表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その拳にご注意を  作者: ろうろう
46/136

44話 撃滅のデコピン(中)

リュックが一杯になった頃に、清算に帰った。

生臭さを感じ続けていた鼻にとって、外の空気は非常に美味しかった。

とりわけ、ポーラは心底安堵しているようだった。

12層はさっさと攻略してしまおう。

きっと次に行った時には攻略できるはずだ。


12層の素材はやはり高かった。

一応、修とポーラの食べる分だけ秋刀魚は残してみた。


「シュウ殿」


清算を済ませ、さて帰ろうとか言うところで、修は捕まった。


「はい?」


振り返った修は目を丸くした。

立っていたのは、ファウスだった。


「今、時間は大丈夫かな?」


ファウスは涼しい微笑みを浮かべていたが、目が軽く本気だった。

顔に「逃がさんぞー」と書いてある。


「・・・はい」


修は頷いた。


「ではこちらに来てくれ。ああ、そちらのお嬢さんも」


ファウスが言うと、ギルドの職員さんが慌てて奥に修とポーラを案内した。

領主はギルドまで好きに使ってよい物なのだろうか。


「は、はい・・・」


突然話をふられたポーラも、おっかなびっくりと言った風に頷いて、修の後ろに着いて行った。




案内されたのは、以前も案内された応接室だ。

マスターさんは居なかったが、代わりにマスターが居た席にファウスが座った。

修とポーラが向かいに座ると、ファウスは早速切り出してきた。


「シュウ殿は魔法も使えるのだそうだね?」


カマンの護衛の誰かから聞いたのだろうか。


「はい」


修は素直に頷いた。


「そうか・・・。実に素晴らしい才能だな」


ファウスは俯き、唸る様に、感嘆するように呟いた。


「ありがとうございます・・・」


修はとりあえず、また頷く。

再び顔を持ち上げたファウスが、修に切り出す。


「・・・もしよければ、一度うちの騎士団を見てもらってよいかな?君の様な才の溢れる若者を見れば、彼等も今以上にやる気を出すかもしれないと考えていてな」


ヘッドハンティングでなくてよかった、と修は思った。


「はぁ。大丈夫ですけど」


外堀を埋めようとしているファウスに気付くことなく、修は頷いた。

ファウスは微笑んだ。

獲物を捕らえた微笑みだ。


「助かるな。何時が良いだろう?」


言質だけでなく、早速予定まで決定しようとする。


「いつでも大丈夫ですよ」


修は暢気に答えた。


「そうか。では今からでも良いかな?ちょうどこれから訓練の時間だ」


ファウスは早速とばかりに立ち上がった。

修の気が変わらぬうちにと囲い込もうとしている。


「は、はぁ・・・・」


修はファウスに引きずられるようにして後をついて行った。

ちなみにポーラは、お偉いさんと向かい合ったおかげで、緊張してガチガチになっていた。




本当に騎士団の元に連れ込まれた。

修のことを知ってる人は笑顔だったが、知らない人はうさん臭そうに見ていた。

「訓練に参加しないかね?」とちらちらしてくるファウスとの話がどうこじれたのか、軽く手合わせをすることになった。


初めは、皆お遊び気分だった。


「ぐふぅっ!」


「はい、次どうぞ」


が、騎士団たちの目が段々マジになって来ていた。

仕方なかろう。

まさか若造に、騎士団の半分がのされているのだ。

幾ら修が強くとも、連戦である。

スタミナ的な問題で、いつかは必ず勝てると思っていた。


が、修のスタミナは無尽蔵だった。

何時まで経っても、攻撃が掠りすらしないのだ。

今では訓練用の木剣すら持たず、真剣すら持っている。


「・・・参るっ!!」


また一人の騎士が修に向かって駆けだした。


「ぐっはぁぁぁ!!」


斬りかかろうとした瞬間、デコピンを喰らって兜が凹んだ。

騎士はそのままもんどりうって倒れた。


「次どうぞー」


担がれていく騎士を見るとことも無く修は涼しい顔で言った。

ファウスは呆然と、ポーラはキラキラとした目で、騎士団は意地のこもった眼で。

それぞれ修を見ていた。


「くっそぉ!」「次行け次ぃ!」「せめて一発は当てろぉ!」


騎士達の野次が空しく轟く中、また一人の騎士がデコピンの前に散った。


そして遂に騎士団長が修の前に立った。

何と、全身ミスリル装備である。


「ユクゾッ!!」


ミスリルで出来た剣を振りかぶり、修に斬りかかった。


「げふぅぅ!!」


修のデコピンで、ミスリルヘルムが凹んだ。

団長を介抱しに来た騎士が蒼白な顔で凹んだミスリルを見ていた。


「えーっと、これで良いですかね」


挑戦者が現れなくなったので、修がファウスに向かって首を傾げた。


「・・・・うむ。ありがとう。ところでシュウ殿」


ファウスはがっちりと修の肩を掴んだ。


「はい?」


何かすごく力が入っていた。

「絶対逃がさねぇ」と言う意思がそこに籠っていたが、修は知る由も無い。


「一度私の妹の娘と会ってみないかね?」


目がマジだった。

それは姪と呼ばれるのでは?と修は思いながら首を横に振った。




そこから、修の訓練内容について質問があった。

全員興味津々だった。


修は思い出していた。


「あれは10歳の頃ですかね。気付いたらボロボロのイカダに乗って、海に居ました」


そう、布団で寝ていたはずなのに、気付けば大海原のど真ん中だった。


「見回しても、周りに島はありませんでしたね。唯一見つけたのは船でした」


見渡す限りの水平線だった。

後で知ったが、太平洋のど真ん中だった。


「船に乗っていたのは祖父でした。祖父は何かの血を海にまき、『生きて帰って来い!』と叫んで離れて・・・!!」


祖父が無慈悲に船のエンジンをかけ、ぐんぐんと遠ざかる。


「す、すぐにサメに囲まれました。はっ?!イ、イカダが壊れる!」


修の目が、虚空を見始めた。

修の頭の中で、血の臭いの誘われた鮫が、修の乗るイカダの周りを旋回し始めた。

獲物と判断されたのだろう。

ボロボロのイカダに食いつかれた。

それだけで、イカダはあっさりと分解してしまった。


「・・・シュウ様?」


修の様子に、ポーラが訝しげに首を傾げた。


「く、来るなぁぁぁぁあああ!!!うおおおおおおおおっ!!!・・・はぁはぁ・・・な、なんだこいつは?!でっ、でかい!?」


海に落ちた修を、無数の鮫が襲う。

海の中、修は必死にその拳と足で応戦した。

そして無数の鮫を撃退したその時に、奴が現れた。

途轍もなく巨大な鮫だった。

メガロドン的な存在が、修に向かって突進して来たのだ。


「う、うわあああああああああああああああ!!!!こ、こんなところでぇ、死んでたまるかぁぁぁぁぁあああああ!!!」


その日、修は水面を走る術を習得した。

しかしそれでもメガロドン的な存在から逃げ切ることは叶わず、海の上で交戦することになった。

修、10歳の夏の忌まわしい記憶である。


「シュウ様!シュウ様!!」


蒼白な顔でガタガタ震える修を、ポーラが必死に揺すって呼びかけた。

騎士団たちは、一様にかわいそうなものを見る眼で修を見つめていた。

何故だろう。

今日一日のアクセス数がおかしい気がします・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ