39話 二人分の絶望
筆が進むときってあるじゃないですか?
それがたまたま連日来ただけで・・・。
最初は胡散臭げな顔をしていたシャラは、すぐにポーラに尊敬の眼差しを向け始めた。
時々負った怪我も、修が治すと目を丸くした。
これにはサムハンも仰天していたが。
今ではポーラから剣の使い方について熱心に質問し、うんうんと頷いている。
ついでにサムハンもその話を興味深そうに聞き、剣を振っていた。
勉強熱心な人達である。
流石にすぐに上手くなることは無いが、シャラも色々と考えながら剣を振り始めたようだ。
話し合った結果、ポーラ、サムハン、シャラの三人で、ボスと戦うことにした。
修は完全に回復要員として認識されている。
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LV.6
ボス・グルードッグ
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「っ!」
やはりポーラは防御に徹した。
突撃を躱し、盾で受け流し、グルードッグの体勢を崩すことに尽力する。
「やぁっ!!」
シャラはそこを狙って攻撃をする。
随分慣れたようで、かなり安定して攻撃を続けることが出来ている。
「はぁっ!」
時々シャラの方に向けられる攻撃は、サムハンが上手にカバーしていた。
これこそPT戦闘での醍醐味である。
シャラの攻撃力がさほどでもないとはいえ、何度も何度も攻撃を加えていればダメージは蓄積される。
グルードッグがぐらりと体勢を崩した。
「!」
シャラがチャンスとばかりに斬りかかる。
「いけません!」
ポーラが慌ててシャラに叫んだ。
「?!」
飛び出しかけていたシャラが、ビクリと体を震わせた。
その鼻先を、グルードッグのアッパーカットが掠めた。
立ち上がりながらの攻撃だ。
「ぬぉ?!」
修が叫んだ。
バリエーションが増えている。
仰け反ったシャラが激しく体勢を崩す。
グルードッグは、トントンと軽いステップを踏んでシャラに肉薄した。
そして、顔を狙ってワンツーを放った。
「くぁっ!!」
シャラは辛うじて、鉄の盾で顔をカバーした。
ガギギィ!!とグルードッグの爪と鉄がぶつかり悲鳴をあげる。
シャラは歯を食いしばり、辛うじてその連撃を耐えた。
「なっ?!」
そう思った瞬間、顔の前にある盾を掻い潜って、グルードッグが踏み込んで来た。
剣も盾も間に合わない間合いだった。
「リバーブロー?!」
修が叫んだ瞬間、グルードッグが腰を捻り、シャラの腹めがけて右拳を突き上げた。
その瞬間。
「せっ!!」
ポーラがグルードッグの背中を蹴り飛ばした。
ボディーブローがずれた。
「くっ!!」
同時に、サムハンがシャラを突き飛ばした。
それら二つの出来事により、グルードッグの拳はシャラの脇腹を掠めるだけに留まった。
「つっ!!」
しかし、皮鎧越しにもかなりの衝撃があったようで、シャラは弾き飛ばされた。
その間にも、ポーラはグルードッグの首筋に剣を叩き込んだ。
グルードッグは犬の皮になった。
飛び出しかけていた修は、その勢いのまま吹き飛ばされたシャラに元に駆け寄り、回復魔法をかけた。
「・・・すいません」
シャラは悔しそうにしていた。
「油断大敵。最後の最後にこそ、注意をしなければ」
サムハンはシャラが無事なことに安堵の息を吐いた。
そして剣を収めながらシャラに忠告をする。
「・・・はい」
シャラは項垂れた。
そのまま、七層に向かった。
シャラは七層は初めてだそうだが、楽が出来る今のうちに体験しておこうと言う話になったのだ。
戦い方は今までと同じだが、念のため、ボスと同じく、サムハンがシャラの側にいることに決めた。
シャラも先ほどの出来事で気を引き締め直した様子だ。
そして接敵した。
「うぐっ!」
その瞬間、修は腹を押さえて青い顔をした。
「シュウ様!!」「シュウ君?!」「シュウさん?!」
ポーラが悲痛な顔で。サムハンとシャラは何が起きたの理解できぬ顔で叫んだ。
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LV.7
グリーンバニー
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悪夢が立っていた。
この迷宮でも、グリーンバニーは七層に居たのだ。
「うぅ・・・」
グリーンバニーを見たシャラも、顔を蒼白にして後ずさりした。
「シュウ君、君は・・・」
サムハンは、何かを理解した顔で修を見つめて来た。
「・・・大丈夫。大丈夫ですから」
修は青い顔のままで呻くように言った。
一匹目は、ポーラが鬼のような形相で抹殺した。
「よくもシュウ様を!!」
グリーンバニーに罪は無い。
完全に八つ当たりである。
しかし、こいつのせいで昨晩はスケスケも紐も試せなかったのだ。
サムハンは納得顔で。
シャラは不思議そうな顔でそれを見ていた。
ポーラの怒涛の攻撃により、グリーンバニーは、すぐにウサギの肉になった。
「・・・・・・・え」
シャラはそれを見て凍った。
「・・・・ウサギの、肉です」
ポーラは沈痛な顔で呟いた。
シャラの顔がサーッと青くなった。
「・・・はぅ」
そして失神した。
シャラも、食べたことがあるらしい。
体調不良者続出の為、七層から逃げる様に帰還した。
目を覚ましたシャラは、青白い顔でガタガタと震えていた。
「・・・二度と。二度と迷宮の食材は口にしません」
とても固い決意だった。
難を逃れていたらしいポーラとサムハンは、どこか安堵した顔で頷いていた。
修も、食べる前には必ず確認するようにと決意していた。




