23話 領主様は戦力が欲しい
警護しつつ、壁を歩いてポーラを驚愕させていると、カマンから伝言を伝えられた。
何でも領主からの呼び出しだそうだ。
ポーラを警護に残し、修は領主に会いに行った。
騎士団員に案内されたそこは、とても大きな屋敷だった。
流石にこういう場所ではカードの確認があった。
確認した騎士団員は、修のレベルを見て、脂汗を流していた。
確かに、普通に考えればLV.33程度で、78のミラードラゴンに勝てる訳は無いだろう。
レベル78の人間が一人でも不可能だろう。
しかし、修がドラゴンを殺した場面は多くの冒険者や騎士団員が確認している。
結局、あっさりと通された。
中には、見覚えのある騎士団員も居た。
職務中なので話しかけて来ることは無かったが、目が合うと軽く頭を下げてくれた。
豪華な執務室に案内されると、中にファウスが居た。
「おお、よく来てくれた」
相変わらずのイケメンらしい微笑みを浮かべて迎え入れてくれた。
「お久しぶりです」
修も普段より丁寧に頭を下げた。
ファウスも軽く首肯し、早速とばかりに席を勧められた。
「ああ、かしこまらなくても結構。よくぞ倒してくれた」
椅子に座ると、メイドさんがお茶と菓子を運んできた。
「あ、はい」
修は相槌を打ちながら、お茶を置いてくれたメイドさんにも軽く頭を下げた。
メイドさんは完璧な微笑みを浮かべてくれた。
「ドラゴンのレベルは78だったそうだな。恐らく私が行っても戦力にもならなかっただろうな」
ファウスはあっさりと言った。
多少悔し気だったが、しっかりと現実を把握できているようだ。
確かにLV.44のファウスが向かっても足止めにしかならないだろう。
魔法が通じればまだ希望はあっただろうが、残念ながらミラードラゴンには魔法は通じない。
「・・・・・」
修は何と返事をしていいのか判断がつかなかったので、沈黙を返した。
ファウスは一度、ふぅ、とため息を吐いて切り替えると、修にしっかりと頭を下げた。
「君のおかげでこの街は助かったのだ。代表して礼を言わせてくれ。ありがとう」
修もこういう話になるであろうことは予測できていたが、まさかこう堂々と頭を下げられるとは思わなかった。
「は、はい・・・」
修は礼儀などしらないのだ。
困った顔で取りあえず相槌を打った。
「・・・ところで、シュウ殿」
顔を持ち上げたファウスは、何やら良い笑顔を浮かべていた。
「はい?」
その笑顔に嫌な予感を覚えて、修は微笑みを浮かべたまま警戒した。
「騎士団に入らんか?」
予想通りの質問が来た。
先日、修が嫌と言うほど見た笑顔だった。
「申し訳ございません。せっかくのお誘いですが・・・」
修は手慣れた様子で断った。
「・・・そうか。残念だが、仕方あるまい」
ファウスは非常に残念そうな顔をしたが、あっさりと引き下がってくれた。
元々騎士団員が誘っていたことも知っているのだろうか。
「すいません・・・」
あっさり引き下がったファウスに、修は内心胸を撫で下ろした。
人間関係が面倒くさいことは、先日の一件でよく理解できた。
「・・・何かあった時に、声をかけさせてもらっても良いかな?」
そちらであれば問題は無い。
この街に自分の家があるのだから、壊れてしまっては困る。
「はい。その時はぜひ」
修は頷いた。
「うむ。君の様な強い人がいてくれて助かる」
ファウスは、少しほっとした顔をした。
街の危機など滅多にあることではないが、確実に0%ではないのだ。
いざと言う時に強大な戦力は保持しておきたい。
「はは・・・」
修は頭を掻きながら曖昧に頷いた。
ようやく話は終わった、と思ったところで、ファウスは微かに期待を込めた瞳で修を見た。
「・・・ところで私の姪に会ってみないかね?中々に器量がよいのだが」
「ははは・・・。すいません・・・」
ひくっ、と修の頬が引き攣った。
申し訳なさそうに控えめに断った。
「・・・そうか。気が変わったらいつでも言ってくれ」
ファウスはまだ諦めきれていないようだった。
如何にかして、修を身内に引き入れたいのだろう。
「はい・・・」
修は頷いたが、その時は来ないだろうな、と思った。
カマンの屋敷に戻り、ポーラと訓練をした。
訓練内容の一つ一つが人外の修に、ポーラは質問をした。
「ご主人様は今までどういう訓練をされていたのでしょうか?」
修は腕を組んで虚空を見つめた。
「・・・あれは6歳の時かな。目を覚ますと見知らぬ山の中だったよ。耳元に『帰って来い』って書いてある紙があってね」
「・・・・・・・・・・・」
ポーラが呆気にとられて修を見た。
「寒かったなぁ。雪が冷たいんだ。靴が欲しいよ。猪もすごく大きかった。・・・この凍ったキノコは食べれるんだろうか・・・?この木の根は美味しいなぁ・・・」
ぽつぽつと呟く修の言葉に、段々気持ちが込もり始めていた。
虚空を見つめる眼に、何やら熱が籠って来ていた。
「ご、ご主人様?」
不穏な気配を感じたポーラが、修に声をかけた。
しかし、修は反応をしなかった。
目を見開き、全身から冷や汗を流しながら震えはじめた。
「うわああ!!く、クマがっ!!クマが来たっ!!やらなきゃ、やられるっ!!うああああああっ!!」
「ご主人様!ご主人様!!」
ガタガタ震えはじめた修に、ポーラが必死に呼びかけた。
虚空を見つめていた修の瞳の焦点があった。
「はっ?!あ、ああ・・・。大丈夫、大丈夫だ。俺は死なない。死んでたまるか・・・」
それでも未だぶつぶつと呟く修に、ポーラが心配そうだ。
「・・・ご主人様」
修は何かを悟った瞳で、首を横に振った。
「うん、まあ。参考にしない方がいいよ。うん」
「・・・はい」
ポーラもそれ以上は突っ込めなかった。
しばし後、落ち着いた修は、お互いに少し距離を取った後にポーラに言った。
「まあ実戦形式にしよう」
「・・・お願いします」
ポーラはダマスカスソードを抜いた。
「よし、来なさい」
修は構えることもせず、言い放った。
「行きますっ!」
ポーラも修に向かって駆けだした。
ポーラは最初、実剣での訓練に遠慮はあった。
かなりレベルが上がったはずなので、まずは様子を見ようとした。
修がミラードラゴンを倒してから、急に体が軽くなったのだ。
しかし、そんな遠慮はすぐに無くなった。
まず当たらない。
熱中しすぎて、全力で斬りかかっても指二本で止められた。
「攻撃してからの反応が遅いね」
愕然としたところ、お返しにデコピンを喰らった。
見えなかったし、当然避けれなかった。
デコピンなのにポーラの頭が仰け反った。
「ツッ!!・・・はいっ!」
意図せずに涙を溢れさせながら、ポーラは再び斬りかかる。
「隙あり」
踏み込んだ足を刈られて尻を強打した。
「~~~~~~~~ッ!!」
腰を押さえて悶絶していると、頭の横を修の足が踏み抜いた。
「ほら、止まらない」
「っ!!は、い」
ポーラは痛みに顔を歪めながらも必死に立ち上がった。
「はい、避ける」
立った瞬間、足を刈られて、また尻を打った。
「うっ!!」
今度はポーラもすぐ立ち上がった。
しかし、それだけだった。
「反撃は?」
目の前に、修のデコピンがあった。
「は、い」
額を弾かれた。
修はスパルタだった。
修のトラウマスイッチが押されました




