37話 引き分け
嘘は言ってませんから(震え声
修が気付かぬうちに変態たちに尊敬された後、ようやく帰路についた。
精神的に力尽きた修は、ふらふらとした怪しい足取りだった。
原因となったポーラは心配そうに修の隣を歩いていた。
これ以上ふらつけば肩を貸そうかと考えていたのだが、修の精神は段々と回復していった。
切り替えの早い男である。
修の足取りがしっかりしたものとなり、ポーラがほっと安堵の息を吐いた。
「お嬢さん」
その時、ポーラに声がかけられた。
「・・・はい?」
ポーラが振り向いた。
そこに居たのはハンサムな男だった。
とてもハンサムな男だった。
探索者風の装備に身を包みながらも清潔感が保たれており、輝くハンサムスマイルを浮かべていた。
むやみやたらに白い歯がキラリと光った。
「おお、やはり美しい。お嬢さん、私に少々時間を頂けないだろうか?」
ハンサムは、声までハンサムだ。
内容までハンサムっぽかった。
行動もハンサムっぽく、優雅に体を動かしてポーラに向かって首を垂れた。
周りを歩いていた女たちが、ポーラを羨ましそうに見ていた。
「・・・は?お断わります。気持ち悪いです」
ポーラはハンサムをバッサリと切り捨てた。
「・・・・・え」
ハンサムのハンサムスマイルが凍った。
ハンサムには、ハンサムとしての絶対の自信があったのだ。
それがポーラに打ち砕かれた。
ハンサムはハンサムだったが、修に対する乙女フィルターを完備するポーラにとってはかぼちゃと同じだった。
さしもの修も、気の毒そうにちらちらとハンサムを見つめていた。
「ポーラ・・・」
言外に、ポーラにフォローを勧めた。
しかしポーラは修の腕を掴んだ。
「行きましょうシュウ様。アレがうつったら大変です」
ずるずると修を引きずってハンサムから引き離そうとした。
まるで病原菌扱いだ。
「あ、ちょ・・・・」
すぐに二人は居なくなった。
「・・・・・・・・・・・・」
後には、凍ったハンサムだけが残された。
その日の夜は、カマンの護衛や使用人達でどんちゃん騒ぎを繰り広げた。
見目麗しいメイドさんズはカマンと共に店に滞在しているので、必然的に女性人口は下がった。
ポーラと、宿のおかみさんだけだった。
ポーラは非常に珍しい色の毛並みだが、とっても美人だ。
何より胸がでかい。
おかみさんはこういう場所では非常にありふれた存在だ。怒らせるととてもおっかなそうだ。
胸はポーラよりさらにでかい。腹も。
必然的に、ポーラの周りに男達が集まろうとする。
しかしポーラは実にさりげなく、おかみさんの周りに居るのだ。
男達がポーラに賛美の言葉を贈ると、その瞬間おかみさんの影に隠れる。
賛美の言葉はおかみさんに送られることになる。
「うまいこというねぇぼうず。がはははは!!」
おかみさんのトロル並に太い腕が、男達の肩と心をへし折っていった。
そんな愉快なことを繰り広げて行くうちに、一人また一人と酔いつぶれて部屋に帰って行く。
ポーラが訓練がてらに男共をさばいている間、修は恐ろしい勢いで、がつがつと飯をかっくらっていた。
「おかわりっ!!」
また一つ皿を殲滅し、厨房に向けて叫ぶ。
すると厨房から巨大な包丁を持ったおっさんが現れた。
宿のおかみさんの、旦那さんだ。
「やるじゃねぇかボウズ・・・!」
旦那さんは瞳に炎を燃やし、恐ろしい勢いで包丁を振るい始めた。
並の腕ではない。
しかし、相手が悪かった。
「うめーうめーうめー」
飢えたライオンすら捕食する男、修にかかっては、如何に旦那さんと言えども歯が立たなかった。
じりじりと追い込まれている。
(奴のは腹は底なしかっ!!)
旦那さんは戦慄する。
しかし、負けるわけにはいかない。
30年。
料理人として、この世界を戦い続けていた。
人生の半分も歩んでなかろう若造に負けるわけにはいかぬ。
旦那さんは、心を奮い立たせてフライパンを振っていた。
幾つの食材が修の胃に消えただろう。
細身からは信じられぬ、いや、太っていても喰い切れぬはずの量の食事を腹に詰め込み、修は喰らい続ける。
そして遂に、食材が尽きた。
100人以上の人間を賄えるはずの量を準備していたはずなのに。
賄いに使おうと思っていた『あの肉』まで使ったと言うのに。
もはやここまでか。
旦那さんは、敗北感に身を震わせた。
最後の『肉』が、修の口の中に入った。
「あっ!!」
殆どの男をさばき切り、修の元に返ってこようとしていたポーラが、叫んだ。
その叫びの意味を理解しないまま、もちゃもちゃ、ごくん。と修は呑み込んだ
※良く噛みましょう
「・・・・・・ん?」
そしてポーラに首を傾げた。
ポーラは蒼白な顔だった。
ポーラの鼻は良い。
気配察知では修に劣るが、修が察知できぬことも知ることが出来るのだ。
「あの・・・・・・ぎ・・く・・です」
ポーラはカタカタ震えながら囁いた。
良く消えなかった。
「え?何て言ったの?」
修が腹を撫でながら問いかけた。
久々に食い溜め出来て、満足そうに笑っていた。
「・・・う、『ウサギの肉』です・・・・」
ポーラの震える声を聞き、修の笑顔が固まった。
「え?」
ポーラは沈痛な面持ちで呟いた。
「さっき、シュウ様が、食べられたのが・・・」
修の頭の中に、グリーンバニーが走馬灯のように流れた。
千差万別のポージングを決めていた。
アレが、腹に?
「ぐふっ・・・」
修は力尽きた。
「シュウ様!!」
旦那さんは、賄に使おうと思っていた『ウサギの肉』で引き分けに持ち込んだのだ。
しかし、旦那さんは『ウサギの肉』が何から取れるのかは知らない。
故に、何故修が倒れたのかは分からない。
ポーラに担がれて運ばれていく修を見て、旦那さんは首を傾げていた。
修がダウンしたおかげで、その日の夜は、折角購入したスケスケも紐も、隠していない物も使われなかった。
しかし、ベッドが一つしか使われなかったので、翌朝おかみさんがポーラにサムズアップして来た。
誤解である。
翌日、持ち直した修とポーラはまた街をぶらぶらと散歩していた。
「あ」
昨日出会ったハンサムと再び出会った。
しかも隣に美人が居た。
二人とも探索者だろう。
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LV.17
サムハン
人間:♂
23
剣士LV.16
『探索者』
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LV.8
シャラ
人間:♀
19
剣士LV.6
『探索者』
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二人がかりでもポーラには勝てなさそうだ。
修は戦闘民族的思考でそう思った。
※お詫び
シャラさんが♂になってました。
♀です。
すいません。
これだからコピペ中は・・・




