30話 四散
『ポーラさん串刺し劇場』は続いた。
九層も全く問題なく探索を進めと、あっさりとボスを発見した。
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LV.9
ボス・ドグー
土魔法LV.5
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最早特に何も言うことは無い。
「行きます」
ポーラが駆け出した。
巨大なドグーも地面を滑ってポーラに肉薄する。
ドグーのスライディングを、ポーラは躱しざまに剣を叩き付ける。
「せっ!」
短いドグーの首に、的確に剣が叩き込まれる。
ポーラも段々エグイ攻撃をするようになってきていた。
しかしその分ダメージは大きいようで、ドグーの体が大きく震えた。
一度通り過ぎたドグーは、そのままターンを決めて再びポーラに向けて滑って来る。
次いで、ドグーは飛んだ。
またトリプルアクセルで体当たりを仕掛けて来るドグーに、ポーラは正面から突きを叩き込む。
「っ!」
ギギィ!!と固い物が擦れる音が鳴った。
ボスだけあり、串刺しにはならなかった。
が、ドグーは弾き飛ばされた。
ポーラも流石に体勢を崩していた。
再び間合いが開けると、ドグーは警戒したのだろうか。
ポーラの周りを、隙を伺う様に滑り始めた。
しばし様子を伺っていたポーラは、中々近づいてこないドグーに向けて駆けだした。
「はっ!」
慌てて避けようとしたドグーに、連続で剣を叩き込む。
ドグーはぶるぶると体を震わせて、苦し紛れにアースシュートを放つ。
ポーラは容易く盾で弾き飛ばした。
ドグーはその隙に、辛うじて距離を取った。
ポーラには敵わぬと判断したのだろうか。
ドグーは、修に向けて滑って来た。
「む」
近づいたら、即デストロイに向かって滑り始めたドグーは、しかしその前にポーラが再び肉薄した。
無防備な背中に、連続で剣を叩き込まれた。
見る見るうちに動きの鈍くなるドグーの空虚な瞳が、赤く明滅し始めた。
修はとても嫌な予感がした。
その予感に従うままに、修は叫んだ。
「ポーラッ!」
ポーラは、修の叫びに反応した。
「ッ?!」
何がなんだかよく分からない顔のまま、ドグーから飛び離れ、顔を盾で覆って体を縮めた。
その瞬間、ドグーの瞳が真っ赤に輝いた。
そして、爆発した。
「~~~~~~~~~っ!!」
ポーラはその爆風に押されて、更に後ろに弾き飛ばされた。
鎧や盾に、いくつものドグーの破片が衝突する。
「かぁっ!!」
修は迫りくる爆風とドグーの破片に向けて気合を吐いた。
気合の勢いに押されて、それらは明後日の方向に吹き飛んだ。
「ポーラ!」
爆心地に粘土が出現したが、修はそれには目もくれず慌ててポーラに向けて駆けだした。
ポーラはもぞもぞと立ち上がった。
「だ、いじょうぶ、です・・・」
修が怪我の確認をした。
外傷は無かったが、爆発の衝撃と、地面に叩き付けられた衝撃で苦しそうにしている。
鎧を脱がせて回復魔法をかけてやると、苦しそうな顔が段々と安らかになって行った。
「もう、大丈夫です。ありがとうございます」
回復しきったポーラが回復を止めて頭を下げた。
「そう?痛かったら言うんだよ?」
修は心配そうにポーラに言った。
「はい。・・・申し訳ありません・・・」
ポーラは悔しそうに頭を下げて来た。
辛うじて直撃はしなかったとはいえ、爆発に巻き込まれたのを不覚に感じたのだろう。
「いや、仕方ないよ。まさか爆発するとはねぇ」
修はポーラを慰めるように言った。
修も明滅するドグーの目を見て嫌な予感を感じただけなのだ。
位置的にその目を見れなかったポーラに気付けと言うのは酷だろう。
「はい・・・」
ポーラはしょんぼりと耳と尻尾を垂らして項垂れた。
「油断は禁物だね」
修はポーラの頭を撫でながら呟いた。
「はい」
ポーラも気持ちを切り替えようとしたのだろう、強い口調で返事を返してきた。
十層に足を踏み入れてから帰ることにした。
ポーラは大丈夫だと言ったが、一応様子を見ておいた方が良いだろうと判断したのだ。
ポーラをベッドに押し込めて、休ませた。
もしかして、ポーラのベッドをしっかりと使ったのは今回が初めてではなかろうか。
そんなことを考えながら、修は出来合いの物を買いに出かけた。
未だに食べ物は良く分からないが、食べられる物なら何でも喰えるのだ。
出来るだけ美味しそうなものを買って帰ることにした。
考えれば、一人で街を歩くのは初めてかもしれない。
夕食時までもまだ余裕があったので、修はいろいろ見て回ることにした。
もの珍しそうに色々な店見て回る中、修は気になるものを見つけた。
「・・・?」
ドラム缶の様なものだった。
店の人に聞くと、寸胴鍋の様なものだった。
本当に人が一人、入れるようなサイズだ。
余程巨大な店でしか使用しないだろう。
「これください!」
修はそれを購入した
木板や石材も買い込み、寸胴鍋の中に放り込む。
修は巨大な寸胴鍋を軽く肩に乗せながら食べ物を買って帰った。
人々が目を丸くしてその様を見ていたが、気にもしなかった。
修が帰宅すると、ポーラも部屋から出て来た。
申し訳さなそうな顔は、修の持つ寸胴鍋を見て固まった。
「何か、作られるのでしょうか・・・?」
二人暮らしでは明らかにオーバースペックなそれを見て、ポーラは呆気にとられていた。
「違う違う。こっちはまあ後でね」
そう言って、修は上機嫌に寸胴鍋を置いた。
不思議そうな顔のポーラの背を押し、二人で食事を取った。
その後はまたポーラを寝室に押し込み、修は一人で洗濯場に居た。
ポーラが洗濯に使っている木桶が置いてある場所とは反対に、まず買ってきた石を組む。
その上に寸胴鍋を設置し、鍋の底に木板を敷いた。
「さて、行けるか・・・」
修は寸胴鍋の中に、アクアシュートを叩き込み続けた。
レベルが上がっている効果か、鍋が一杯になってもまだ魔法は使えそうだ。
次に、鍋の下側からファイアシュートを連続で叩き込む。
「むぅ・・・」
一瞬の火力は高いのだが、すぐに燃え尽きてしまう。
魔力が枯れるまで放ち続けたが、ぬるま湯で打ち止めになった。
薪を買おう。
魔法の間違った使い方をした修は、そう決意した。




