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その拳にご注意を  作者: ろうろう
29/136

27話 切ない瞳

八層に辿り着いた。

修は祈るような気持ちで探索した。

ああいう悪い意味で気持ち悪い魔物は勘弁してほしかった。

修の祈りが通じたのかどうか、遭遇した魔物は亀だった。


----------------------------


LV.8

シールドタートル


----------------------------


中々に大きい。

四足でのそのそと歩いている。

修は安堵の吐息を吐いた。


「まずは俺が」


「はい」


ポーラもどこか安心した風に頷いていた。


「ファイアーシュート!」


手始めに火球をぶつけた。

シールドタートルは、あろうことか着弾する直前に甲羅から体が飛び出した。


「着脱式?!」


修があんぐりと口を開けて、甲羅から飛び出た体を見つめた。

その間にも、火球が甲羅に着弾し、燃え盛った。

甲羅は燃え尽きることなく、火は消えた。

シールドタートルは、すっくと二本の足で立ち上がり、表面に軽く焦げ目が付いた甲羅を持った。

まさしく盾の様に。


先ほどまでののそのそとした四足歩行はどうしたのだと言わんばかりに、シールドタートルは二足でじりじりと間合いを詰めて来た。と、思いきや、シールドタートルは甲羅をフリスビーの様にぶん投げて来た。

かなりの勢いだ。

しかもよく見ると、甲羅の割に側面は鋭い。

下手をすると、人間の胴体程度ならば真っ二つにされてしまうかもしれない。


「むっ」


修は軽くうなって避けた。

回避自体は実に容易いが、盾を失ってどうするのだろう、と言う好奇心があった。

甲羅は見事にシールドタートルの手元に帰って来た。


「へぇ」


修はあっさりと甲羅を受け止めたシールドタートルに感嘆した。

シールドタートルは避けられても気にせず、もう一度投擲してくる。


「よっ」


修は、今度は甲羅を叩き落してみた。

叩き落すつもりだったが、甲羅は砕けた。


「「あ」」


修とポーラは思わずと言った風に声を漏らした。

哀れなシールドタートルは、砕け散った自らの甲羅を見て愕然とした。

そして、何やら悲しげな眼でキッ、と修を睨み付けて来た。

修は何だか申し訳なくなってきた。


武器兼防具の甲羅を失ったシールドタートルは、それでも挫けずに修に向かって果敢に駆けて来た。

短い手足ながら、シールドタートルは中々の動きで攻撃を繰り出してきた。

しかし悲しいかな。

全く修の相手にならなかった。


「セイッ!」


砕け散った。

そして後に残ったのは、シールドタートルが背負っていた物よりも随分小さい亀の甲羅だった。

かさばりそうだった。


「鉄の盾よりも劣りますが、十分実用に耐えられる盾になります」


リュックに甲羅を詰め込む修に、ポーラが解説してくれた。


「ふーん」


修は相槌を打ちながら、甲羅を失ったのに甲羅が出て来るのは何故だろうか、などと考えた。




次のシールドタートルと遭遇すると、ポーラが一言宣言して駆け出した。


「行きます」


シールドタートルも駆けて来るポーラに気付き、立ち上がって甲羅を構えた。

なぜ最初から二足で居ないのだろうか。

シールドタートルが放つ甲羅を、ポーラはあっさりと盾で受け流す。

見当違いの方向に飛んでいく甲羅は、しかし何故か空中で不自然に動き、シールドタートルに向けてUターンした。

ポーラの首を刈るコースで、背後から戻って来る。

装備で首まで覆っているので、直撃しても首が飛ぶことは無いだろうが、むち打ちにはなりそうだ。

ポーラは、まるで見えているかのように後ろから迫りくる甲羅を屈んで躱した。

ついでとばかりに、三発胴体に叩き込む。


シールドタートルは、ぶるりと震えながらも甲羅をキャッチした。

苦しげにポーラから一歩離れ、至近距離から再び甲羅を投げる。

盾じゃないのかよ。

修はそう思った。

ポーラはそれもあっさり盾でいなして、二発攻撃を叩き込む。

いなされた甲羅は、修に向かって飛んで来た。


「よっ」


修は好奇心に促されるままに、甲羅をキャッチした。

甲羅は何故か、ぐいぐいと修の腕からシールドタートルに向けて飛び立とうとしていた。

しかし、すぐに甲羅から力が抜けた。

ちらりとシールドタートルを見ると、悲しげな眼で修を見ていた。

ポーラはそんなシールドタートルに情け容赦なく攻撃を叩き込んでいる。

反撃しようとしたシールドタートルは、苦しげに拳を伸ばそうとしたところで力尽きた。


シールドタートルが亀の甲羅に変わると同時に、修の手から甲羅が消えうせた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


修は実に不思議そうな顔で、甲羅を持っていた手を見つめた。

リュックに亀の甲羅をしまったポーラが誇らしげに修に駆け寄った。


「問題ありませんね」


「・・・そうだね」


不可解な出来事はあったが、シールドタートルは精神衛生上は全く問題ない。

集中しながらも、どこか安心した雰囲気で探索を行うことが出来た。

二人のリュックが満載になるまで戦ってから、帰還した。




清算のためギルドに向かうと、同じく清算に来たのであろうおっさん探索者達が修に笑いかけて来た。


「おう、うちに入るって決めたか?」


冗談半分、本気半分といったところだろう。

修も苦笑を浮かべた。


「遠慮しておきます」


おっさん達も予想していたのだろう、あっさりと引き下がった。


「そうか・・・。いつでも歓迎してるぜ」


どこか未練が残っていたが。

受付も、受け取った亀の甲羅を見て、修たちがまた階層をあげたことに気付いたようだが、何も言わずに平然とした顔で清算してくれた。

正直に言えば、お金は要らない気はするが、貰えるものは貰っておこう。

金を受け取って退出しようとしたところで、受付に耳打ちされた。


「シュウさん、マスターがお呼びです」


「はい?」


マスターと言えば、先日馬鹿4人組を倒した時に会った男だろう。

高年に差し掛かった、傷だらけのおっさんだ。

子供が見たら泣き喚きかねない顔をしていたはずだ。

昨日今日で何の話だろうか、と疑問に思いながらも、奥に案内された。




応接室らしき部屋に通されると、既に中にはマスターが居た。


「すまんな。座ってくれ」


マスターは立ち上がり、修に向かいの椅子を勧めた。


「はい」


修は勧められるままに椅子に座った。

奴隷のポーラは残念ながら椅子に座れない。

修の後ろに控えた。


マスターもどっかりと椅子に座り込むと、迫力満点の顔に、申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「先日君が捕まえた馬鹿共が居ただろう?あいつら関係で少し面倒なことが起きてな」


迫力満点の顔が、多少見れる顔になった。

そんな失礼なことを考えながら修は頷いた。


「はあ・・・」


「一人逃げ出したのだそうだ。他の三人を訊問しているが、『分からない』の一点ばりでな」


修とポーラは目を丸くした。

普通に拘束されたら、普通に逃げ出せないくらいには弱いと思っていたのだが。


修なら全身拘束されても脱出できる自信はある。

コンクリ詰めにされて海に落とされた経験もあるのだ。

祖父に。


修は頭を振って、忌々しい過去を振り払った。


「復讐に来るかもしれない、ってことですね」


マスターは、突然頭を振った修に軽く驚きながらも頷いた。


「・・・うむ。そうなのだ。無論私達も注意するが、君たちも気を付けてくれ」


注意喚起してくれた。

が、言外には『お前なら問題ないだろうがな』と言う空気が漂っていた。


「分かりました」


修も気楽に頷いた。

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