61話 そうだ、行こう
シノビキャットの人気に嫉妬
煙のおかげで、ポーラはかなりきつそうだった。
その為、大事を取って帰ることにする。
今後も使って来るだろうが、急ぐほどでもない。
そう思っていたが、街に帰って歩くと、様々な人から声をかけられた。
見知らぬ人からまでも。
ぶっちゃけ自宅に辿り着くのに半日かかった。
「・・・・・・・・・・・・・・」
自宅に帰ってから、修は腕を組んで目を閉じている。
何かをむっつりと考えている様だ。
ポーラは修のことを心配しながら、夕食を作っていた。
「食事の準備が出来ましたが・・・」
ポーラが作り終わっても、修はむっつりしたままだった。
そして、食事中に突然言った。
「ポーラ、温泉に行こう」
ポーラは自分の耳を疑った。
「・・・・・・・・・は?」
流石に呆然とした顔で修を見つめた。
お肉を取り落としていますよ、ポーラさん。
そんなポーラに、修がずっと考えていたことを話す。
「今、騒がしいでしょ?ちょっと時間が立てば落ち着くと思うんだ」
確かにとっても騒がしい。
お祭り騒ぎだ。
ポーラでも油断すれば、修の隣から弾き飛ばされそうなほどに揉みくちゃにされた。
最後の方はもう修の腕にしがみ付いて、位置を死守していたくらいだ。
そして修に近づく女に目を光らせていた。
「・・・確かに」
ポーラは昼間の苦労を思い出して、重々しく頷いた。
「それまでの間に、温泉に行ってみよう。温かくて気持ちいいよ」
そして修は、ここぞとばかりに温泉アピールをしてきた。
偶には、楽してお湯に浸かりたいのだ。
毎回自分で準備するのは、とっても面倒くさい。
「・・・分かりました」
ポーラが頷いた。そしてガツガツと口の中に肉を詰めこんで、立ち上がった。
お行儀が悪いですよ、ポーラさん。
「では早速必要な物を揃えましょう。出発は明日からで宜しいでしょうか?」
ポーラはとってもやる気満々だった。
既に頭の中で、旅に必要な物を整えかけている。
「うん。必要な物って結構あるでしょ?一緒に買いに行こうか」
乗り気なポーラに、修が喜んだ。
修も慌てて肉を詰め込もうとする。
が、ポーラがそれを押し留めた。
「・・・いえ。シュウ様が出ては目立ちます。ここは私にお任せ下さい」
言われてみればそうかもしれない。
ポーラ単身でも、しっかりフードをかぶって顔を隠して、一人こそこそと裏口から買い物に出た。
ポーラの懸念通り、街はまだお祭りムードだった。
修を一目見ようとしているのか、良く買い物に現れる近辺に人だかりが出来ているほどだ。
ポーラは人の間を縫い、こっそりと買い物を続けた。
ポーラが買い物を済ませ帰宅。
修に荷造りの指示を出して、また買い物に行く。
そんな面倒なことを数回こなして、ようやく旅の準備は整った。
ポーラは地図まで買って、睨み付ける様に見ている。
というかぶっちゃけ、温泉の場所が分からない。
隣街に向かってから温泉について調べようかとも考える。
「カマンさんにだけは言っておこうか」
そんな中で、修が呟いた。
カマンにはとても世話になっているし、今もお願いしている品がある。
夜逃げではないことだけは伝えておく必要があるだろう。
ピコーン!とポーラの頭に電球が浮かんだ。
ただのイメージだが。
「では私が行って参ります。シュウ様が行ったらまた・・・」
早速とばかりに、ポーラがいそいそとフードを着込んだ。
銀色の髪と耳がとても目立つのだ。
「・・・お願いするよ」
修も申し訳ないと思いつつも、ポーラに甘えた。
ポーラは地図を持って、一人カマンの元に走った。
そして早朝。
二人は、まるで夜逃げのように街を出た。
カマンにもしっかり話を通し、鍵を預けておいた。
お金も大半は預けて来たので、夜逃げするとは思われないだろう。
一安心だ。
新規一転、修が清々しい笑顔で叫んだ。
「よっし!行こうか!」
ジジイに放り込まれるのではなく、自分から向かう。
それのなんと素晴らしいことか!
ちなみに、二人は馬など買っていない。
徒歩の旅である。
地理も何もわからない修がやる気満々の宣言をすると、地図を持ったポーラが頷いた。
「はい!」
何も知らない修の分まで頑張る必要があるはずのポーラも、やる気満々である。
ポーラは、まるでカップルの駆け落ちの様な気分で、幸せいっぱい胸いっぱいだった。
カマンから温泉の場所まで聞いて、地図に印もつけて来た。
準備は万全だ。
この旅の間は、誰にも邪魔されることなく、修と二人っきりの旅を満喫できるのだ。
むしろ、馬など無くて良い。
ポーラの大きな胸が激しく踊った。
旅は実に平和だ。
まず根本的に、修は生粋のサバイバルマンだった。
魔法を使うまでも無く、木が一枚あれば一擦りで着火させる。
水も魔法で出て来る。
怪我しても、腹を下しても治せる。
修は何を食べても下さない自信はあるが。
実際、スキルを貰う前から、毒キノコも余裕だった。
そんな訳で、二人旅でも内容はベリーイージーだ。
そしてたまに出て来る魔物も、迷宮に比べても雑魚としか言いようが無い。
「コボルトかぁ」
「コボルトですねぇ」
こんな会話をほのぼのとするくらいの余裕がある。
むしろ皮を剥いで貪っている位だ。
エモノ、キタ。
と片言で言いそうなくらいに余裕がある。
動物の解体は、修が行った。
解体と言うか、肉を切り取るだけだ。
全部手刀でスパスパとこなしたが、ポーラも既に驚くことは無く、「流石です!」と言っていた。
そして魔力節約のため、修が摩擦熱であっさりと火を作り出し、焚き木を作り出した。
今は、哀れにも二人の犠牲になった、野生のポピーの肉を焼いている。
しかも漫画肉スタイルだ。
でっかい肉が、修によってダイナミックにあぶられている。
「うーん、これは中々」
でっかいお肉の焼けた部分を齧り、また焼く。
実に原始的な手段だ。
「はい。美味しいです」
ポーラもお肉がっつり系だ。
体力が資本なので仕方ない。
食べた分まで胸に回るし、むしろ大きくなれ。
そんな気分で、ポーラも食べ続ける。
結局、二人で貪る様に喰っていた。
夜はお楽しみタイムだ。
とはいっても、流石に外で致す訳ではない。
ただ単に、修の毛布に擦り寄り、あわよくば同衾するだけだ。
今のところ、成功率は100%である。
この日の夜も、ポーラは修に擦り寄った。
「ポーラ?」
「・・・夜は寒いですから」
大義名分って素晴らしい。
そう思いながら、修の毛布に侵入した。
実際に寒いことは寒い。
が、ポーラは寒さに強いし、修は半袖でも風邪などひかない。
別々でも問題ないと言えば無い。
しかし、精神的には全然違うのだ。
ポーラは幸せすぎて鼻血が出そうだった。
二人の徒歩の旅は続いた。
徒歩とはいえ、実際にはかなりの速度があった。
それでも、馬車に比べるとずいぶん遅れている。
そして、二人はまずサムハンの居た街に辿り着いた。
遂にこのカードを切る時が来てしまった




