21話 セイッ!!→
探索者と騎士団員たちは必死にミラードラゴンと戦っていた。
しかし、有効なダメージは与えることが出来ない。
「くそっ、なんて硬さだ!!」
一人の男が、悲痛な顔で叫んだ。
「諦めるなっ!少しでも削るんだ!」
不安は伝播する。
ジェイアスは士気を引き上げる様に叫んだ。
しかし
「何とかなるのかよっ!」
また別の男が叫んだ。
ドラゴンの攻撃は、一撃でも喰らえば致命傷だ。
更に、こちらはどんどん体力が無くなっていく。
避けきれなくなる時が刻一刻と迫って来る感覚がある。
「こいつが街に向かってみろ!どうなるかは分かるだろうっ!!」
ジェイアスは叫び返した。
皆、最悪の出来事を想像したのだろう。
悲痛な顔ながら、歯を食いしばった。
「・・・くっそぉぉ!!」
破れかぶれながら、逃げ出すと言う考えは一旦無くしたようだ。
効かぬと分かり鳴りを潜めていた魔法も、再びミラードラゴンに向かって放たれ始めた。
容易く鱗に弾かれたが、少しでも気を逸らせればいい。
そう考えての援護だろう。
しかしそれもいつまで持つのか。
「街には領主様がいらっしゃるっ!!応援が来るまで何としても持ちこたえるんだ!」
ジェイアスは、必死に皆を激励し続けた。
すると、鬱陶しそうに尻尾を振るって暴れていたミラードラゴンは、ジェイアスを見つめた。
彼が皆の心を支えていることを理解したのだろうか。
近づくものだけを面倒そうに攻撃していたミラードラゴンは、突如、ジェイアスに向かって突進した。
身に降りかかる攻撃を、歯牙にもかけず。
「ッ?!グッ!!クッ!!」
剛腕を振る。
尻尾を叩き付ける。
巨大な体で体当たりを仕掛ける。
探索達が高レベルとはいっても、ミラードラゴンほどではない。
単発の攻撃故に辛うじて避けれていたのだ。
それが、連続で行われればどうなるか。
ジェイアスは、良く持った方だろう。
迫りくる剛腕を潜り抜け、尻尾を避けた。
体当たりすら身を投げ出して避けた。
が、そこまでだった。
体勢を大きく崩したジェイアスに対し、
ミラードラゴンが突如、地面に剛腕を突き刺した。
そして、大地をひっくり返す様な勢いで腕を振り上げた。
まさしくちゃぶ台返し。
その結果は、土砂の津波だった。
「っ!?」
迫りくる土砂の津波を前に、ジェイアスは歯を食いしばって盾を構えた。
そんなものでは、防げない。
そんなことは理解していながら。
「ジェイアスーッ!!!」
ジェイアスのPTメンバーの誰かが、悲痛な声で叫んだ。
一瞬後に、挽肉が出来上がる。
そう皆が思った。
しかし、轟音と共に、突然土砂の津波は消し飛んだ。
「・・・・・・・・・君、は・・・・」
ジェイアスは、気付けば自分の前に現れた背中を見つめていた。
修が、一瞬で間に立ちふさがった。
ばかりか、土砂の津波を止めていた。
途方も無い力を込めた正拳で。
場の時が一瞬静止した。
ジェイアスも、探索者も、騎士団員も。
ミラードラゴンさえ、何が起きたのか理解できなかった。
修が、突き出していた右手を引いた。
皆が見えたのはそこまでだった。
「セイッ!」
修の声と共に、再び轟音が鳴った。
ミラードラゴンの巨体が、宙を舞った。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』
次いで、苦痛の咆哮が響いた。
ミラードラゴンは地面に墜落し、痛みに暴れた。
「お・・・。生きてる」
修は、一瞬前までミラードラゴンが居た場所に立っていた。
拳を突き出した姿勢のまま、感心したように、嬉しそうに頬を吊り上げた。
そこでジェイアスは我に返った。
「ッ?!効いてる、効いてるぞ!!全員、彼の援護だ!!倒せるぞぉぉぉ!!!」
希望を込めた叫びをあげる。
「「「お、おおおおおおおっ!!!」」」
皆、顔に希望を乗せて叫んだ。
何としても、修の攻撃をミラードラゴンにぶつけさせようと行動しようとする。
そんな中で、修は構えた。
殴り飛ばされたミラードラゴンとは、まだかなりの距離があるのに。
左足を前に、右手を腰だめに。
軽く腰を落として。
そして修の体が消えた。
「セェェイッ!!!」
声は、立ち上がろうとしていたミラードラゴンの目の前から聞こえた。
皆の視線の中で、突如ミラードラゴンの首から上が無くなった。
ミラードラゴンの前には、見るからにアッパーカットを振り抜いた修の体がある。
ドスゥン!と力なく倒れるミラードラゴンの胴体を見て、皆の目が点になった。
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」」」
ドチャッ!!と音を立てて、ミラードラゴンの首が落ちて来た。
修は腕を降ろして、ミラードラゴンの死体を見て首を傾げていた。
「・・・・あれ?死体のまま?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ジェイアス含む、全員はぽかんと口を開けてミラードラゴンの死体を見つめていた。
「ん~。死んでるよね?・・・・・迷宮の中だけなのかな・・・?」
修は不思議そうな顔で、ミラードラゴンの死体をつんつんと突ついていた。
当然、ピクリとも反応しない。
ジェイアスが、機械的な動きで修に近づいて、引き攣った顔で修に声をかけた。
「・・・あの」
修が振り返った。
「あ、はい?」
「何をしたのかな?」
震える声の質問に、修は右手でアッパーカットした。
「え?こう、です」
全員の心からの叫びが、修に浴びせ掛けられた。
「「「んなわけあるかぁっ!!!」」」
「ええ?!」
ミラードラゴンが出て来た迷宮は、壊れていた。
入り口に巨大な大穴が開き、数人が潜ったが、魔物は一匹もいなかったそうだ。
迷宮は、餓死していた。
その迷宮の前に、二種類の人が居た。
助かって安堵する者、理不尽を見て頭を抱える者。
そんな中、修は気楽にカマンとポーラを捜し歩いていた。
見覚えのある馬車を見つけて近寄ると、ポーラが居た。
「ポーラ、だいじょ「ご主人様っ!!」
ポーラが飛びついて来た。
「ご無事ですか!?怪我はございませんか!?」
ポーラは修の全身を撫でまわし、鼻を鳴らして怪我の有無を探し始めた。
されるがままになりながら、修は聞き返した。
「あ、うん。無事だよ。そっちは?」
怪我無いことを確認してほっと一安心した様子のポーラはようやく胸を撫で下ろした。
「大丈夫です。何もありませんでした。・・・嗚呼、ご無事でよかった・・・」
「死ぬ気は無いって言ったじゃん。ていうか実際余裕だったよ」
修は平気な顔で呟いた。
その頃ジェイアスは、遠い瞳で空を眺めていた。
迷宮の外では、魔物は普通に死体が残るらしい。
迷宮内では、死体の魔力を吸収しているのだろう。
その為、ドラゴンの死体が丸々残った。
撲殺した修が、死体のほとんどを手に入れることになった。
それでも周りはホクホク顔だ。
レベル78の魔法を弾くドラゴンの素材である。
通常では決して手に入ることは無いものだ。
流石に分配した分だけでは装備は作れないだろうが、売るなり買うなりして集めればいい。
早速、そこかしこで交渉が行われていた。
カマンも、太陽の様に輝く笑顔を浮かべていた。
「いやぁ実に素晴らしい!!シュウさんは最高ですな!!」
「ありがとうございます」
修も、生き物に対して、構えて殴ったことは久々だった。
少し満足出来た。
「まさかここまでお強いとは!・・・それでですなシュウさん」
カマンが期待に瞳を輝かせていた。
「はい?」
「ドラゴンの死体、ほとんどがシュウさんの取り分だとお聞きしました」
カマンはニコニコ笑顔で揉み手までしていた。
「そうみたいですね」
修は頷いた。
だいたい、話の予想は出来た。
「私に売って頂けませんかね?勿論正当な値段はお出し致しますので」
ここまで高レベルのドラゴンの素材など、そう簡単に手に入るものではない。
そもそもあのレベルのドラゴンを倒せる人など居るかすら疑わしいのに、それが丸々一匹分あるのだ。
商人としては、欲しがるのは当然だろう。
「あー。装備品作れるそうじゃないですか?それの残りでよいでしょうかね・・・?」
修ももちろん、売ることに異存はないが、まず装備を作りたかった。
ドラゴン装備。
実に心躍る一品である。
「ええ、ええ!勿論ですとも!装備品の作成もお任せ下さい!」
カマンは内心小躍りだ。
二人分の装備程度、一式揃えたところで全く問題は無い。
「じゃあお願いします。二人分の防具一式と、ポーラは剣と盾もかな?あと予備で短剣くらいかな。高いらしいので、手元に少しは残して置きたいですし。・・・・余りますかね?」
修はカマンに甘えることにした。
ポーラが後ろで身動ぎをしていた。
「十分に余りますとも!!お任せ下さい!!」
カマンは満面の笑みで頷いた。
早速とばかりに、カマンがドラゴンの死体の回収に向かって行った。
「・・・・・・・・・ありがとうございますご主人様」
ポーラは修に頭を下げた。
セイッ!!→セェェイッ!!!




