53話 食べられるのだろうか
修の予想通り、ポーラは数日の間シャークヘッズに通い詰めた。
それだけでなく、迷宮から帰って来た後の訓練も二刀流で行った。
もはやポーラも躊躇することなく、真剣二本で修に斬りかかって来る。
しかし。
「うっ!」
ベビンッ!とデコピンとは思えぬ音が鳴り、ポーラの頭が仰け反った。
攻撃頻度が増しても、やっぱり修には当たらない。
今日も今日とて、デコピンの的になっていた。
「くぅっ!」
それでもポーラは挫けない。
額を腫らし、涙目になりながらも果敢に斬りこんで来る。
その姿勢はとても評価したい。
ベビンッ!
「あぐっ!」
やはり当たらないが。
しかし、ポーラも魔法攻撃には随分と慣れた。
左手の剣もそこそこに鋭くなっている。
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LV.32
ポーラ
獣人:♀
17
剣士LV.36
二刀剣士LV.11
『探索者』
『○○○』
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あっという間に、レベルが上がっていた。
倒れ伏し、起き上がって来なくなったポーラに修が言った。
「そろそろ次の階層に向かおうか」
「・・・・・・・・はい」
か細い声が返って来た。
翌日に16層に向かった。
16層は磯臭くも無かった。
いたって普通の様子である。
「お」
少し歩くと、魔物を発見した。
ラッコだった。
しかし様子がおかしい。
「・・・・・・・」
ラッコが二足歩行していた。
もうそこは突っ込まなくても良いだろう。
しかし問題は別にある。
ラッコは、両手に石を持っていた。
先が尖った、痛そうな石だ。
まあそこまでは良い。
問題は行動だった。
ラッコは、何故か延々と地面をガンガンと叩いていた。
しかもよく見ると、目が血走っていてヤバい。
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LV.16
バーサクラッコ
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バーサクどころか、どう見てもイっている眼をしている。
可愛さが全て気持ち悪さに転換していた。
ひたすらに地面を殴っていたバーサクラッコが、こちらに気付いた。
一目散に駆けて来た。
涎まで垂らしている。
薬中ではないのか。
「ファイアランス!」
修は手始めに、火炎の槍を放った。
何と、バーサクラッコは火炎の槍にまで殴り掛かった。
爆発し、燃え盛った。
めらめらと燃え盛る炎の中で、ラッコが燃え尽きた。
何がしたかったのだろうか。
「「・・・・・・・・・・・・・・」」
修とポーラは無言でアイテムを拾った。
『ラッコ貝』
大きな貝だった。
しかし、貝など持っていなかったではないか。
そういう突っ込みは意味は無いだろう。
「これも美味しいです」
ポーラが教えてくれたが、食べたらあいつと同じになってしまうのではないだろうか。
修はそんな不安を覚えた。
二匹目に遭遇した。
やはり延々と地面を殴っていた。
とても不気味だ。
「では私が」
今度はポーラが進み出た。
ラッコはヤバい目をこちらに向けたあと、涎を垂れ流しながら走って来た。
ちょっとしたホラーだ。
ポーラも両手に剣を構えて駆けた。
二人が肉薄する。
ラッコが両手の石を振りかぶったところで、
「はぁっ!!」
ポーラの二本の剣が縦横無尽に動いた。
右手三回、左手二回。
都合5発の斬撃をバーサクラッコに叩き込んだ。
ポーラの剣は、あっさりとバーサクラッコの両手の石を砕き、残りは顔面に叩き込まれる。
バーサクラッコは攻撃されようとも全く構わず、腕を振り下ろした。
「む」
ポーラは意外そうな顔を浮かべながらも、ひらりと身をかわした。
バーサクラッコの攻撃が空を切る。
そこで、石を失っていることに気付いた様だ。
ヤバい目で、両手を見た。
「ふっ!」
その隙に、ポーラがまた剣を叩き込む。
バーサクラッコは殴られながらも、両脇に手を入れた。
また、石が出て来た。
脇のポケットに入っているのだろうか。
バーサクラッコは、新たな石を振りかぶる。
「・・・」
ポーラは無言で、また石を砕き、一歩後ろに下がった。
バーサクラッコの攻撃がまた空を切る。
そしてまた石を失ったことに気付いた。
またごそごそと脇を漁り始める。
「せいっ!!」
そこを滅多打ちだ。
バーサクラッコは、今度は石を取り出すまでも無く、力尽きた。
ポーラは貝をリュックに詰め込み、修の元に戻ってきた。
「・・・・とても戦いやすいですね」
石を無くせば石を取り出すのだ。
砕くことが出来れば実に簡単だ。
「・・・そうだね」
修も同じ感想を持った。
そこから、探索を続けてみたが、バーサクラッコは実に楽だった。
どいつもこいつも、防御のことは考えずに突っ込んで来る。
石を砕けばやはり取り出そうとする。
石を壊す⇒取り出す間に攻撃をする⇒石を壊す
のループで、実に容易く倒すことが出来た。
全く心配はいらなくなったので、修は一人、貝を食べるか否かで悩んでいたくらいだ。
あっさりボスまで辿り着いた。
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LV.16
ボス・バーサクラッコ
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こいつも大きくなっていた。
そこまでは良い。
手に持っているのが問題だった。
それはどう見ても。
「シャコ貝じゃん・・・」
修が呻いた。
ボス・バーサクラッコは、両手でシャコ貝を持っていたのだ。




