42話 キャッキャウフフ
それからすぐに帰ることになった。
カマンはホクホク顔だった。
上手く行ったらしい。
馬車の数も何気に倍になっていた。
商売上手なのだろう。
帰り道は何の問題も無かった。
相変わらず暇を持て余したが、行きよりも他の護衛達と話が弾んだ。
連日酒を飲んでどんちゃん騒ぎをした結果だろう。
ポーラもことあるごとに、バングルを見てぼーっとしている。
時々一人で微笑んだりしている。
男がやると気持ちが悪いが、美人がすると胸キュンものだった。
男達がちらちらとポーラの様子を覗き見ていたが、悦に入っているポーラは気付いた様子は見せなかった。
それが何日も続くと、流石にポーラも気付き始めた。
男の視線を嫌がったポーラは、堂々と修に擦り寄り始めた。
自分は誰の物かアピールしようと考えたのだ。
「くすぐったいよ」
擦り寄られた修は、くすぐったそうに笑った。
「・・・はい」
ポーラはそう言いながら離れなかった。
むしろ修の首に両手を回して胸元や首に頬を摺り寄せた。
修が撫でてやると、ポーラの尻尾がぶんぶんと振られ始めた。
お尻まで揺れている。
更に撫でまわしてやると、ポーラは腹を見せんばかりに喜んだ。
犬っぽい。
しかし押し付けられるのはおっぱいだ。
服越しでも感じるこの質量。
実に素晴らしい物だった。
キャッキャウフフする修とポーラに、男達は血涙を流して修を憎んだ。
(想いだけで人が殺せたら!!)
そんな物騒なことまで考えていたが、怖くて喧嘩など売れる訳は無い。
それに、ポーラさんは修以外にはとても冷たい目を向けてくるのだ。
心が折られる。
そんな愉快な帰路を終えた後、修たちはようやく家に帰った。
買って日がそれほど経ってないとはいっても、やはり久々の我が家に入るとどこかほっとできた。
「久々だねぇ」
やはり我が家というものは、良い物だ。
修は心の奥底からそう思った。
「はい」
ポーラもどこか安心したように頷いた。
が、すぐに薄く埃が積もり始めていることに気付いた。
「シュウ様。今日はお掃除致します」
迷宮に潜ることは止め、休憩がてらに掃除することになった。
修も当然と言う顔で手伝い始めた。
「シュウ様はお休みして頂ければ・・・」
ポーラは申し訳なさそうにそう勧めてきたが。
「二人でやった方が早いよ」
修がこういってサクサクと掃除を始めてしまうと、申し訳なさそうな顔をしたまま、何も言わなくなった。
しかし、二人で掃除をしたおかげですぐに終わった。
元々ポーラが綺麗にしていたこともあり、埃さえ取り除けば終わったのだ。
後はまったりして、久々のポーラの手料理に舌鼓をうち、やはり一緒のベッドで朝を迎えた。
ちなみにこの日のポーラは、紐だった。
ずらすとそこはワンダーランド。
実に良い物だった。
翌朝から迷宮に向かった。
懐かしき11層だ。
「はっ!!」
相変わらずのマッスルウォール相手だ。
ポーラはマッスルウォールの体当たりを苦にもせず、ひらひらと避けて剣を叩き込んでいる。
シャラと比べると、やはり動きが断然違う。
武器の攻撃力も天と地の差だ。
シャラはグルードッグ相手に何十発も叩き込んでようやく仕留めていたのに、ポーラは十にも届かぬ数で仕留めている。
やはり装備は大事だ。
しかしそれにしても、ポーラの動きが前より良くなっている気がする。
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LV.31
ポーラ
獣人:♀
17
剣士LV.34
『探索者』
『○○○』
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剣士のレベルが上がっていた。
訓練の成果だろうか。
デコピンをかましまくったが、ちゃんと成長できているらしい。
「せいっ!」
ポーラの剣が、またマッスルウォールの腹筋を貫いた。
マッスルミートが大量だ。
おかげで、久々ではあったが、探索は実に順調に進んだ。
ボスまで発見してしまった。
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LV.11
ボス・マッスルウォール
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「どうする?」
修は、ボスに気付かれぬように、こそこそとポーラに問いかけた。
「やりましょう」
ポーラはやる気満々だった。
「うん。じゃあいこうか」
修も、問題は無いだろうと判断した。
危なくなったら、修も加勢すればいい。
ポーラは悔しがるだろうが、命大事にだ。
「行きます!」
ポーラはいつも通り、一言叫んで走り出した。
マッスルウォールもポーラに気付き、すいすいと空中を滑って来る。
ポーラは早かった。
マッスルウォールが攻撃を仕掛けようとする直前に加速を加え、まだ不十分な体勢のマッスルウォールに肉薄した。
「はぁ!」
一息に三連撃。
マッスルウォールが苦しげに揺れた。
遅れて、みしりと筋肉を引き締めてポーラに体当たりを仕掛ける。
「っ!」
ポーラは紙一重でそれを躱した。
念のため、盾で体を庇いながらすれ違い、更には剣を腹に叩き込む。
マッスルウォールの筋肉が苦しげに緩んだ。
「せぁ!」
緩んだ隙に、ポーラはまた連続で剣を叩き込む。
正に一方的だ。
マッスルウォールは、一度ポーラから距離を取ろうと後ろに下がった。
しかしポーラは逃がさない。
滑る様にマッスルウォールに接近し、何度も剣を叩き込む。
マッスルウォールは苦し紛れに、ポーラに倒れ込んで来た。
「ふっ!」
ポーラは、それを予期していたかのようにバックステップをして回避した。
マッスルウォールは地面に倒れ込んだ。
そしてポーラは、見事な背筋に上から剣を叩き付けた。
まるで薪割りだ。
必死で起き上がろうとするマッスルウォールに、ポーラは上から無慈悲に剣を叩き付ける。
おかげで、マッスルウォールは少し浮いては地面に叩き付けられる。
「うわぁ・・・」
エグイ光景に、修は思わず呻いた。
マッスルウォールはしばらくすると諦めたようだ。
何とそのまま、水平に動いてポーラの両足を刈ろうと突進して来た。
「!?」
ポーラは俊敏に反応した。
圧倒的優位な体勢になっていても油断していなかったのだ。
マッスルウォールを飛び越えた。
着地し振り返ると同時に剣を振り下ろそうとした。
「・・・」
マッスルウォールの尻があった。
ポーラは振りかぶった剣を停止して、一歩離れた。
マッスルウォールはのろのろと体を持ちあげた。
そして振り返ったところを、飛び込んで来たポーラに腹筋を貫かれた。
ボス・マッスルウォールは力尽きた。
「終わりました」
マッスルミート×5をリュックに押し込んだポーラが、尻尾を振りながら修の元に駆け寄ってきた。
まだまだ元気いっぱいだ。
「うん。お疲れ様」
修はポーラの頭を撫でて褒めてあげた。
ポーラは嬉しそうに微笑んで、大きく尻尾を振った。
その勢いでお尻も揺れていた。
素晴らしい。
しかし、と修は考える。
こんなに可愛いのに、ポーラの攻撃が日に日にエグくなっている。
確かに効果的ではあるが。
これは良いことなのだろうか。
流石に疲れました




