29話 気付いてしまった
ポーラの立場が変わっても、探索には普通に着いて来た。
というか、着いて来るか聞いたら泣かれてしまい、修は大いに焦った。
そんなわけで、八層でも引き続き、ポーラがシールドタートルと戦っていた。
シールドタートルの甲羅投げを容易く回避し、剣を叩き込み続ける。
そんな中で、遂に一体のシールドタートルが、自らの甲羅を盾として使用した。
が、ポーラは構わず甲羅の上から剣を叩き込んだ。
「はぁっ!!」
ポーラの剣が強すぎた。
甲羅は、本体ごと真っ二つになった。
一瞬、斬られながらもとても切ない瞳をしたシールドタートルは、亀の甲羅になってしまった。
実に哀れなことである。
探索は実にスムーズだった。
リュックが満載になる前に、ボスまで辿り着けた。
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LV.8
ボス・シールドタートル
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いつも通りの展開になりそうだった。
「行きます!」
ポーラは一言宣言し、シールドタートルに向けて駆けだした。
シールドタートルもすぐにポーラに気付き、すっくと立ち上がった。
自分の甲羅を盾にするところまでは今までと同じだった。
しかし、
「おおっ?!」
甲羅が、二分割された。
左手と右手で、半分に割れた盾を構えた。
「ふっ!」
甲羅を投げられる前に接近したポーラが、気合と共に一閃する。
シールドタートルは、ポーラの動きからはだいぶ遅れながらも反応した。
右手の盾でポーラの剣を防ぎ、左手の盾を剣の様にして斬りかかろうとする。
が、右手の盾が真っ二つにされた。
しかもそのまま剣戟は止まることなく、シールドタートルの胴体を叩いた。
左手の盾での攻撃は到底間に合わず、シールドタートルはぶっ飛んだ。
真っ二つにされた自分の甲羅の片割れを見て、シールドタートルは切ない瞳を浮かべた。
しかし、その間にもポーラは、再びシールドタートルに肉薄する。
「はっ!」
再び気合と共に剣を振る。
シールドタートルは学習能力が無いのだろうか。
残る盾で、ポーラの攻撃を防ごうとした。
当然、左手の盾も真っ二つに切り裂かれた。
そして、身を守るものも、武器も無くしたシールドタートルはもうどうしようもなかった。
必死に手足を伸ばしてポーラに攻撃を仕掛けるが、かすりもしない。
一方的な攻撃を受け、力尽きた。
後に残るは亀の甲羅×5だ。
ポーラがリュックに詰め込もうとしたが、全ては入りきらなかった。
「お疲れ様」
修が労いながら、残りの甲羅を受け取った。
「はい!ごしゅ・・・シュウ様」
いつも通りご主人様、と呼びかけ、途中で気づいて頬を染めて名前を呟いた。
昨日今日なので、まだまだ不慣れなのだろう。
修は、ポーラの頭を撫でて苦笑した。
ポーラの尻尾が今までの1.2倍くらい大きく揺れた。
もう修のリュックも一杯になったので、九層に足を踏み入れてからすぐに清算に戻った。
歩いていて感じたのだが、ポーラは今までよりも半歩ほど近くを歩くようになった。
奴隷から解放されて色々と考え直してくれたのだろうか。
清算を済ませると、二人でまた迷宮に潜った。
九層では、また不可思議な魔物と遭遇した。
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LV.9
ドグー
土魔法LV.5
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土偶である。
微動だにしなかったので初めは置物かと思ったが、魔物の様だ。
「ファイアーシュート!」
何となく結果は想像できたが、手始めに火球を叩き込む。
予想通り、炎の中から、平気そうにドグーが現れた。
しかし。
「はぁ?!」
飛び出し方が問題だった。
関節が動くのかも怪しい造りの癖に、ぬるぬると体を動かしていた。
しかし、何故か地面をスケートのフォームで滑る様に突き進んで来る。
見た感じ、ドグーの足に刃などない。
どうやって滑っているのだろうか。
更には、修に向かって滑って来るドグーの目が、キラリと赤く輝いた。
次の瞬間、ドグーの顔の辺りから土の球が飛んで来た。
アースシュートだろう。
修の放つ物よりも小さいが、確かに魔法だった。
「よっ」
修は平気な顔で土の球を回避した。
ドグーは気にせず滑り込んで来る。
さてどんな攻撃をしてくるのか、と思った瞬間、ドグーが勢いをそのままに、スライディングして来た。
「えい」
修の足を刈ろうとしたドグーをあっさり踏みつけた。
修はそのまま、抜け出ようと暴れるドグーを踏み砕いた。
後には『粘土』が残った。
「・・・・・・粘土」
ドグーとは色まで違う。
不思議で仕方なかったが、もう気にすることは止めた。
「はい。建築などに使うそうです」
ポーラはいつも通り解説してくれた。
「ふーん」
修は粘土を建築に?と新たな疑問が生まれたが、必死に忘れることにした。
ドグーに様々な魔法を叩き込んでみた。
とはいっても、火は効かなかったし土も効かないだろう。
サンダーシュートも全く効果は見られなかった。
魔法使いにとっては、かなりの強敵なのではないだろうか。
そんな中で。
「アクアシュート!」
水球を叩き込むと、ドグーはまるでチョコレートの様にどろどろ溶け始めた。
頭から水をぶつけたのに何故か足から溶けていく。
小さな手足を必死にばたばたと動かしながら少しずつ溶けるドグーのあまりのむごさに、修は止めを刺してあげた。
「・・ちょっと、ぐろいね」
実際はちょっと所ではなかった。
魔物なのに、哀れになるほどだった。
修はドグーに魔法を使うのは止めようと決めた。
「はい・・・」
ポーラも同じ感想を持ったようだ。
次からはいつも通りにポーラが相手をした。
ドグーが地面を滑りながら放ったアースシュートを、ポーラは盾でぶん殴った。
魔法を反射するドラゴンの鱗で作られた盾により、アースシュートは明後日の方向に吹っ飛んだ。
そのことに怯みもせず、ドグーは地面を滑る。
初撃は、修に放ったものと同じ、スライディングだった。
ポーラは流石に踏む様な真似はしなかった。
魔物を踏み殺せるような出鱈目な脚力など持っていないので、サイドステップで回避する。
すれ違いざま、ポーラも腰を落として地面スレスレを剣で掬い上げる。
ガギィッ!と固い何かを叩く様な音が響き、ドグーが大きく震えた。
ポーラはそのまま一回転し、背後に回ったドグーを視界に収める。
ドグーも、一度ある程度距離を取った後、見事なターンを決めてポーラに向かい合った。
そして再び滑って来る。
今度はスライディングではなかった。
勢いのそのままに、飛んだ。
両手を万歳の形に持ち上げ、片足を精一杯横に伸ばす。
そして、空中で横回転しながらポーラに向かって突撃して来た。
とってもシュールだった。
「トリプルアクセルッ?!」
修が叫んだ。
「っ!!」
ポーラはその突撃を利用した。
体重を込めて剣を突き出した。
ドグーとポーラの運動量が激突した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一瞬後に、ポーラの剣によって胴体を貫かれたドグーの手足がぷらぷらと空中に浮いていた。
ドグーはぷるぷると震える手を虚空に伸ばした後、がくぅ!と項垂れた。
とても残酷な光景に、修は思わず顔を背けた。
『モズの早贄』という言葉が修の脳裏に浮かび上がった。
ドグーは粘土になり、ポーラの足元に落ちた。
「やりました!」
ポーラは嬉しそうに叫んだ。
先ほどの惨劇を作り出したとは思えないほどの笑顔だった。
「・・・うん。おめでとう」
修も怯えを隠して微笑んだ。
ポーラが恐ろしい技を覚えてしまった。
確かに迷宮の魔物は、捨て身で飛びかかって来るものが多い。
恐らくは、魔物はタフなので攻撃を受けても即死させられることが無い為の習性なのであろう。
修も、それにカウンターを合わせている。
ポーラもそれに気づいてしまったのだ。
相手の突撃に合わせて、全力で突きを叩き込むことを覚えてしまった。
生半可な剣ではへし折れかねないが、ポーラはどこぞの王家が家宝にしてもおかしくないレベルの剣を持っているのだ。
特に、ドグーの動きを完全に把握した後は、酷い有り様だった。
修のパンチであれば一瞬で砕け散るのでまだ良かったが、ポーラの剣ではまず突き刺さり、その後に死ぬのだ。
『ポーラさん串刺し劇場』が開催されてしまった。
まだ土偶なので良いが、可愛らしい魔物が出てきたらどうしようか、と修は戦々恐々としていた。




