56話 本体は・・・
18層に来た。
変な匂いもしないので安心だ。
ここでは、すぐに魔物に遭遇した。
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LV.18
グラスパンダサン
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パンダがサングラスをかけている。
元々目の周りは黒いのに。
しかも生意気にも、中指でくいっとサングラスを持ち上げて位置を調整までしている。
ビーチに居る、イケイケのサーファーの様な雰囲気すら感じる。
「ファイアランス!」
修が、問答無用で火炎の槍をぶっ放した。
グラスパンダサンは、迫りくる火炎の槍に気付き、両手で顔をカバーした。
突き刺さり、火炎が広がった。
「・・・・・・・」
しかし様子がおかしい。
火炎の中に居るはずなのに、燃え尽きる様子を見せないのだ。
やがて、無傷のグラスパンダサンが火炎の中から現れた。
「っ?!」
ポーラの驚きようは凄い物だった。
そして修の凹みようも。
魔法は通じない系の敵なのだろうか。
気を取り直した修は、グラスパンダサンに接近した。
魔法で失ったプライドを物理で取り戻そうとしたのだ。
「セイッ!」
修の拳が、グラスパンダサンの胴体に突き刺さった。
その拳は、確かにグラスパンダサンの胴体を破壊した。
一瞬肉片が飛び散ったのを、修は確かに見た。
しかし次の瞬間。
「うぉっ?!」
修の顔面に、グラスパンダサンの剛腕がぶつかった。
「シュウ様!!」
ポーラが悲鳴をあげた。
まさかのクリーンヒットを喰らった修は、ピンピンしていた。
「・・どういうこと?」
迷宮で初のクリーンヒットを受けておきながら、ダメージ0であった。
むしろ、その前の展開に驚いていた。
弾け飛んだはずのグラスパンダサンが、治ったのだ。
数発叩き込んでみたが、やはり結果は同じだった。
一体全体どういうことだろうか。
こういう相手にどう叩けばいいのだろうか。
修は、過去の記憶を呼び覚ました。
修が13歳の時。
ヨーロッパのどこぞの森の奥で、そいつと出会った。
黒いマント来て浮いている、ダンディーなおっさんだった。
おっさんは突如、修に襲い掛かって来た。
何だか、歯がとっても鋭かった。
「セイッ!!」
おっさんのどてっぱらに、修の拳が突き刺さった。
あっさり貫通したと言うのに、おっさんは平気な顔で噛みつこうとしてきた。
「おおぅ?!」
修はおっさんの顔面に掌底を叩き込んで爆散させ、間合いを取った。
修の見つめる中で、顔を失ったはずのおっさんがどんどん顔を取り戻していく。
「・・・下等な人間風情が!吸血鬼たるこの私に傷を負わすとは!!」
おっさんは何か良く分からない英語っぽいセリフを吐いた。
しかし、修には分からない。
外国語など学んでいるはずも無いのだ。
ただ、何か偉そうだなーと思っただけだ。
おっさんはマントを広げて襲い掛かって来た。
人間とは思えぬ速度だった。
「セイセイッ!!」
悉く打ち返した。
しかし、いくら殴っても死なない。
一体どうすればいいのだろうか。
悩む修を、おっさんが睨み付けた。
おっさんの眼がキラリと輝いた。
「?!」
その瞬間、修の体が固まった。
まるで金縛りにあったかのようだった。
おっさんはニヤリと笑い、余裕たっぷりに修に襲い掛かって来た。
「ふんぬぅ!!」
修が気合を込めると、金縛りが解けた。
そして呆気にとられるおっさんの顔面に拳を叩き込んだ。
「ちぃっ!」
またしても顔が復活した謎のおっさんは、突如体をマントで包んだ。
次の瞬間、おっさんがくるまっていたはずのマントから無数のコウモリが飛んで来た。
おっさんは手品師だったのか?!
修は愕然とした。
無数のコウモリが、修に向かって襲い掛かって来た。
何だか、噛みつかれそうだった。
「せりゃりゃりゃりゃりゃりゃああああ!!!」
よって、全部撃ち落した。
地面に転がる無数のコウモリがもぞもぞと集まったかと思うと、再びおっさんが出現した。
イッツミラクル!
修は心の奥底から感嘆した。
「ぐっ!」
しかしおっさんは悔しそうに歯噛みしていた。
そして次におっさんの体が消えた。
代わりに、霧が発生していた。
「おおお!!」
これにも修は驚いた。
しかし、霧はまるで意思を持っているかのように修に向かってきた。
何だか、嫌な予感がする。
修は予感に従い、思いっきり震脚して拳を突き出した。
「セェェェイッ!!!」
地面が割れ、猛烈な衝撃波が発生した。
迫りくる霧が衝撃波に巻き込まれて霧散した。
すると、霧が消えておっさんが現れた。
口から血を流している。
「ぐはっ!ば、馬鹿な・・・!」
おっさんは呻くと、今度は狼になった。
一体いくつネタを仕込んでいるのだろうか。
修は、段々楽しくなってきた
しかし、狼がくるりと背を向けた。
終演だろうか。
しかし修はもっと見ていたかった。
次は何になるのだろうか。
そんな淡い期待を込めて、修は全身の力を振り絞った。
「セェリャァァアアアアア!!!!」
本気の拳を、狼に叩き込んだ。
すると、狼が灰になった。
ワクワクしている修の眼前で、灰はサラサラと流れて行ってしまった。
おっさんは帰ってしまったのだろう。
修はとても残念に思った。
懐かしい記憶から修が返ってきた。
結論。
良く分からない。
取りあえず殴りまくろう。
「せりゃりゃりゃりゃりゃりゃああああ!!!」
グラスパンダサンは空中でサンドバックになった。
空中で無限コンボを喰らう内に、修の拳がサングラスを叩き割った。
サングラスに隠された、円らな瞳と目があった。
とってもキュートだ。
しかし次の瞬間、グラスパンダサンは消滅した。
『パンダの肉』が残されていた。
笹に包まれている。
芸が細かいことである。
「・・・・・・」
パンダの肉の刺身は美味しかった。
そんなことを思いながら、何で倒せたのだろうと修は首を傾げた。
そこにポーラがやって来た。
心底感嘆した様な顔だった。
「・・・あの目に着けていたものが本体だったのですね。流石はシュウ様です」
とっても褒めてくれた。
そうだったのか。
想像もしなかった。
そんな思いを隠して、修は頷いた。
「・・・うん」
修も、ポーラには良い恰好をしたいのだ。
ぜぇぜぇ




