24話 強くはなっていました
訓練は、ポーラが力尽きるまで続けられた。
額と尻のダメージは毎日修が治療していたが。
ポーラはちゃんと強くはなっているが、修とポーラの間に差がありすぎて、強くなっているのか分からないのが玉に瑕だった。
日々倉庫の中のドラゴンの素材が減っていく中、遂に装備が出来上がった。
「かっけー・・・・」
修はキラキラと輝く瞳で、出来上がった装備を見つめていた。
ミラードラゴンの鱗をふんだんに使ったであろう防具は、鏡の様に光を反射していた。
それが、足先から頭のてっぺんまで一式ある。
デザインは似たようなものだったが、修の物は鋭角的に、ポーラの物は丸みを帯びていた。
ポーラの分には、鏡の様な盾まである。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ポーラも感嘆した風に見つめている。
カマンは二人の様子をみて、満足そうに笑った。
「装備品はこれですな。防具は主に鱗を使っているので、魔法を弾きます。骨格も竜の骨を使っているので生半可な攻撃ではびくともしないでしょう。ただ、回復魔法を使う時は、鱗の無いところから使って下さい」
「はい」
修は頷いた。
確かに、ミラードラゴンは魔法を弾きまくっていた。
回復魔法も同様だろう。
近づいて直接回復魔法をかけるしかないだろう。
次にカマンは、鞘も鱗で出来ているのだろう、カッコいい鞘に納められた片手剣を抜いてみせた。
「剣はこれですな。ドラゴンの角を使っております。正直これだけの物は見たことがありませんな・・・」
防具と同じく、刀身が光を反射していた。
鉄などの金属と比べても、なお白さを感じられる。
カマンから受け取ったそれを、修はポーラに手渡した。
「ありがとうございます」
ポーラは恭しく受け取り、重量を確認していた。
次にカマンは二本の短剣を手渡した。
「こちらはドラゴンの牙の短剣です。一応二本あります」
こちらも剣と同じく、白い輝きを持っていた。
実に良く切れそうだった。
「ありがとうございます」
修は一本をポーラに渡した。
次にカマンは、修に袋を手渡した。
「後は、まずはこちらを。言われておりました素材の一部ですな」
中には、鱗やら骨やら牙が詰まっていた。
ドラゴンには角は二本しか生えていなかったので、剣に一本使って残りはカマンが買い取ったのだろう。
「ありがとうございます」
最後に、カマンは一際大きな袋を手渡してきた。
「こちらが、残りの素材の買い取り分です」
「はい。ありがとうございます」
ずっしりとした手ごたえがある。
実際、数十年は遊んで暮らせるだけの金があった。
嬉しそうに頭を下げる修に、カマンもホクホク顔だった。
「いえいえ、こちらこそ儲けさせていただきました。殆どの素材が売れておりますよ」
「みんな同じ装備になってそうですね」
修は、探索者が全員同じ装備になっているのを思い浮かべて、愉快そうに言った。
初日と比べて、倉庫に素材は殆ど残っていない。
まさしく飛ぶような勢いで売れて行ったのだ。
カマンは楽しげに首を横に振った。
「ははは。まあ一式揃うのは、シュウさんたち以外では騎士団員の一部位でしょうよ。あとは、余程高位の探索者くらいかと」
「そうなんですか」
修は意外そうに言った。
「ええ、何せ値段が値段ですからね。それでも売れるのですから素晴らしいものです」
カマンも余程儲けたのだろう。
ずっと笑顔のままだった。
カマンが商談に向かうと言って残りの素材を抱えて退出した。
修はそれを見送ってから、金の入った袋を見た。
白かった。
ほぼすべてが白金貨だった。
「え、何これ」
修は思わず呟いた。
ポーラもその袋の中を見てくらくらと眩暈を感じた。
間違いなく、奴隷が見て良い金額ではない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
修も同様だ。
元々お金とはあまり縁のない生活を続けていたのだから。
「どうしようこれ・・・」
困惑顔で呟く修に、ポーラが我を取り戻した。
「金庫を、買いましょう。防犯のしっかりしたものを。お金はありますので」
「・・・そうだね」
カマンの店で、一番高くて、重くてしっかりした物を買った。
カードで認識させる最新タイプだそうで、修のカードを登録した。
ポーラもさせようかとしたが、必死に断って来たのであきらめた。
ちなみに、盗難防止用に、途轍もなく重くしてある金庫を、修はひょい、と抱えあげた。
カマンの店の店員は、蒼白になって口をあんぐり開けていた。
金庫に素材と金を袋ごと放り込み、軽快のダマスカスソードも仕舞っておいた。
そして、修はワクワク顔で。
ポーラは緊張した顔で装備をしてみた。
「結構軽いねぇ」
修が呟いて、軽く跳ねた。
皮より、多少重い程度だ。
ポーラも体を動かしながら調子を確かめた。
「はい。皮とあまり変わりません。剣は流石に軽快のよりも重いですが、鉄の剣よりも軽いです」
軽く叩いてみると、何やら柔らかいゴムの様な感覚が返って来た。
戦った時は鱗など容易く貫いていたので、新鮮な感覚だった。
一体どういう物質で出来ているのかは想像もつかないが、強いのならばもうそれで気にしないことにする。
しかし、本当に鏡の様に輝いている。
目に優しくないので、今度外套でも購入すべきだろうか。
修は性能を確かめるため、洗い場に盾を置き、アクアシュートを打ってみた。
「でかっ!!」
水球が今までの三倍くらいの大きさになっていた。
しかし、盾はどういう原理か、盾よりも大きい水球を普通に跳ね返した。
跳ね返って来たそれを、修は拳で撃ち落とした。
「便利だね」
「・・・・はい」
ポーラはもう何も突っ込まない。
汚れてしまったのかもしれない。
「よし、それじゃ、迷宮に行ってみようか」
「はい!」
フル装備で街を歩くと、もの珍しげにチラチラと見られた。
が、修は一向に気にせずにルンルン気分でスキップしていた。
五層のステッキウッドと戦ってみた。
装備は不慣れだが、レベルも上がっているので問題は無いだろう。
早速接敵したステッキウッドに向けて、ポーラが駆け出す。
その足の速いこと速いこと。
ステッキウッドは枝を伸ばして迎え撃とうとするが、ポーラは実に簡単にそれを避けて懐に潜り込んだ。
「ふっ!」
一息に5連続の斬撃を叩き込んだ。
ぶるぶるとステッキウッドが震え、頭頂部に芽が生まれた。
が、悲願を果たすことなく、ガクリと崩れ落ちた。
後には、木片だけが残った。
「・・・・早いね」
修は木片を辛そうに見ながら呟いた。
「・・・・はい。レベルと剣のおかげだと思いますが」
ポーラも自分にびっくりしていた。
剣の威力も途轍もないが、ステッキウッドとはこんなに遅い物だったのか、と思う。
動かない的を相手にしたような気分だった。
実際、もっと撃ち込めたはずだ。
ポーラが感覚を思い出す様に数回素振りをし始めた。
「この調子なら上に行けるかな」
修がポーラに問いかけると、ポーラは頷いた。
「はい。問題ありません」
一気に上がっても、問題は無いだろう。




