22話 奴隷のお願い
帰り道は、誰も彼もが笑顔だった。
恐ろしい目にはあったが、結果的には犠牲も無く、むしろ儲けたのだ。
皆が皆、商談で忙しそうにしていた。
その中で、一番忙しかったのは修だった。
最初に、ある探索者に声をかけられた。
何人で潜っているのか、と聞かれ、素直に二人でと答えた。
「二人?!うちに入らないか?」
途端に、鼻息も荒く勧誘して来た。
修が困っていると、妖艶そうなお姉さんの探索者が流し目をしながら囁いて来る。
「私と組まないかしら?」
そればかりではない。
むっさいおっさんもドカドカと走り寄って来て、叫んだ。
「俺のPTに入らないか!?」
後はもう、次から次へと探索者が寄って来た。
修が全てお断りするのには、かなりの時間がかかった。
ようやく一息をつけたところで、また群がられた。
今度は商人だった。
「奴隷などお求めではありませんか?」
売込みだった。
一人が声をかけると、他の商人達も慌てて売り込みに来た。
「うちで最近奴隷を仕入れましてね。一度見て頂けませんかな?」
奴隷が手元にない商人は、店への誘いを。
「この娘は如何ですかな?楽しめると思いますが」
奴隷が手元にある商人は、何とか売り込もうとしてきた。
こんなところで一人買えば、必然的に他の奴隷も買わなくてはならない雰囲気になってしまう。
それに仮に奴隷を買うとしても、まずはカマンから話を通すのが筋だろう。
とにかく今は考えていない、と必死に断った。
最後の最後は、騎士団員だった。
鎧をガチャガチャと打ち鳴らす集団に囲まれてしまった。
「君は探索者だそうだな。騎士団に入らんか?」
「強い者はいつでも募集しているぞ!」
「あんたも入らないか?あんたが居ればどこでも安心だからな。はっはっは!」
皆が皆、口々に誘って来る。
修はまた必死に断り続けた。
お陰で、夜にはすっかり気疲れしていた。
それらを見て、ポーラは焦っていた。
修がとても強いのは十二分に知っていたが、まさかここまでとは予想もしなかった。
それに加えて、今の修は色々な人から誘われている。
ポーラとPTを解散して、他のPTに入ることなど簡単だ。
捨てられることは無いかもしれない。
が、迷宮までは一緒に潜ることは無くなるかもしれない。
離れたくは無かった。
夜、ポーラは修の布団の中で、意を決して言葉を発した。
「あの・・・・」
修がポーラを見つめた。
「ん?」
瞳に固い決意を秘めて、ポーラが言った。
「・・・お願いがございます」
その様子に、修も多少顔を引き締めた。
「うん。何かな?」
「・・・私を、鍛えてください」
修は考え込んだ。
「う~ん」
鍛え方を考え始めたが、自分の経験は参考にしない方が良いだろう。
それを違う意味に受け取ったポーラが、必死に縋り付いて来る。
「お願いします。足手纏いなのは理解しております。ですから、少しでもお役に立てる様になりたいのです!」
「鍛える、かぁ・・・」
修が呟く。
自分の記憶に普通の鍛え方があっただろうか、と過去を思い出す。
修の頬を涙が伝った。
「・・・良く分からないから、一緒に訓練しようか」
記憶に無かった。
あのジジイは実は昔からボケてたのではないだろうか。
そうとすら思える恐ろしい内容ばかりだった。
「は、はい!お願いします!!」
急に泣きはじめた修に驚きながらも、ポーラは頷いた。
装備が出来るまでに一週間はかかるそうだ。
街に帰ってから、装備が出来るまでの間は、カマンの屋敷の警護を頼まれた。
なんせドラゴンの素材がたっぷり詰まっているのだ。
不埒な輩が現れても不思議ではない。
修とポーラは、ドラゴンの素材がたっぷり入った倉庫の中で、警護しながら訓練することにした。
「じゃあ軽く腕立て一万回くらいからいこうか」
修は、さらりと頭がおかしいことを言った。
「いちまんっ?!かるっ?!--ーいえ、やります!やりますっ!!」
ポーラは目を剥いたが、すぐに据わった眼で頷いた。
二人同時に始めたが、
「はやっ?!」
残像を作っている修を見て、ポーラは愕然とした。
しばし後。
あっという間に一万回を軽くこなし、汗すらかいていない修とは対照的に、ポーラはべったりと床に張り付いていた。
腕がぷるぷると震えている。
体を持ちあげようとしては、べちゃりと床に倒れていた。
それでもかなりの数をこなしたのだ。
「ポーラ、無理しないでいいよ」
修が心配そうに声をかけても、
「・・・・・いえ・・・・・・・・・・・・・この、てい・・・ど・・・・」
ポーラは息も絶え絶えにもぞもぞ蠢いていた。
しかし、いつまでたっても持ち上がらない。
「今日はこれくらいにしよう。ね?」
修的にはそこからが本番だったが、普通はここで終わるものらしい。
修はポーラを抱えあげた。
「・・・・・・・・・・・は・・・・・・・い・・・・・・」
ポーラは力尽きた。
ちなみに、ミラードラゴン効果でレベルが跳ねあがっていた。
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LV.33
カンザキ シュウ
人間:♂
18
拳士LV.■■
経験値獲得アップLV.6
攻撃魔法LV.22
回復魔法LV.22
鑑定
状態異常無効
称号変更
『探索者』
『拳を極めし者』
『神を殴りし者』
『ご主人様』
所有物
ポーラ
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LV.31
ポーラ
獣人:♀
17
剣士LV.32
『探索者』
『奴隷』
『○○○』
主
カンザキ シュウ
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神様特典は、かなり上がりにくいらしい。
中でも経験値獲得アップは特に。




