますね」
すらりと剣を抜く。
何か赤い。
「おおお・・・・」
カッコよさ倍増だ。
死んだら黒くなっていたのに、どうやったのだろうか。
それは鍛冶職人しかわからない。
「凄いですね・・・」
ポーラはぶんぶんと振ってみた。
やはり、金属製よりも軽い。
順当に考えると、ミラードラゴンの物よりも強いだろう。
メテオドラゴン、ミラードラゴン、ダマスカスソードの、三本の剣を振っていたポーラは、ダマスカスソードを外した。レベルが上がって、左手にミラードラゴンの剣を持っても問題ないと判断したのだ。
「よし、じゃあ訓練だね」
修がポーラに言った。
「はい!」
ポーラも元気に頷いた。
早く慣れておきたかった。




