52話 開眼
無理っていったでしょう(逆切れ
15層では、ポーラにバーサクがかかってしまう。
修の精神衛生上、非常によろしくないので、この階層も急ぐことにする。
「・・・・・」
また一体のシャークヘッズが、鮫のたたきにされてしまった。
無言で剣を振り下ろし続けるポーラさんがとても怖い。
そしてボスを発見した。
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LV.15
ボス・シャークヘッズ
水魔法Lv.9
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「あら」
修は目を見張った。
今までのボスとは違う。
サイズが変わっていない。
しかし、代わりとばかりに、両手の子鮫だけが大きくなっている。
非常にアンバランスだ。
あの腕で支えることが出来るのだろうか。
思わずそんな心配をしてしまう。
「行きます!」
修の心配をよそに、ポーラが駆け出した。
やはりバーサクがかけられているのだろうか。
シャークヘッズも、6個の瞳をポーラに向けた。
右手の口からアクアシュートが放たれた。
「お」
修が感嘆した。
今までは一番大きな口からしか出していないかったのに。
「っ!」
しかし、ポーラは「邪魔だ」と言わんばかりに、盾であっさり殴り飛ばした。
ミラードラゴンの盾とは違って跳ね返せはしなかったが、その場で水になった。
この程度の魔法ならば問題ない。
それを見たシャークヘッズは、両足で地面を蹴った。
そしてポーラに向けて泳いでくる。
大きな口を三つも開いての突進は、中々に迫力があった。
「っく!!」
迫力だけでも無かった。
叩き落そうとしたポーラが悔しげに呻き、回避した。
二つの頭までは抑え込んでいたが、三つめの突撃までは叩き落せなかったのだ。
あの二の腕でしっかり支えれているらしい。
しかし、落せなかったとはいえ何度も剣でぶん殴られているのだ。
かなりのダメージを与えているだろう。
ポーラはシャークヘッズを飛ばせない様に、接近して近づく頭を攻撃し続けた。
危うくなりかければ離脱する。
完璧だった。
シャークヘッズは段々と弱って行く。
苦しげに呻くシャークヘッズは、同時に三つの口をポーラに向けた。
「っ?!」
次の瞬間、三つの口からアクアシュートが飛んで来た。
魔法の三連打だ。
流石に修も目を剥いた。
ポーラも一瞬驚いたが、二発は盾で、最後の一撃は間に合わぬと悟るや否や、剣で弾き返した。
シャークヘッズはそれを狙っていたのかもしれない。
大きく開けた口が、ポーラの持つ剣をガブリと噛んだ。
「っ!?」
剣が傷つくことは無いが、がっちりと歯を喰い込ませてポーラが振れぬように抑え込む。
そして、残った二つの頭でポーラに齧りつこうとした。
ポーラの判断は早かった。
あっさりと、剣を手放した。
そして噛みつきを回避するためか、シャークヘッズに盾をぶん投げ、腰から鞘を抜いた。
ドラゴンの素材でできた鞘を。
「やっ!」
そして、剣を齧っている頭をぶん殴った。
ベゴン!と良い音が鳴り、ぐらぐらと頭が揺れた。
その拍子に剣を取り落とす。
ポーラは、剣が地面に落ちるよりも早くに滑り込み、掴んだ。
更にはそのまま斬りあげる。
次いでとばかりに、鞘でもう一発ぶん殴っていた。
ポーラは何かに開眼したのだろうか。
盾を捨てたまま、剣と鞘の二刀流で戦い始めた。
超攻撃的だ。
ガンゴンと痛そうな音を響かせ、シャークヘッズをのしていく。
やがてボス・シャークヘッズは死んだ。
ポーラは、鮫肌を回収した後に盾を拾っていた。
「やりましたっ!!」
駆け寄ってきたポーラは、いつも以上に輝く笑顔を浮かべていた。
「お疲れ様。・・・盾、要る?」
修はポーラに聞いてみた。
先ほどの戦いは、とっても様になっていたのだ。
「・・・・・・暫く無しでもよいでしょうか?」
ポーラも自覚はあったのだろう。
買ったばかりのミスリルの盾は、哀れにも鮫肌と一緒にリュックに押し込められた。
16層に到着した後、再び15層に向かった。
ポーラのたっての願いだった。
開眼元になったシャークヘッズで試したいらしい。
狂戦士ポーラはまだまだ終わらない。
「・・・・・・・・・」
修の見つめる前で、ポーラは実に楽しそうに剣と鞘をぶん回していた。
盾も上手に使っていたが、こっちの方が様になっているのかもしれない。
「こちらの方が良いかもしれません!」
ポーラもやる気満々になって来ていた。
「・・・剣、二本使う?」
修はポーラに聞いてみた。
流石に鞘は持ちにくそうなのだ。
しかし、これにポーラは申し訳なさそうな顔をした。
「あまり重いのは・・・あ」
言いかけて途中で気付いた。
長物二本は重量的に厳しいが、とても軽いのがあった。
軽快のダマスカスソード。
売っていなくてよかった。
修とポーラは自宅に向かった。
盾を持たず、腰に鞘を二つぶら下げたポーラが暴れていた。
哀れな被害者は、やはりシャークヘッズだ。
「・・・・・・・・」
もう「うわぁ・・・」としか言えないような光景が広がっていた。
ポーラは、右手にドラゴンの剣を持ち、左手にダマスカスソードを持っていた。
ポーラが良い笑顔で、その二本の剣を振り回していた。
とはいっても、問題はある。
軽快のダマスカスソードでは魔法はどうしようもできないのだ。
通常時であれば、右手の剣で如何にかすれば良い。
が、緊急時に、咄嗟に左手を振ってしまうかもしれない。
胴体に魔法が当たれば跳ね返すだろうが、顔に当たったら流石にダメージを喰らってしまうだろう。
ポーラはその対策のために、15層に来ているのだ。
シャークヘッズに恨みがあるからでは、決してない。とは言い切れない。
アクアシュートが飛んでくる。
「っ!」
ポーラはダマスカスソードを握った左手の甲で、アクアシュートをぶん殴る。
何度も何度も反復していた。
そしてその数だけ、シャークヘッズが犠牲になった。
これは数日は通うだろうな。
修はそう思った。
ちなみに、ポーラに新しいスキルが着いていた。
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LV.32
ポーラ
獣人:♀
17
剣士LV.35
二刀剣士LV.2
『探索者』
『○○○』
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二刀流は別枠らしい。
しかし、LV.2なのだろうか。
その割には動きが良い気がするが。
『・・・・そちらは左手分ですよ』
どこかから神の声が聞こえて来た。
見ていたのか。
しかしいい働きだった。
修は虚空に頭を下げた。
『どういたしまして。では・・・』
神の声が聞こえなくなった。
そして突然礼をした修にポーラが不思議そうな顔を向けていた。




