57話 紳士
限界にチャレンジ
ポーラの言った通りだった。
グラスパンダサンは、体をいくら傷つけても倒れはしなかったが、サングラスを叩き割ると即死した。
何と儚い生き物なのだろうか。
しかし、顔の防御はしっかりしている。
普通ならば倒すことは難しい、のかも知れない。
「はぁっ!!」
しかし、ポーラは二刀流である。
二本の剣で延々と顔面狙い。
グラスパンダサンは防御で手一杯で、反撃する余裕も無い。
そうするうちに、段々とガードを掻い潜ったポーラの剣がグラスパンダサンのサングラスを叩き割る。
ここもまだまだ余裕はあるだろう。
攻略法が分かれば最早敵ではない。
実にあっさりと、ボスまで到着した。
----------------------------
LV.18
ボス・グラスパンダサン
----------------------------
「ほぉ・・・」
ボス・グラスパンダサンは、サイズは今までのグラスパンダサンと変わりはしなかった。
しかし、鋭角なサングラスをかけていた。
とってもファンキーである。
それだけでもない。
何と、武器を持っていた。
竹槍を。
止めに、竹槍の端っこをガジガジと齧っていた。
武器ではなく、食料なのだろうか。
「では、行ってきます」
ポーラが、お食事中のグラスパンダサンに駆けた。
グラスパンダサンもポーラに気付き、食事の手を取りやめた。
そして、竹槍を構える。
やはり武器だったようだ。
喰ってたが。
短くなっているとはいえ、リーチはまだグラスパンダサンに優位がある。
実に鋭く、ポーラに向けて突きを放った。
「ふっ!」
ポーラは、左手のダマスカスソードで竹槍を真上に弾いた。
そして肉薄する。
グラスパンダサンの眼がキラリと輝いた。
いや、見えなかったが、そう感じた。
グラスパンダサンは、弾き飛ばされた竹槍を、その勢いを維持したまま器用に回転させて、真下から掬い上げる様にして、石突をポーラに叩き込んだ。
ちょっと齧りすぎてギザギザになっている、危険な石突だ。
「くっ!」
ポーラは右手の剣で、石突を受け止めた。
しかしかなりの力があったのだろう。
受け止めたポーラは、上に飛ばされた。
浮いたポーラに、グラスパンダサンが今度こそ先端を向けた。
怒涛の勢いで突きを連発する。
戦上手ではないか。
「わっ!このっ!」
ポーラは空中で両手の剣を振り回して迎え撃つ。
しかし、体勢が不十分なこともあり、いくつかの攻撃がポーラにぶつかった。
鎧が鎧である。
何故か火花が散っていたが、ポーラにはダメージは無い。
しかしぶつかるたびに体勢を崩してしまう。
何とか着地したポーラは、しかし、大きく体勢を崩していた。
そのポーラの顔にめがけて、グラスパンダサンは渾身の突きを見舞った。
「っ!!」
ポーラはクソ度胸を持っていた。
集中に集中を重ねて、額で竹槍を迎え撃った。
やはり、ドラゴンの素材で出来ているためか、額当てで竹槍を受け止めることが出来た。
「~~~~~~~っ!!」
ポーラは首に力を込めて迎え撃ったが、勢いに飛ばされて後ろに飛ぶ。
一方のグラスパンダサンも、流石に渾身の一撃を受けられて体勢を崩していた。
ポーラが着地した。
歯を食いしばったまま、グラスパンダサンに斬りかかる。
ちょっと涙目だった。
やはり、痛い物は痛いのだろう。
ポーラは、受け止めることはせず、剣で受け流すことにしたようだ。
しっかりと反省している。
体重を込めた剣戟の数合で竹槍を粉砕し、後は一方的だった。
「やりましたっ!」
苦戦した分、倒した後にはほっと溜息を吐いていた。
やはり、ボスは強いのだろう。
ポーラでも油断は禁物だ。
修がポーラに歩み寄った。
「お疲れ様。頭見せて」
ポーラが額当てを外すと、赤く腫れていた。
「・・・すいません。お願いします」
修は回復魔法をかけてやった。
ちなみに、修のデコピンよりは腫れていなかった。
幾つか攻撃を喰らった胴体部は、大丈夫な様だ。
直撃は無く、カス当たりばっかりだったのが幸いだったのだろう。
それも、ポーラの実力と言うべきだろうが。
そのまま19層に向かった。
19層も、普通の迷宮だった。
しかし、ここは不思議だった。
全く魔物と遭遇しない。
ポーラも鼻を鳴らしているが、見当たらないようだ。
スムーズに進むのは良いことだろう。
しかし、とても不思議だ。
「・・・なんだろうね?」
修は歩きながら、ポーラに話しかけた。
「分かりませんね・・・」
ポーラも不思議そうに首を傾げていた。
しばし歩いていると、突然ポーラが声をあげた。
「・・・あ」
修がポーラを見た。
「ん?」
何か発見したのだろうか。
修には気配は察知できていないが。
「ちょっと・・・・すいません」
ポーラがもじもじしている。
修は頷いた。
お花摘みだ。
迷宮には当然トイレなどない。
用を足すには、当然迷宮の中でするしかない。
おっきい方は流石にそうは無いが、小さい方は迷宮の隅でするのが基本だ。
ここで面白いのが、迷宮の魔物は紳士であるということだ。
戦闘中に用を足す馬鹿は居ないが、用を足している時に魔物は現れないのだ。
当然注意は払うが、何故かそういうことらしい。
ポーラはそそくさと修の視界から消えた。
「・・・ふぅ」
ポーラが安堵の息を吐いた。
迷宮で用を足しても、何故かすぐに跡は消える。
消えなければどえらいことになっているだろうが。
すっきりしたポーラが立ち上がろうとした。
そこで、ふと何かの気配を感じた。
「・・・・・・・・・・・・?」
ポーラは足元を見た。
さっきまでご不浄をなさっていた所を。
まだ湿ったそこに、何かが居た。
地面から、目がついている、ミミズっぽい何かが飛び出している。
それは何故か、湿った地面に体を擦りつけていた。
「・・・・・・・・・」
ポーラは頭の中が真っ白になった。
ポーラとそれの目があった。
それは、「おおっと、これはお恥ずかしいところを見せちまったな!」と言わんばかりに、ポーラにウィンクした。
ポーラの悲鳴が迷宮に響いた。
「ポーラ?!」
一瞬後に、修が姿を現した。
半分穿きかけのポーラが涙目で狂乱していた。
その足元に居る物を、修は見つけた。
今まで全く気配を感じなかった。
実に恐ろしいスニーキングスキルである
----------------------------
LV.19
ハイドワーム
----------------------------
魔物だった。
ハイドワームは、「おおっといけねぇ!」と言わんばかりの眼をした後、地面の中に消えた。
「こ、ころっ!!殺っ!!殺すっ!!殺すぅぅぅぅぅ!!!」
ポーラがバーサクにかかってしまった。
あられもない恰好のまま、涙目で剣を振りかぶっている。
いいからズボンも履きなさい。
「ぬんっ!!」
修が地面を叩いた。
気配は今覚えた。
必殺のベレブロビ□ヘレンテパンチを地面にお見舞いした。
きっかり三秒後、地面からハイドワームが打ち上げられた。
「くたばれえええええええええええええええええ!!!!」
ポーラは吹き飛び、絶命寸前のハイドワームに襲い掛かった。
悪は滅びた。
ドロップアイテムもポーラに処分されたので、何だったかは分からない。
結論。
迷宮には紳士と、変態紳士が居る。
明日からはペース落とします。
流石にマジです。




