35話 惨劇
順調に続いた旅だったが、途中で障害にぶつかった。
胡坐をかいて瞑想していた修が、唐突に顔を跳ねあげた。
それに驚いたポーラも、遅れて鼻を鳴らした。
「魔物だっ!」
修が叫ぶと、後続の馬車が慌てて止まる。
馬車に乗っていた護衛達も、馬車を守る様に配置についた。
修が目を凝らす。
森の中の茂みの中。
その中にいる複数の存在を知覚した。
その状態で、修は鑑定を行った。
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LV.1
コボルト
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出来た。
見ていなくても、明確に感じ取れることができれば出来るらしい。
「コボルト、だってさ」
修がポーラに囁いた。
ポーラは緊張の度合いを下げた。
「群れるだけの雑魚です。問題ありません」
ポーラが修に囁き返すと、今度は後ろに向けて叫んだ。
「コボルトですっ!迎撃はこちらで行います!皆さんは馬車の護衛を!」
ポーラの凛々しい叫びを聞くと、護衛達もほっと安堵の息を吐いた。
同時に、声に釣られるようにしてコボルト達が茂みから現れる。
「・・・・」
子犬が無理に二足歩行しているような魔物だった。
素手だったり、木の棒を持っている。
ぶっちゃけ、ちょっと可愛かった。
「ここは、私が!」
修がそんなことを考えていることを知るわけも無く、ポーラが修に一言残して走り出した。
LV.30台 チート装備 VS LV.1 雑魚の群れ
血の惨劇が始まった。
心なしか和んだ目でコボルト達を見ていた修の瞳が、恐怖に輝いた。
野良の魔物は本当に弱い様だ。
コボルトは、ブルーラビットよりも明らかに遅い
ポーラに攻撃を与えようとするもの。
ポーラを掻い潜って馬車を目指そうとするもの。
ポーラから逃げ出そうとするもの。
どいつもこいつも、ポーラの剣により、一刀の元に頭を割られ、首を断たれていた。
しかも迷宮ではないので、素材にならない。
かつては可愛らしかったはずのコボルトだったものが瞬く間に量産された。
ポーラは返り血すらもほとんど躱し、最早戦う意思を無くしたコボルト達を殺していく。
青い顔でガタガタ震える修に気付いた様子も無く、カマンが安心した顔でポーラさん殺戮劇場を見ていた。
「いやはや、ポーラもここまで出来るとは・・・。修さんの教えの賜物ですかな?」
「・・・・・・は?あ、はい。ソウデスネハハハハ」
修が青い顔で、渇いた笑いをあげた。
そして殺戮劇場が終演した。
「やりましたっ!」
頬に返り血を垂らしながら、輝く笑顔のポーラが血塗れの剣を持って走り寄って来た。
「あ、はい。お疲れ様です」
修は何故か敬語で迎えてしまった。
コボルトの死体は、皮だけ剥いで後は一纏めにした。
肉や骨は使えないらしいので、燃やすらしい。
「あ、燃やしましょうか」
修はふと、神に言われたことを思い出した。
そういえば、新しい魔法を使えるのだ。
「む?種火なら・・・」
一人の探索者が不思議そうに首を傾げた。
修は心の中で念じた。
魔法魔法魔法魔法魔法。
ファイアシュートより強い魔法!
心の中に、文字が生まれた。
修はカッと目を開き、死体の山に向かって手を伸ばした。
「ファイアランス!!」
修の手から、炎の槍が飛んだ。
炎の槍はコボルトの山に突き刺さり、数匹の死体を一瞬で炭化させて山の中に潜った。
そして一瞬後に、猛烈な火炎をあげた。
「「「は?」」」
全員が呆気にとられた顔をした。
まず修を見て、次に修の突き出した手を見る。
最後に、猛烈な勢いで燃え盛るコボルトの山を見る。
ポーラも呆然と見ていた。
今までシュート系しか使っていなかったのに。
何故こんなタイミングでレベルが上の魔法を放てるようになったのか。
「うおおお?!すげぇ火力!!」
修は火炎を見て無邪気に喜んでいる。
カマンがふらふらと修に歩み寄った。
「・・・・・・・魔法、使えるのですか?」
カマンは引き攣った顔で笑っていた。
「はい?・・・使えますよ?言ってませんでしたっけ」
修はカマンを見て、きょとんと首を傾げた。
「・・・聞いておりませんな。・・・・・あの、杖は?」
カマンは脂汗を流しながら、更に気になる点を聞いた。
修はどう見ても手ぶらだ。
「あ、いらないです。使えるみたいなので」
修は照れ笑いを浮かべながら、顔の前で手をひらひらと振った。
「「「・・・・・・・・」」」
皆、もう何を言ってもいいか分からなくなった。
そもそも、修はドラゴンを殴り殺せるほどの肉体派なのだ。
それで魔法まで使えるなど、信じられなかった。
そんな中で、違うことに驚いているポーラが修に近づいた。
「ご、・・・シュウ様」
固まるカマンたちに、困った顔で首を傾げていた修は、ポーラを見る。
「ん?」
「いつの間に、魔法が・・・?」
ポーラの質問を聞いて、修は少し考えた。
そして、魔法が強くなった理由を問うてるのだと気付いた。
「うん?たぶんドラゴンやった時からだと思う。気付かなくてさぁ」
修は、「いやー、困ったもんだよ」と言わんばかりに、苦笑して頭をかいていた。
「・・・そう、ですか」
ポーラはふっ、と疲れた様な笑みを浮かべた。
もう修の事では驚くまいと決めていたのに、また驚かされてしまった。
ポーラからどこかやさぐれた雰囲気を感じた。
「いやおかしいだろ!!」「何がどうなってんだよっ?!」「馬鹿かてめぇ?!馬鹿だろ!!」
そして我に返った護衛達が口々に叫んで修に詰め寄って来た。
元々反則的に強い修が、更に反則だと知ったのだ。
しかも、常識のはずの杖を持たずに魔法を使ったのだ。
文句の一つも言いたくなるだろう。
書けたならしかたないですよね




