02話 神様、説明をする
神は必死で説明した。
修が現れたのは偶然だった。
自分が呼んだっぽいことを言っただけだと。
自分にできるのは、自分で作った世界に人を降ろすことくらいだと。
修の拳に怯えた目を向けて、必死に話した。
全てを聞き終えて、修が項垂れた。
「じゃあ、もう戻れないの?」
神も項垂れて答えた。
殴られるのは勘弁してほしかった。
「・・・はい。すいません・・・・」
修は溜め息一つ吐くと、頭を切り替えた。
馬鹿は馬鹿でも、気持ちのいい馬鹿だったのだ。
「あんたは悪くないんでしょ?いいよ、謝らなくて」
神は恐る恐る顔をあげた。
青い顔で、ちらちらと修の拳の様子を伺いながら頷いた。
「はい・・・・」
修は天を仰いで呟いた。
「そっか・・・・」
続き、見たかったなぁ・・・。等と呟いている。
修は顔を戻すと、神と向かい合った。
「あんたの世界に行くとして、俺は何すればいい?」
「好きにしてください」
神はあっさりと言った。
修は目を丸くした。
「何でもいいの?」
神は頷いた。
「はい。私の作った世界がアレなんですけど」
次いで、自分の足元を指差した。
修も足元を見た。
ガラスの様な透明な空間の眼下、世界が広がっていた。
「うん」
神は説明しづらそうに、眉を寄せて口を開く。
「こう、思い通りになりすぎてるんですよね。何て言えばいいのかな。こう、水面がまっ平で動いていない感じ?」
修にも、なんとなく言いたいことは分かった。
「うんうん。それで?」
続きを促すと、神も口を開いた。
「だから私としては、あなたと言う石を水面に投げ入れたい訳ですよ。どんな結果であれ、変化があるので」
修はまた目を丸くした。
「変化あるんだ?」
世界にたった一人人間を放り込むだけで、世界に影響を与えることが出来るなど、信じられなかった。
しかし、神は頷いた。
「はい。修さんより前にも来た人が数人居ましたけどね。いろいろいますよ。英雄になった人とか、世界最高の悪党になった人とか」
修は感心した。
そして、懸念を口にする。
「みんな何かしら成功したの?行ったらすぐ死にましたって落ちは嫌なんだけど」
神は自信たっぷりに頷いた。
「そこは大丈夫です。神様特典をプレゼントするんで」
整った顔で、ぱちんとウインクを決めた。
両頬がリンゴの様に腫れていなければ完璧だった。
「神様特典?」
修が首を傾げる。
「はい。私からのプレゼントです。大体のことは出来ますよ?伝説の剣を手に入れるとか」
神が自信満々に言い放った。
しかし、修の心の琴線にはあまり触れなかったようだ。
「ふーん。ちなみにどんな世界なの?」
あっさりとスルーした。
神は密かに肩を落とした。
明らかにテンションが下がった口調でぽつぽつと口を開き始めた。
「・・・人間とか亜人が居ます。亜人は結構奴隷にされてたりしますね。・・・亜人って分かります?犬耳とか生えてる人間です」
「うん。奴隷いるんだね」
修は頷いた。
つい最近ゲームで知った。
修が頷くと、神が続けて口を開く。
「奴隷が居ないと世界が回りませんよ。少なくとも私の世界では。・・・後は普通に獣とか魔物とか」
修の目がキラリと輝いた。
「魔物?!」
祖父の英才教育の結果、立派なバトルジャンキーとなってしまっていたのだ。
喰いついて来た修に、神も微かにテンションを持ち直した。
「獣の強い奴ですよ。強いのだとドラゴンとかそういうの」
修が、キラキラと輝く瞳で神を見つめて来た。
「へぇ~!!後は?!」
そんな目で見られる神のテンションが上がって行く。
「これが私の世界の特徴なんですけどね?迷宮があります!」
どうだ!と言わんばかりのドヤ顔で言い放った。
グーを顔面に放り込まれることも無く、修の心の琴線に触れた。
「迷宮!!ダンジョンとかそういうの?!」
鼻息を荒くして食いついて来る。
神のテンションが益々上がって行く。
「まさしくその通りです!魔物が蔓延る中、最奥にある宝をめざし、人々が挑み続ける!!」
握り拳を作って熱く語った。
修も拳を作って同調した。
「いいねそういうの!」
神は嬉しそうに笑い、気安げに修の肩を叩いた。
「でしょ?!修さん、話がわかるなぁ~!!後はそうですねぇ、人によって『職業』がありますよ!」
神は人差し指を立てて、ふふっ、と笑いながら修に囁く。
「『職業』!!勇者とか剣士とか?!」
修はまたしても食いついた。
最近RPGゲームにはまっていたのだ。
神のテンションが突き抜けた。
親友の様に気安げに肩に手を回して、快活に笑った。
完全に地が出きっていた。
「そうですそうです!!『カードオープン』・・・こう言うと、その人の情報が載っているカードが出来ますよ!やってみてください!」
神の言う通りに修が言葉を放つ。
「カードオープン。・・・・おお!!!すごっ!!!」
すると、修の手に、一枚のカードが浮かび上がった。
「それが修さんの情報です!どうですか!」
神は天狗になった。
テンションと鼻の長さが直結すれば、どこまでも伸びていただろう。
修は尊敬のまなざしを神に向けた。
「神様すげぇー!!」
心の奥底から放った言葉だった。
「でしょぉ!!」
神が天狗になりきった。
が、
「・・・・・・え、ちょっと待って。それ見せて」
ちらりと見えた修のカードの内容に眉を顰めた。
慌てて、差し出されたカードを見た。
----------------------------
LV.1
カンザキ シュウ
人間:♂
18
拳士LV.■■
『神を殴りし者』
『拳を極めし者』
----------------------------
修が自分のカードを見て、残念そうに呟いた。
「レベル1なんだ・・・」
神は食い入る様にカードを見つめながら、反射で口を開いた。
「・・・・・・・・最初は、基本レベルは1から何だけど。でもちょっと待って。え?拳士のレベルおかしくない?何でバグってるの?」
神は、心底不思議そうに、修の顔を見つめて言った。
修も眉を寄せて首を傾げた。
「・・・俺に言われても」
そもそも、システムを作ったのは神のはずである。
修が知るはずも無い。
神は一人でぶつぶつと呟いている。
「極めてるよ?18歳で極めてるよ?99でカンストだよ?ていうか『神を殴りし者』って・・・。・・・・あ!!」
おもむろに、神が大きな声をあげた。
修が首を傾げた。
「何か分かったの?」
神が難しそうな顔をして、口に手を当てた。
「・・・たぶん、うちの世界では99が最高なんだけど、そっちの世界ではもっと上が上限だったんじゃないかな・・・?」
『いやでもおかしいでしょ。99まで行く人とか居ないから』などと呟いている。
修は呟いた。
「・・・そっかぁ」
(『・・・そっかぁ』、じゃねぇよ!!)
神は心の中で思った。