66話 メイド>
一日二回更新って、平和ですね。
ラマンは、やはりカマンの親戚だった。
「おお、やはりカマンのお知り合いですか!カマンは私の叔父に当たります」
世の中は実に狭い。
「以前カマンと会いましたが、その時にシュウさんのお話を聞きましたよ。何でも、とてもお強いとか・・・」
カマンは、修の話もしているらしい。
恐らくは前回の護衛の時だろう。
一体どんな話をしたのだろうか。
ちなみにカマンは、今現在街でも鼻高々に吹聴している。
「いやしかし、親戚共々お世話になって申し訳ありません・・・」
しかしラマンは、カマン同様、気の良い人間の様だった。
そんな会話をしているうちに、ラマンの屋敷に辿り着いた。
そう、屋敷だった。
この一族は本当に商売が得意なのかもしれない。
と、そこでラマンの屋敷からメイドさんが飛び出してきた。
メイドさん(中年)は飛び出すと同時に安堵の顔で叫んだ。
「旦那様!・・・そちらの方々は?」
微笑むラマンの後ろに立つ、修とポーラを見て訝しげな顔をした。
忙しい人である。
対するラマンはニコニコ顔だ。
「おお、シュウさんとポーラさんと言う。私の命の恩人だ。叔父の知り合いでもある。怪しい方ではない、丁重にもてなしてくれ」
ラマンは主人っぽく、偉そうに言った。
しかし、メイドさん(中年)の眉がキリキリと吊り上がった。
「・・・命の恩人?またお一人で街を出られたのですかっ!!」
そしてラマンに雷を落とした。
修とポーラが首をすくめるほどの大きな雷だった。
「あ、ああ」
偉そうにしていたラマンの眉が下がった。
何だか、とっても怯えている。
「護衛の一人でもお付けくださいと何度言ったら分かるのですか!!自分の立場が分かっているのですか!?」
メイドさん(中年)の雷は続く。
通りすがりの人は、雷を落とすメイドさん(中年)を見ても、「ああ、またか」と言う顔をしていた。
日常茶飯事なのだろう。
主人とは一体。
「・・・す、すまん」
ラマンは既に、メイドさん(中年)に対する闘争心が折られているのだろう。
実にあっさりと謝った。
「ラマン様、あとでみっちりとお話することがありますのでご覚悟を」
メイドさん(中年)は、ラマンを睨み付ける様にして言った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ」
ラマンはとても打ちひしがれた雰囲気を漂わせている。
もういい年なのに。
メイドさん(中年)は、修とポーラを見た。
一瞬前までラマンを睨み付けていたとは思えぬ、良いおばちゃんスマイルだった。
「・・・シュウ様にポーラ様ですね。旦那様の御命を救って頂いたこと、使用人を代表してお礼を言わせてくださいませ。ささ、こちらにどうぞ」
実に丁寧に案内してくれた。
「は、はい」
修とポーラの後ろを、ラマンがすごすごと付いて来ていた。
こんな主人で大丈夫なのだろうか。
ラマンは、メイドさん(中年)に連行される勢いで連れて行かれた。
このままお説教コースだろう。
代わりに若いメイドさんが、修とポーラを案内してくれた。
「・・お部屋はお一つで?」
修とポーラをちらりと見て、質問してきた。
「あ、「はい」・・・・」
修が返事をしようとしたら、ポーラが被せた。
ポーラさんアグレッシブ。
メイドさんは微笑んで、一際大きなベッドのある部屋に案内してくれた。
「ではこちらにどうぞ。ご自宅と思って寛いでください」
案内された部屋は広かった。
ベッドはキングサイズが一つだ。
メイドさんは心の中で、しばらくメイド仲間との会話ネタをゲット出来てほくほくしている。
顔には一切出していないが。
「入用があれば、何でも私共にお申し付けくださいませ。では私は一旦失礼致します」
メイドさんは完璧な礼をして退出したが、ちらりと見えた目はネタを欲しがってギラギラしている。
好奇心を隠しきれなくなっていた。
「は、はい。お世話になります」
若い娘っ子は恐ろしい。
修はその雰囲気に押されて、軽く怯えていた。
旅の不足品は、ポーラがメイドさん達に伝えていた。
メイドさんは静かに頷いていたが、ポーラが見えなくなって暫くすると、
「若奥様よキャー!」
等と騒いでいた。
ポーラの耳がそれを拾い、ピクピクと動いてた。
口元がにやけていますよポーラさん。
夕食に招待された。
「さあさあ、たっぷり召し上がってくださいませ」
大きなテーブルに、たくさんの料理が並んでいる。
かなり多いが、修の胃袋にかかれば敵ではない。
コックさんは少し後に地獄を味わうことになるが、そんなことは予想できるわけも無い。
自慢の料理の説明をしようと、張り切って出て来ていた。
メイドさん(中年)が笑顔で修とポーラに料理を勧めて来た。
奴隷ではなくなったポーラも同席だ。
しかもしっかりと隣の席をゲットしている。
「・・・・・・・・・・・・・」
そしてラマンはとってもげっそりしていた。
まさかとは思うが、今まで雷を受けていたのだろうか。
死んだ魚の目をしているラマンをちらりと見たが、反応を返さない。
「ありがとうございます。頂きます」
修とポーラは、ラマンに礼を言ったが、カクカクと首を振るだけだった。
大丈夫なのだろうか。
「この街に居る間は、ずっと泊まって頂いても結構ですよ」
メイドさん(中年)が良い笑顔で言ってくれた。
本来主人が言うべきことであろうが、ラマンは再起不能なので仕方ない。
どちらが主人か分からなくなってくる。
「あ、そのことですが。明日には出ようかと」
修がとんでもない速度で食材を貪りながら返事を返す。
見ているメイドさん達は呆気に取られており、料理の説明をしようとしていたコックも、厨房に走った。
「・・・そうですか。もう少しゆっくりなさって頂いても・・・」
メイドさん(中年)が、コック殺しのセリフを言ったが、修は首を振った。
そうしながらも、恐るべき勢いで料理が消えて行く。
「いえ、温泉に行こうと思ってまして。まだ道中なので」
メイドさん(中年)と、メイドさん達、果てはゾンビ状態のラマンまでも目を見開いた。
「・・・温泉ですか。それは勇気がおありで・・・」
ラマンが再起動した。
しかしどういう意味なのだろうか。
「はい?」
修が首を傾げた。
が、ラマンは首を振って何やら納得していた。
「いえ、シュウさんはお強いのでしたね。・・・ああ、馬車をお貸しいたしましょうか?」
ラマンがこの屋敷に来て、初めて主人っぽいことを言った。
「・・・?いえ、大丈夫です。ゆっくり歩いて行こうかなと」
修は首を傾げながらも、申し出を断った。
急ぎとなれば、ポーラを背負って走った方が早いのだ。
「・・・そうですか。帰りも、ぜひうちに立ち寄ってくださいな」
ラマンは、営業スマイルではなく、本物の笑顔を浮かべて言ってくれた。
この家系は良い人が多い。
「はい」
修が笑顔で頷いた。
コックは涙目だった。
その日の夜は、言わずもがなハッスルした。
メイドさん達が修とポーラの部屋の扉に張り付こうとして、メイドさん(中年)に追い払われていた程だ。
体力を使いまくったはずのポーラは、翌日とっても艶々していた。
これでメイドさん達は、一週間は話題に困るまい。
翌日、修とポーラはラマンの屋敷を出た。
「では、お世話になりました」
二人の荷物が、来た時よりも多少増えている。
ポーラがお願いした品よりも、随分沢山の物を準備してくれたのだ。
しかし、旅に大荷物は必要ない。
ポーラが必要なものと不必要な物を仕分けてくれた。
「・・・もっと持って行っても良いですよ?」
殆どをポーラに断られたラマンは、修達が遠慮したと思ったのだろう、そう言ってくれた。
「いえ、荷物になりますし。お気持ちだけで」
断れる女、ポーラがバッサリと切り捨てた。
クールな娘である。
「・・・そうですか。ではお気をつけて。またお待ちしております」
最後に、ラマンやメイドさん達が一斉に頭を下げて二人を見送った。
「はい。ではラマンさんも、お気をつけて」
修が苦笑していうと、メイドさん(中年)の瞳がギラリとラマンを見た。
「ははは・・・。はい・・・」
ラマンは肩を落として頷いた。
次は明日の昼に更新します




