67話 ゴールデン
次の街への道中は、大したことは無かった。
ちょっと魔物と盗賊と出会ったくらいなので、割愛する。
そんな中で、素晴らしい出来事があった。
小川があったのだ。
体を拭くしかできなかった道中では、とっても助かる。
二人で小川に飛び込んだ。
「気持ちいいねぇ」
程よく冷たい水で体を洗う。
修はそれだけなく、河童の如き勢いで泳ぎ回っていた、
スクリューでも搭載しているのかと思えるほどの速度だった。
「はい・・・」
ポーラも、しっかりと旅の汚れを落とした。
今はぷかぷかと浮いている。
胸も浮いているところを、高く評価したい。
そして、磨いた肌も白く光っている。
「ははは。ほら、ポーラ!」
テンションの上がった修が、どこかの漫画で見た行動を取った。
水を、ポーラに飛ばしたのだ。
しかし、修が行った行動の結果は、可愛らしい物ではなかった。
水の壁がポーラを襲い、飲み込んだ。
「うぶっ!!」
足が付くほどの深さの小川なのに、ポーラが水の中に消えた。
まるで鉄砲水が起きた時の様に、小川が氾濫してしまった。
「ご、ごごごごめん!」
修が、慌てて小川の肥やしになりつつあるポーラを救出に向かった。
何故か渦潮が発生しており、中心にポーラの銀髪が覗いていた。
濡れ鼠になり、呼吸の荒いポーラが、渦潮の中から引っ張りあげられる。
「・・・・・・・・・・いえ、大丈夫です」
修は、何故か流れに全く負けることなく、ポーラを陸に引っ張り上げた。
「あ、ポーラ、胸!」
まさかの命の危険に晒されたが、突然嬉し恥ずかしイベントが発生した。
ポーラの胸を覆っていた布が、渦潮に呑みこまれていたのだ。
むしろ、下に履いているものが脱げていないのが奇跡だった。
ずり落ちかけていたが。
「・・・え?きゃっ!!」
ポーラは修の指摘で初めて気づいた。
死にかけていたのだから仕方がない。
慌てて、たわわに実った胸を、両手で覆った。
お外と室内では違うのだ。
「・・・ごめんね。はい」
修が申し訳なさそうに、ようやく渦潮が消えた小川の中から浮かんできた布を引っ張り上げてポーラに渡した。
ポーラは恥ずかしそうに、片手で胸を覆ったまま布を受け取った。
「いえシュウ様だけですので。・・・ありがとうございまー」
それをつけながら、感謝の言葉を言おうとしたポーラが固まった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一点を見て、頬を引き攣らせている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
修もポーラの視線を追った
そこに、野生のマーマンが居た。
「殺します」
ポーラが剣を二本持って、小川に飛び込んだ。
「・・・はい。ごめんなさい」
修は、真っ先にマーマンの両眼を潰したポーラに深々と謝った。
そんなイチャコラを挟みながら、次の街に立ち寄った。
とても大きな街だった。
更に、中心には大きな建物まである。
「大きいねぇ」
修が目を丸くして建物を見ていた。
「ここには闘技場があるんです。強い方々が集まるんですよ」
ポーラ先生が教えてくれた。
この闘技場は有名らしい。
「へー」
感心したように呟く修に、ポーラが期待半分の目を向けた。
「・・・シュウ様も出られますか?」
ポーラは、修が出れば優勝間違いなしだと確信していた。
実際そうだが。
しかし、修は首を振った。
「いやー、いいよ」
今の修の思考は↓だ。
温泉>|越えられない壁|>闘技場
ポーラは残念そうに呟いた。
「そうですか。シュウ様なら優勝できると思うのですが」
唐突に、声が聞こえた。
「聞き捨てならねーな、お嬢ちゃん」
修とポーラが振り向いた。
そこに居たのは、ゴリラだった。
ゴリラの獣人だ。
大きな体に鎖が巻かれており、その先端に金色の球をぶら下げている。
オリハルコンで出来た球だ。
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LV.50
アスカン
獣人:♂
42
鈍器士LV.52
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何と、ファウスよりも強い。
凄いゴリラだった。
アスカンと言う名のゴリラは、修をじろじろと見つめた後、鼻を鳴らした。
「・・・・はん!ひょろひょろじゃねーか。こんなのが優勝できるほど甘くはねーんだよ」
「・・・・・・・・・・・・」
ポーラが半眼になった。
今にも噛みつきそうな雰囲気だ。
「・・・ポーラ」
修がポーラを諌めようと声をかけた。
「ほれ見ろ。怯えてるじゃねーか」
それを違う意味に受け取ったアスカンが嘲る様に笑った。
遂にポーラが青筋を立てた。
修のことでは、沸点が非常に低い。
「・・・シュウ様はあなたなどには負けません」
まだ辛うじて敬語が残っていることだけは評価できる。
が、口調はゴリラを見下すようなものだった。
「ああん?」
当然、血気盛んなゴリラ(アスカン)が反応した。
二人とも頭に血が上っている。
これはお互いに納まりがつかないだろう。
そう判断した修が溜め息を吐いた。
「・・・・はぁ、仕方ない」
修がとっとと終わらせればいいのだ。
どうせ明日には街を出る身である。
修がポーラの前に進み出ると、アスカンが修を睨め付けて来た。
「俺とやろうってのか?今年の優勝候補筆頭のこの俺と。くく。『黄金騎士』さえいなけりゃ優勝なんざ簡単だぜ」
この時点で勝ち確である。
「・・・貴方がやる気ならば、やりましょう」
修のやる気はどっと下がった。
「ほぉ。度胸だけはあるじゃねぇか。この俺の『ゴールデン・ボール』で楽にしてやるぜ・・・?」
アスカンは、じゃらりと音を鳴らして、オリハルコンの球を持ち上げた。
そのネーミングセンスは危ない。
神が神なら、その世界の住民も大概である。
「・・・いつでも来なさい。ただし、真っ二つだよ」
修が無理矢理テンションを引き上げて構えた。
指パッチンの構えだ。
アスカンは、好戦的にニヤリと笑った。
「ふぅん!!」
そして球を振り回し始めた。
とっても早い。
ポーラが驚愕に眼を見開いていた。
この速度では、修以外には見えないだろう。
しかし、修には見えている。
「ふっ!」
指パッチンを決めた。
狙いすました一撃が、オリハルコンの鎖に直撃して切れた。
遠心力をたっぷり含んだ金の球が、明後日の方向に飛んで行った。
アスカンは、突然武器の重みが無くなったように感じた。
鎖の先端を見て、呆然とした顔で叫んだ。
「・・・無い、俺の玉が無い!」
悲壮な顔でとんでもないことを口走った。
そして、破れかぶれか、修に向かって走って来た。
「俺の大切な玉をぉぉぉおお!」
再び、とても危ないセリフを吐きながら突撃してくる。
修が、やれやれ、とため息を吐いた。
その瞬間、アスカンがニヤリと笑った。
「俺の玉は二つあるぞ・・・・!」
更に危ないセリフを口走って、鎖の反対側を修に叩き付けてきた。
なるほど、小さい金色の球がある。
「・・・」
修は指パッチンを二連発した。
一発は金の球を撃墜し、もう一発はアスカンの額に直撃した。
アスカンは失神した。
実力者、アスカンがあっさりとやられたことで、ギャラリーが騒めいた。
修が、ちらりとポーラを見た。
ポーラは、「どんなもんだ!」と言う顔をして、むふー!と鼻息を吐いていた。
後で説教である。
エタニティーエイ・・・




