38話 ハンサム
あー今日こそ無理だわーもう更新できないわー(棒
ハンサムはサムハンと言う名前らしい。
相変わらずのハンサムフェイスで話しかけて来た。
「先日は失礼したね。お嬢さん」
「・・・はぁ」
ポーラは実に嫌そうに返事をした。
しかし、この日のハンサムは凍らなかった。
一回で耐性を作ったらしい。
不屈のハンサムである。
「・・・君たちは探索者かな?ああ失礼、私の名前はサムハン。こちらはシャラだ」
丁寧に頭を下げると、後ろにいる女性を紹介して来た。
「シャラです」
シャラと言う女性は非常に美人だった。
ただし、とても強気な目をしている。
「これはご丁寧にどうも。シュウです」
嫌そうにするポーラを諌め、修が大人の対応をした。
「・・・ポーラです」
そうするとポーラも不承不承ながら自己紹介をした。
ポーラ的には、二人っきりのデートの水を差された気分なのだ。
無意識に巻いたバングルをなぞりながら不承不承頭を下げる。
「突然で申し訳ないね。今時間はあるかな?」
ハンサムが柔らかい態度で聞いて来た。
「はい・・・」
本当に突然の申し出だったが、修が頷いてしまった。
「・・・・・・」
ポーラは実に不満そうだ。
ハンサムは申し訳なさそうに笑った。
「ご覧の通り、私達も探索者なのだ。しかし最近、この子は同じ魔物ばかりで飽きてしまったようでね。刺激を与えてやりたいと思っていてね」
修がシャラを見ると、つんと顔を逸らした。
「はあ」
修はどうしていいものか分からず、相槌を打った。
「そこで、だ。年も近そうだし、君たちと少しPTを組ませて欲しいんだ。良い経験になるだろう」
修とポーラは目を丸くした。
ヘッドハンティングなら経験があるが、こういう申し出を受けたのは初めてだ。
「・・・」
黙った二人に勘違いしたのかサムハンは取り成す様に言ってきた。
「ああ大丈夫。そんな深くにはいかないよ。5、6層を予定しているが、もう少し下げた方がいいかな?」
ポーラはようやくデート気分を取り下げた。
「私たちは11層まで行っております」
探索者の顔をして、サムハンの勘違いを訂正した。
「?!」
シャラは仰天して目を丸くした。
まじまじとポーラと修を見て、信じられぬと言う顔をしている。
「なんと!それは心強い!是非とも、力を貸してもらえないだろうか」
サムハンも驚いていたが、こちらは逆に微笑んだ。
サムハンは、心までハンサムであった。
「はい、大丈夫です・・・よね?」
修も違う迷宮には興味があったので頷きかけた、ところで途中でポーラを見た。
「・・・はい。そういうことであれば」
ポーラも、他の探索者と組む経験が無かったので、一時的と言うことであればと頷いた。
「ありがとう。恩にきるよ。シュウ君、ポーラ君。ほら、シャラも」
サムハンは相変わらずハンサムな対応をしてきた。
「・・・お願いします」
シャラは疑わしそうにこちらを見ていたが、サムハンに言われて頭を下げて来た。
修とポーラは、サムハンのPTに入れてもらった。
そして予定通り、六層に向かった。
魔物を探し歩きながら、修とサムハンが雑談を続けていた。
「君たちはファウスの街の探索者か。あそこで最近ドラゴンが迷宮から出てしまったらしいね」
サムハンは、男相手でも話題を切らさない。
ハンサムの鑑である。
「そうですね」
修もハンサムの話に乗っていた。
「・・・・ところで、君たちの装備は・・・」
サムハンが、修とポーラの装備を見て呟いた。
「ドラゴンのですねぇ」
修はあっさりと暴露した。
「・・・そうか。君たちも戦ったのか。若いのに大したものだ」
サムハンは感嘆した。
疑わしそうに見つめて来るシャラとはえらい違いだった。
「ははは」
修は「僕がやりました」とは言わなかった。
聞かれたら隠さずに言うつもりだったが、聞かれなければ答えない。
「あ、来ます」
笑っていた修がポツリとつぶやいた。
「うん?」
サムハンがとシャラが首を傾げた。
「・・・グルードッグですね」
続けてポーラが鼻を鳴らして呟いた。
すぐに『ぐるるるるぅぅぅぅ』と獣の唸り声が消えて来た
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LV.6
グルードッグ
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レベルの高いグルードッグが現れた。
使い回しかよ。
神仕事しろ、と修は思った。
「・・・なんと」
サムハンは、グルードッグが現れる前に察知した修とポーラに驚愕を隠せないようだった。
「ではまず私が」
ポーラが剣を抜いた。
「気を付けてね」
問題は無いだろうが、一応修が声をかけた。
「はい!」
ポーラが元気よく返事を返すと同時に、駆けだした。
グルードッグのレベルが上がっているとはいえ、ポーラとの差は大きい。
全く相手になっていなかった。
「はっ!!」
飛びかかったところを、脳天に剣を叩き込まれてグルードッグが地面にべちゃりと落ちる。
その隙を逃さず、ポーラはグルードッグを蹴り飛ばした。
そしてすぐに追撃を行う。
「・・・見事なものだね。私よりも強いな」
サムハンがポーラを見て感心していた。
「そんな。サムハン様よりも・・・?」
シャラは信じられぬ、と言った顔でサムハンを見ていた。
ポーラを見てろよ、と修は思ったが、口には出さなかった。
「ふふっ。私はようやく駆け出しを卒業したところだよ。精進あるのみだ」
サムハンマジハンサム。
「・・・・」
シャラが悔しそうな顔をしてようやくポーラを見た。
グルードッグは既に瀕死だった。
すっくと二本足で立ち上がり、シュッシュと虚空にジャブを放つ。
そのまま軽いステップでポーラに接近し、ワンツーを放った。
修たちの潜っていた迷宮では、ボスしか行わなかった攻撃だ。
レベルが上がると、違いがあるのだろう。
しかし、ポーラは予想していたようだ。
ジャブを軽くかわし、渾身の右ストレートに対して、盾で殴り返した。
「うわ・・・」
修が呻いた。
ポキッ、と良い音が鳴り、グルードッグの腕が折れた。
愕然としたグルードッグの、隙だらけの首にポーラが剣を叩き込んだ。
「しっ!!」
グルードッグは犬の皮になった。
「お見事」
汗一つ流さずに帰って来たポーラをサムハンが賛辞した。
「次は私が受けます。攻撃はシャラさんが」
ポーラはサムハンに頷き返すとシャラに向けて言った。
最初にどん底まで落ちたサムハンの評価は、随分と上がっている様子だ。
「・・・はい」
シャラは呆然とポーラを見ていたが、顔を引き締めて頷いた。
ポーラはグルードッグの正面に立ち、ひらひらと攻撃を受け流して、回避していた。
「くっ!!このっ!!」
シャラが隙を探しては剣を叩き付ける。
しかし、ポーラに比べると遅いし鋭さも欠ける。
何度も何度も剣を振っていた。
それを眺めている男二人は暢気に会話していた。
「いやはや。ポーラ君は本当に凄いね」
サムハンは感心しきった様子でポーラを見つめていた。
グルードッグの攻撃を一手に請け負いながらも、危ない様子をみせない。
むしろ段々とシャラが動きやすいように位置取りまで考えて移動し始めている。
「そうですねぇ」
修も頷いた。
ポーラは今のうちにPTの練習をしているのだろう。
勉強熱心なポーラに、修も感嘆した。
「ふふ。君も余程できるんだろう?」
サムハンが修に微笑みかけた。
「まあ、ポーラよりは」
修はあっさり頷いた。
「・・・若いのに、大したものだな、本当に」
サムハンは、眩しそうに修を見つめて来た。
多少嫉妬心を持ちながらも、素直に褒めて来る。
『ハンサム』と言う称号があれば、彼にくれてやりたい気分だった。
「まあ、頑張ってますから」
修も謙遜せずに頷いた。
「私も頑張らねばな・・・」
サムハンも表情を引き締め、ポーラの動きを盗もうとじっと眺めはじめた。
「でもサムハンさんも、もっと上に行けるでしょう?シャラちゃんを鍛えてるんですよね」
サムハンも、レベル的には、10層は越えていてもおかしくは無い。
「ああ。あの子も探索者になると飛び出した口でね。見ていられなかったからね、大人として少しは面倒を見ようとね」
サムハンはポーラから目を逸らさぬまま、苦笑した。
ハンサムすぎる。
「御立派ですよ」
修は心の奥底から言った。
「・・・ありがとう」
サムハンは恥ずかしそうに笑った。
このハンサムは、良いハンサムです。
潰され役でも弄られ役でもありません。
ましてやお星様になどなりません。
・・・たぶん




