34話 間に合わなかった(by神)
修は必死で神を介抱した。
ちょっと内臓がめためたになっていたが、仮面男張りの回復能力でも持っているのか、すぐに傷は癒えていた。
「・・・う・・?・・・うう」
やがて神はうめき声を上げて目を覚ました。
「あっ!よかった・・・」
修はほっと安心した。
一瞬、やっちまったかと思ったのだ。
「し、修さん・・・?こ、ここは・・・?うっ!お腹が・・・!」
神はまだ記憶が曖昧らしい。
起き上がろうとしたが、腹を押さえて顔を歪めた。
「たぶん夢の中。ごめん殴っちゃったみたい」
修は素直に謝った。
嘘はつかない良い子である。
神も記憶を辿り始めた。
そして思い出した。
修が夢の中で興味深い化け物と戦っていた。
もっと近くで見ていたかったが、パンチキックを連発する修に恐怖を覚えて離れて見ていたのだ。
だというのに。
修が構えた瞬間、猛烈に嫌な予感を感じた。
そして気付けば意識を失っていたのだ。
腹に見えざる拳が突き刺さったらしい。
「・・・・・・・・・・ありえねぇ・・・」
修に聞こえないくらいの小さな声でぽつりと呟いた。
「うぅ・・・ぐっ・・・・」
神は腹を押さえたまま辛うじて上体を持ち上げた。
顔は蒼白どころか土色である。
「だ、大丈夫?」
「ちょっと墓から蘇ってきたんだ!」と言われても信じれるくらいの顔色をしている神に、修が心配そうに聞いた。
流石にドスコイについて問い詰める程、修も鬼ではない。
「・・・・・・きょ、今日は、伝えること、が・・・」
神が腹を押さえたまま苦しげに呟いた。
「・・・無理しなくていいよ?」
修は、最悪のコンディションでなお話そうとする神の背中を撫でてやる。
「・・ま、魔法。新しいの、使えます・・・・よ」
神はそんな状態でなお、慈悲深く微笑んだ。
しかし、痛々しさは全く拭えていない。
正直、ゾンビが「こんにちわ!」してきた様な雰囲気だった。
「そ、そうなの?ありがとう」
修は神のガッツに感嘆して頭を下げた。
「・・・・・で、は・・・・・・」
神が言いたいのはそれだけだった。
正確には、本当は朝まで無駄話に付き合わせるつもりだったが、それどころではなくなったのだ。
「・・・お大事に」
薄くなっていく神に修が呟いた。
「・・・うぇっぷ」
完全に消え去る直前、神が口を押えた。
そして消えた。
『げろげろげろ~』と言う幻聴が修に聞こえて来た。
「・・・・・」
また今度謝ろう。
修はそう思って、寝た。
今回は早々に神が帰ったので、睡眠不足になることは無かった。
爽やかな朝を迎え、カマンに会いに行った。
馬車が5台準備されている。
それぞれに使用人、護衛が付いており、修とポーラは先頭の馬車に乗った。
すぐに出発となった。
街に辿り着くには、一週間はかかるらしい。
暇だからと言って馬車の中でトレーニングするわけにもいかず、修はポーラと雑談していた。
ポーラ先生の世界の常識講座を聞いていたが、一番驚いたのは、街に名前が無いことだった。
幾つも街があるのに、どう区別するのだろう、と思ったが、領主の名前を頭に着けて区別するらしい。
故に修たちが居た街は『ファウスの街』と呼べば通じるらしい。
領主変わったらどうするんだろう、と修は思ったが、そう変わるものでもあるまい、と納得しておくことにした。
そして時間は流れる。
一日二日なら問題無かったが、三日目からはもう話すことも無くなってくる。
二人で無言で揺られている中、修はふと気づいたことを口にした。
「ねぇポーラ」
ポーラは、うとうとしていたようだ。
項垂れかけていた首を持ち上げて修を見てきた。
「・・はい?」
微かに涎が垂れかけていた。
修はジェスチャーでそのことを伝えながら問いかけた。
「PTって増やした方がいい?」
ポーラは最初きょとんとしていたが、すぐに意味に気付いて慌ててそっぽを向いた。
「・・・そうですね」
布を取り出しながら返事をしてきた。
「ふーん」
何の気なしに、涎を拭っているポーラの背中を見つめる。
「・・・・・」
ポーラがしっかり口元を拭ってからこちらを向くのを待ち、修は再び口を開く。
「どういう人が良いかな?ポーラが決めて良いよ」
「そうですか?・・・そうですね。正直攻撃も魔法もありますから・・・」
修が言うと、ポーラは難しい顔で考え込んだ。
「ん~、俺抜きで戦うことを考えたらどうかな?」
修が居れば大概のことはどうとでも出来るだろうが、それだけではポーラが嫌がるだろう。
かと言ってポーラ一人では、今後厳しくなることも考えられる。
そういう意味で対応できるPTメンバーを決めて欲しかった。
「・・・・盾役が欲しいですね。今は何とかなりますが、今後避けるのが辛くなるかもしれませんし」
ポーラはオフェンスに徹するようだ。
流石は串刺しの名手。
「盾役かぁ」
今まですれ違った探索者の中で、でっかい盾を持っている人が居たことを思い出す。
武器は短刀くらいしか持っていなかったので、本当に攻撃を受ける専門だろう。
やりたがる人はいるのだろうか。
修はそう思った。
するとポーラは提案してくる。
「木人種族が宜しいかと。細かい動きは苦手ですが、力が強くて頑丈なので」
「ふーん」
植物の亜人だ。
修も数人見たことはあるが、何を考えているのか分からない目をしていた。
確かに、大きな盾を背負っていた気がする。
「・・・あと、木人はちょっと、こう、性格的にアレなので、買うにしても奴隷のままにしておかないと・・・」
ポーラが難しそうな顔でこそこそと耳打ちして来た。
「おかないと?」
「すぐ居なくなります」
まあ当然と言えば当然だろうか。
ポーラみたいに、奴隷から解放されても側に居続ける者は少ないのかもしれない。
そう思ったが、どうも違うらしい。
木人は、普段本当に何も考えていないのだ、とポーラが言っていた。
「・・・・そっか。一応カマンさんに言っておこうか」
果たしてそんな仲間で良いのだろうか、と修は思ったが、ポーラが勧めるのだから問題ないだろうと考えることにした。
「はい」
その日の夜、早速カマンに聞いてみた。
「木人、ですか?」
カマンは意外そうな顔をした。
「はい」
修が頷くと、カマンは修の後ろに立つポーラを見た。
「・・・なるほど。探しておきましょう」
ポーラがどんな顔をしているのかは修には分からなかったが、カマンがニヤリと笑みを浮かべていた。
「お願いします」
良く分からないが、修は頭を下げておいた。




