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その拳にご注意を  作者: ろうろう
22/136

20話 凄く大きいです

昨夜は実に恐ろしい夜だった。

久々にポーラがダウンするまで相手をすることになった。

しかし、まだ誤解は解け切れていないようだった。

疑わしげな、しかし昨夜よりも冷静なポーラに、修は朝から説得することとなった。


「分かった?ポーラの誤解なんだよ」


ようやく最後まで説明をすることが出来た。


「・・・はい。あの」


ポーラはちらりと修に視線を向けて来た。


「ん?」


首を傾げる修に、ポーラは自分のすらりとした腹を撫でながらぽつりと呟いた。


「・・・お腹は出ていた方が良いのでしょうか?」


まだ違う誤解が残っていたようだ。

修は慌てて捲し立てた。


「ええっ!?そのままでいいよ!今のポーラが一番!」


するとポーラは、今度はふくよかな自分の胸を持ち上げた。

見るだけで、ずっしりとした重みが分かる。


「・・・ありがとうございます。もしかしてコレが大きすぎるのでしょうか?・・・減らしましょうか?」


修は愕然とした。


「どうやって?!いやいいよ、そのまま!ポーラのおっぱい大好き!」


またポーラに捲し立てる。


「・・・そうなのですか?」


ポーラは疑わしげに修を見つめて来た。


「そうそう!ほらおいでポーラ!」


修が手を広げてポーラを誘った。


「・・・はい」


ポーラは控えめに修の腕の中に納まってきた。


「ポーラの抱き心地が一番さ!ほらほら良い子良い子」


修がポーラを抱きしめて、頭を撫でながら必死に説得を続ける。


「・・・・・きゅぅぅぅん」


頭を撫でられるたびに、ポーラが甘えた声をあげはじめる。

尻尾がぱっさぱっさと振られ始めた。

ポーラの不安が消えるまで、頭を撫で続けることになった。

それまでに、かなりの時間を費やした。




「おはようございます、シュウさん!」


カマンの爽やかな笑顔が憎らしかった。




カマンにはあまり酒を飲ませないように心掛けたおかげで、そこからは大した問題は起きなかった。

馬車に揺られ続ける中で、カマンがぽつりと呟いた。


「そろそろですな」


周りの探索者たちも、迷宮に潜る準備をし始めていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


そんな中で、修の視線が突然顔を引き締め、道の先を睨み据えた。


「ご主人様?」


その様子を見てポーラが気づかわしげに修に話しかけた。

修は立ち上がった。


「カマンさん、ここで止まって。何か居る」


何時もとは違う強い口調だった。


「は?は、はい!!・・・おい!止まれ!」


カマンは何が何だか分からなかったが、咄嗟に従った。

声を張り上げて後続の使用人たちに命令を出す。


「は?」「停止!停止だ!」


気が緩んでいたのだろう、使用人たちは一瞬飛び上がって、慌てて停止した。

すると、他の商人たちがカマンに馬を寄せて来た。


「・・・何でしょうか?もう間もなく到着だと思うのですが・・・」


一番大きな商隊のカマンが止まったのだ。

不穏な気配を察したのだろう。


「いや、何かいる。・・・らしい」


カマンが自信なさげに呟き、修をちらりと見た。


「・・・は?」


カマンに話しかけた商人は修を見る。

修はじっと虚空を睨み付けていた。


「・・・あんたか?いったい何が居るって・・・」


商人が修に話しかけた。

その瞬間に。


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!』


森に咆哮が轟いた。


「「「ッ?!」」」


次いで、ズンッ、ズンッと言う音が近づいて来る。

誰もが身を竦めた。

皆が皆、暴れ始める馬を必死に諌める。


先頭付近を歩いていた騎士団員が剣を抜き、叫んだ。


「探索者!騎士団員は戦闘準備!商人たちは下がれ!!」


指示に従い、全員があわただしく動き始めた。

音の正体はすぐに表れた。

それは大きかった。

横幅でもトラックの3倍はあるだろう。

縦でもトラックの倍はある。

まさしく小山の様だった。

それはドラゴンだった。

全身が鏡の様な鱗に覆われた、不思議な。


「あれは・・・?!」「ドラゴン、だと?!」「くそっ!間に合わなかったのか!!」


ある者は戦慄し、ある者は腰を抜かした。

修はドラゴンに鑑定を使った。


----------------------------


LV.78

ボス・ミラードラゴン


----------------------------


初めてみるほど高レベルだった。


「ミラードラゴン・・・・」


修がポツリと呟くと、呆然と立ち竦んでいた一人の探索者が悲鳴の様な声で修に話しかけて来た。


「ッ!?分かるのか!?」


修は軽く準備運動をしながら呟いた。


「レベル78だってさ」


「なっ!!ななじゅう・・・」


周りの人たちの顔が、一層蒼白になった。

しかし、ミラードラゴンはそんな間にも近づいて来る。


「高レベルが前衛!時間を稼げ!!低レベルは商人を守れ!撤退だ!領主様にお伝えしろ」


気丈にも一人の探索者が叫んだ。

強そうな探索者たちが迅速に、ミラードラゴンを囲む様に布陣していく。

腕に自信のない探索者たちは、呆然としている商人達を叱咤していた。


「ポーラ。カマンさんと下がっているんだ」


修が馬車から降り、ポーラに言った。

ポーラはごくりと唾を呑みこみ、修に問いかけた。


「・・・ご主人様は?」


「ちょっとやってくるよ」


修は好戦的な笑みを浮かべていた。

拳が打ち合わされ、ガギンッ!と音が鳴り、火花まで散っていた。


「・・・私もご一緒します」


ポーラは、能面のような顔で、しかし何かの決意を秘めた瞳で呟いた。

しかし、修はポーラの目を見て言った。


「駄目だ。今のポーラじゃ死ぬかもしれない」


ポーラの顔が悲痛に歪んだ。


「ですが!」


明らかに死ぬ気のポーラに、修は微笑みかけた。


「俺は死ぬ気は無いよ。たぶん大丈夫だから。君はカマンさんの護衛をしなさい」


ポーラと修の視線が激突した。

ポーラは必死に修の視線の奥の意思を探す。

悲痛な意思はどこにも無く、むしろ何かに期待するような意思があった。


「・・・はい。御武運を」


結局、ポーラは折れた。

もし修が帰って来なかったら、後を追おうと決意しながら。




修は駆け出した。

既にミラードラゴンとの戦闘が始まっていた。

それは戦いと言っていい物かどうか。

幾つもの魔法がミラードラゴンに叩き込まれ、隙を見つけた探索者たちが斬りかかっている。

しかし、不思議な鱗の効果か、魔法は弾かれていた。

斬られても鱗に傷がつく程度で、本体にはダメージが通っていない。

人によっては傷すらつけることが出来ていない。

そのため、攻撃を歯牙にもかけず、ミラードラゴンは暴れていた。

探索者たちは全力でそれを避ける。

全てが致命となる攻撃を、命がけで。

どちらが先に力尽きるかは、簡単に予想が出来た。


徐々に悲壮感を漂わせ始める探索者達を、一人の若い男が声を振り絞って激励していた。


「怯むなっ!!俺達が敗れたらどれだけの人が死ぬか分からんぞ!!」


ジェイアスだった。

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