36話 そして伝説に
カマン含む、様々な人から問い詰められた。
が、修は「出来るんだから仕方ない」と返事をし続けた。
何だか、神様はとても偉い人の様なので、迂闊な発言は控えたのだ。
修とは思えぬ少しは頭を使った行動だ。
同じ答えしか返さぬ修に、皆問い詰めることは諦めた。
そして、ちょうどそんな頃に街に到着した。
カマンは親戚が経営していると言う店に向かった。
カマンの店と同じくらいに大きかった。
彼の家系は商売上手なのだろうか。
修たちは、店の近くにある宿屋を貸し切ってあるそうで、そちらに案内された。
考えてみれば、この世界の宿に泊まること自体も初めてである。
基本的に一人一部屋案内されていたが、修とポーラは二人部屋に案内してもらえた。
周りの目が痛かった。
ポーラは気にした様子も見せなかったが。
街の中では護衛は必要ないと言われているので、自由時間だ。
修はポーラと共に街に繰り出した。
ある程度距離が離れているとはいえ、近場の街だ。
そんなに違いは無いだろうか、と考えていたのだが、そんなことは無かった。
勿論同じものも沢山あったが、見たことが無い食材が沢山あった。
「・・・随分違うねぇ」
修がキョロキョロと店を見回しながら呟いた。
「迷宮で取れる物が違いますから」
ポーラはそんな修の様子を微笑ましそうに見ながら答えた。
「そうなんだ?」
修が意外そうにポーラを見て呟いた。
「はい。出て来る魔物が違うそうです。勿論同じ魔物も居ますが。その為、手に入りやすい食材が変わるです」
ポーラは一度頷きを返し、店に並ぶ食材を見回しながら言った。
「ふーん。・・・でも、迷宮の食材だと」
修もポーラの視線を追った後、ぼそりと呟いた。
どこかから「ウサギの肉!ウサギの肉を仕入れたよー!!」と言う声が聞こえて来た。
ポーラの脳にグリーンバニーの姿が現れた。
「・・・・・・・」
途端にポーラはげっそりしてしまった。
食材を見ていると不幸になることが分かった。
何の食材を使っているのかわからないものを食べることにした。
食材を知れば不幸になるかもしれないが、永遠に知らなければ良いのだ。
そんなチャレンジャーな精神で買った謎のヤキソバもどきは、とてもおいしかった。
「美味しいねぇ」
思わぬ当たりをひいて、修は嬉しそうに笑ってヤキソバもどきを啜っていた。
「はい」
ポーラも嬉しそうだったが、食べているうちに、自分でも作れるのか。
作るとしても食材は何か、と言う回避したはずの方向へ思考が流れ始めていた。
悩んだポーラは、修の顔を見た。
とても良い笑顔だった。
「・・・・・・・・・・・」
もしかすると、この笑顔を打ち崩す結果になってしまうかもしれない。
無理矢理そう考えたポーラは、危険な考えを放棄した。
装備品を見て回った。
が、修とポーラが装備している以上の物など、そうあるわけが無い。
ウィンドウショッピングを楽しんでいると、修が何かを見つけた。
「あ」
隣を歩いていたポーラが修の視線を追った。
「?」
そこは装飾店だった。
店の一番目立つところに置いてある装備を見て、修が呟いた。
「ミスリルバングル」
白銀に輝き、上品な模様が掘られている。
「アクセサリーですね」
ポーラもそれを見て感嘆した。
ミスリルは非常に高い。
魔よけの効果があるそうだ。
具体的には魔法攻撃の軽減や、そういった魔物へ攻撃が通ったり、逆に防げたりするらしい。
とはいっても、バングルだけでは気休め程度だろう。
ぶっちゃけ修には必要はないし。
しかし、ミスリル製品など、ポーラも数えるほどしか見たことが無い。
修は店に入ってミスリルバングルをまじまじと見つめた。
「ポーラに似合いそうだね」
色も合うし、悪目立ちするようなものでもない。
見れば見る程に上品な模様だ。
実際、細身のポーラに良く似合いそうだ。
ポーラは褒められて嬉しそうにはにかんだ。
「そうですか?ありがとうございます」
突如、修が店の奥に叫んだ。
「これくださーい!」
「え?!」
ポーラの脳が停止した。
お世辞だと思っていたのだ。
中から、こんな商品を扱うとは思えない無骨なおっさんが出て来た。
「あいよー!おう、・・・男だよな?彼女にプレゼントか?たけぇぞこれは」
初めは修を見て自信なさげに聞いて来たが、修が頷くと途端にがははと笑い始めた。
本当に、装飾品をやっているとは思えないようなタイプの親父だった。
武器屋が似合っていると思う。
それも客と喧嘩して殴り倒すタイプの武器屋だ。
「ははは余裕ですよ、はい」
そんな失礼なことを思いながら、修はあっさりとミスリルバングルの代金を渡した。
実際金は腐るほどあるのだ。
おっさんも一瞬驚いたが、すぐにニヤリと頬を歪めてポーラの肩をバンバンと叩いた。
「ほぉ、やるじゃねぇか。よかったな姉ちゃん!」
停止していたポーラが、ようやく再起動した。
「・・・えっ・・・でも・・・その」
ミスリルはとても高価な物だ。
領主のファウスで、ようやく一式揃えられる程だろう。
ミラードラゴンのおかげで、あの街では暴落したのかもしれないが。
しかし、それでも高価すぎるものだ。
「ほい、手を出して」
あわあわしているポーラに、修が言った。
「・・・・・・・・」
反射的に腕を伸ばしたポーラの腕に、修はバングルを嵌めてやった。
「ほら、似合う似合う」
修が嬉しそうに笑った。
「ありがとう、ございます・・・」
ポーラの眼からじわりと涙が溢れた。
ぐすっ、と鼻を鳴らして頭を下げる。
嬉し恥ずかし青春ラブコメをみせられたおっさんは、拳を握っていた。
「くぅ~!良い話じゃねぇか!おし兄ちゃん、これも買え!揃えろ!なんか良いことになるって噂だぜ!」
奥に走って行ったかと思うと、ミスリルバングルをもう一つ持って帰って来た。
良い話に便乗して高い物を売りつけようとしている。
しかも怪しいことを言っていた。
「まけてよ」
修がさらりと言った。
逞しい男である。
「あん?しかたねぇなぁ・・・」
おっさんはしぶしぶながら、多少安くしてくれた。
「ありがとうございます!」
修の腕には、おっさんがつけようとした。
それをポーラが飛びつくようにして奪い取り、ポーラの手で修に嵌めた。
「シュウ様も、良くお似合いです・・・」
ポーラが真っ赤な顔で囁いた。
尻尾もしおらしくくるりと丸まっている。
ポーラはうっとりと自分と修の腕に嵌めてあるバングルを見比べている。
「そ、そう?ありがとう・・・」
修も照れ臭そうに頭をかいた。
おっさんは空気を読んで、こそこそとフェードアウトした。
ポーラのテンションが過去最高に高まった。
次に、ポーラが服屋をちらちらと見つめていることに気付いた修は、ポーラをそこに連れて行った。
そして後悔した。
前回は、奴隷だった時もあり精一杯遠慮していたのだろう。
「これはどうでしょうか」
ポーラが、もはや幾つ目かもわからぬ服を持ってきた。
自分の首から下に服を合わせて修に質問してくる。
「ポーラに似合うと思うよ」
修は疲れのにじみ出た顔で微笑んでいた。
修がそういうと、ポーラは更にもう片方の手に持っていた服を修に見せて来た。
「これとこれでは?」
修は軽く虚ろな目で二つの服を見比べる。
どっちがいいのかは良く分からない。
何度もそう言ったが、ポーラは解放してくれないのだ。
「・・・・こっちかなぁ」
結局、特に違いを見いだせぬままに片方を指差す。
するとポーラは、指差されなかった方の服を置くと、更に背中から新しい服を取り出した。
まるで魔法の様だった。
「そうですか。では、こちらと比べると」
修の目が更に虚ろになった。
「・・・・・・こっち、かな」
辛うじて残った理性で、ポーラに合いそうな方を指差す。
「ではこれに」
ポーラはようやく決定した。
修はようやく解放されると思って、深い安堵の息を吐いた。
「ではシュウ様の分も・・・」
地獄は続いた。
最後の方はもう、「そうだね」と「ポーラの好きにしていいよ」しか言わなくなった修の服もようやく決まった。
修は、宿に戻ったら昼寝をしようと決意した。
「シュウ様、こちらもお願いします」
そして真の地獄が襲い掛かった。
修とポーラの居た店は、ぱっと見は、大きな普通の服屋だったのだ。
奥にある一部を除いては。
修は、ポーラにそこに連れ込まれた。
ピンク色だったりスケスケだったりして、男が決して立ち寄れぬ空間に、修は連れ込まれた。
衆目の中を。
ポーラは、スケスケと紐を持っていた。
「シュウ様。こちらとこちらではどちらが・・・」
修も男である。
エロイのは大好きだし、それをポーラが着るとなるとテンションが上がる。
しかし、無数の視線に晒されている今は、まるで拷問だった。
修は両手で顔を覆い、か細い声で慈悲を乞うた。
「・・・許してポーラ」
声が小さすぎて聞こえなかった。
ポーラは不思議そうに首を傾げた。
「・・・?どちらがシュウ様の好みでしょうか?」
そして修を崖から突き落とした。
ポーラも悪気はない。
シュウの好みを知りたいだけなのだ。
しかし、店員やら男やら女やらに見つめられる中で暴露できるはずがない。
顔を覆ってぷるぷる震える修を、ポーラは無慈悲に追い詰め続けた。
暴露もできず、しかし買わないという選択肢はポーラにはない。
修は意を決して、「好きにしてくれ」とポーラに耳打ちした。
「・・・分かりました。色はどうでしょうか?」
崖の上から岩を投げ落としてきた。
結局、ポーラは一通り買った。
ちなみに、色はポーラに合わせて白や青系になった。
ポーラの様な美人に、あんまりもアレな服を、しかも全種類購入させたと勘違いされた修は、そっち系のプレイの達人と認識された。
実際に恥辱を味わったのは修なのだが、そんなこと知る由も無い。
修に『キング』と言うあだ名が付けられ、長い間語り継がれることになる。
活動報告通り、らぶ・・・こめ?頑張りました。
燃え尽きたので今日は打ち止めです。




