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その拳にご注意を  作者: ろうろう
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18話 その瞳で見ないでくれ

修が杖を作った日の夜のことだった。

修は寝ていた。

夢も見ない深い眠りの中に居た。


「シ・・・サ・・・」


そんな修に、語り掛けて来るものがあった。


「シュ・・・ン・・・。・・・しゅう・・・・ん・・・。・・・しゅうさん」


「はっ!?」


修は覚醒した。

同時に右の拳が動いた。

柔らかい肉にめり込む手応えがあった。


「おぶっ?!」


純白の衣装を来た、神々しい何かがもんどりうって倒れた。


「・・・・・神さん?」


頬を押さえて七転八倒しているそれを見て、寝起きの顔の修が首を傾げた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


暴れまわっていた神が止まった。

耳を澄ますと、シクシクと啜り泣く音が聞こえて来た。

マジ泣きだった。


「ご、ごめんなさい・・・・」


修は何が何だか分からないまま、頭を下げた。




肉まんを詰め込んだように左の頬を腫らしながらも、泣き止んだ神に修が訪ねた。


「・・あの、それでここは?」


なんだかよく分からない場所に居た。

暗いのか明るいのかすら分からない。

果てがある気がするが、無い気もする。

何故か立てているし、今にも落ちそうでもある。

ポーラを抱き枕にして、自室のベッドで寝ていたはずなのだが。


「・・・修さんの夢の中です・・・」


神が頬を撫でながら呟いた。

まだ鼻声だった。

修は目を丸くした。


「夢なの?なんで神さん痛いの?」


そして首を傾げた。

神は半切れで叫んだ。


「しりませんよもぉ!!マジで痛いんですからね!?分かってます!?」


痛々しく腫れあがった頬を見せつける様にしてぐいぐいと体を押し込んで来る。

修は申し訳なさそうに謝った。


「・・・ごめんなさい。突然不思議な気配があったら殴る様になってて・・・」


(何つー恐ろしい・・・・)


今回は初めてあった時に殴られた時よりも痛かった。

あの時ですら手加減されていたのだという事実に神は戦慄した。

怒らせない様にしよう、と決意して、神は溜め息を吐いた。


「・・・・・いいです。故意ではないことは分かりました」


表情を繕って、頭を下げている修に、物わかりの良い先生の様に言った。

心の中では、


(今度からは離れて呼びかけます)


等と考えていた。

神の雰囲気が和らいだところで、修が顔をあげた。


「うん。お願い。・・・それで?」


「はい?」


二人で見つめ合った。

修の『何しに来たの?』と言う視線と、神の『何を言っているか分からない』と言う視線がぶつかった。

見つめっていても埒が明かない。

修が言葉にした。


「・・・・・ここって俺の夢だよね?どうやって夢の中に来たの?」


「それはまあ、こう」


神は得心が言った、という顔で一度頷いた。

ゴッドスマイルを浮かべると同時に、神々しいオーラがビカビカと輝いた。

痛々しいほっぺたさえまともであれば。


「ゴッドパワーで」


「・・・そうなんだ」


神の答えになっていない答えに、これ以上質問しても、有意義な答えは返ってこないだろうことは理解した。

次の疑問に移ることにした。


「うん、まあわかったよ。それで何の用なの?」


神が、とてもとても優しい笑顔を浮かべた。

子供を見る母親の様に、慈悲に満ち溢れる顔だった。


「・・・修さん、木片手刀で斬って、杖作ってたじゃないですか」


「っ!!そうそう!!これで俺も名実ともに魔法使いにっ!!」


修は一瞬で顔を輝かせた。


「あれ意味ないです」


神は死刑宣告を行った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


輝く笑顔を凍り付かせた修が、その顔のままで首を傾げた。

神は憐れむ様な瞳で首を振った。


「職人に作って貰わないと、ただの杖です。頑丈な」


常識なんですけどね、などと神が呟いていた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


修の頭の中で、寝る前のことを思い出した。

嬉しそうに杖を振る自分。

それを見つめる、ポーラの優しい笑顔。

そうだ、とても優しい笑顔だった。

そういえば、ポーラは途中で何度か口を開こうとし、ぐっとこらえていた気がする。

ポーラは全てを知っていた。

あの優しい微笑みの意味を、理解した。


「ぁぁぁぁぁぁぁ!!!やめてっ!!そんな目で俺を見ないでっ!!ポーラぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


修は頭を抱えてごろごろと転がった。


「・・・・あの子も、あの時の修さんの笑顔を見て、言い出しにくかったのでしょうね」


神が目を閉じ、重々しく言った。

神もあの時、余程教えてやろうかと思った。

しかし、輝く修の笑顔を目にすると、気の毒すぎてとてもその場では言えなかったのだ。


「いやああああああああやめてぇええええええええええ!!!!」


死に体に鞭打たれた修は両耳を閉じて転げまわった。




しばし後、息も絶え絶えな様子の修がゾンビのようにふらりと立ち上がった。


「・・・・・・・・・・・・・・・用事はそれだけ?」


とても覇気のない声だった。

早く黒歴史を忘却の彼方に押しやりたかった。

せめて一時の睡眠やすらぎを求める修に、神が首を横に振った。


「いえ」


修は光の無い瞳を神に向けた。

その瞳を見れば、ポーラなら修に休養を与えようとするだろう。


「・・・・・・何?」


しかし、神はその瞳を受けても動じなかった。


「ほら、修さんと初めてあった場所って話し相手居ないじゃないですか」


「・・・うん。まあ」


実に鬱陶しそうに修が頷いた。


「他の人間に会いに行くとですね、『神様のお告げが!!』なんて言って皆大騒ぎするんですよね」


神は全く気にせず、むしろ苦笑まで浮かべてすらすらと口を開いた。

肩を竦め、『困ったもんでしょう?』と言う視線を向けて来る。


「・・・はぁ」


「そんな相手だと、私もこう、しっかりしないと駄目じゃないですか」


神は、『ふぅーやれやれ』、と言った風に溜め息を吐く。


「・・・うん」


「その点修さんは気楽に話せます!」


神は、『僕たち友達でしょう?』と言う視線を修に投げかけて来た。


「・・・・・・そうね」


明らかに気のない返事の修に全く構わず、神はどっかりと胡坐を組んで修の前に座り込んだ。


「さあお話しましょう!最近どうですか?」


修は迷惑そうな顔を隠そうともせずに呟いた。


「ええ?神さんって神様でしょ?いつも見てたんでしょ?俺の・・・黒歴史を・・・・」


後半で顔を覆ってぶるぶると震えていた。

しかし、神は首を振った。


「いやー、いくら私が凄くてもですね、流石に全部は見れませんよ。あの時はたまたまです。色々と引っ張りだこなんですよ私」


「・・・・そうなの?」


修は指の間から、疑わしげな視線を神に向ける。


「そうなんですよー。今日もですね、司祭があんまりにも祈るものだから・・・」


ゴッドトークが始まった。

そしてそれは延々と続いた。


「ーと、言う訳なんですよ!いや、久々に頑張っちゃいましたよ、はっはっは!!」


神は実に上機嫌に、一方的に話し続けた。

途中で相槌さえ返さなくなった修に対して。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


違う意味でグロッキーになった修の様子を気にすることも無く、神は突然立ち上がった。


「むっ!そろそろ朝ですね。では修さん、また会いましょう!」


神が手を振ると同時に、その姿が消えた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


修は同時に意識を手放した。




朝日に、修は目を開けた。

全く眠った気がしなかった。

目の下に隈があるのではないか、とすら思った。

普通の徹夜なら二日三日程度何のその。

だが、今回は多大な精神的ダメージをこうむった後に、ひたすら自慢話をされたのだ。

いきなり殴ったという負い目の為、拒否することもできなかった。

まるで拷問だった。


ポーラも修が起きた気配に気づき、起床した。

輝く笑顔を修に向けて来た。


「おはようございます、ご主人様。・・・・・ご主人様?」


しかしすぐに訝しげに眉が歪められた。

修はポーラの笑顔で、昨夜を思い出した。

ポーラの笑顔は修の心にダメージを与えた。


「・・・おはよう、ポーラ」


修は力無く、乾いた微笑みを浮かべた。

ポーラは心配そうに眉を寄せた。


「・・・お体の具合は宜しくないのでしょうか?」


心配そうに擦り寄ってくるポーラに、修が力なく反応する。


「そうなんだ。今日は休みにしよう」


「はい。あの、すぐに体に良い物をお作り致します!」


ポーラは一人ベッドから抜け出て、慌てて服を着こみ始めた。


「ははは・・・。まああんまり気にしないで。むしろ寝かせて。俺をそっとしておいて」


精神を挫かれた今の修は、ポーラを見ることすら苦痛だった。

布団を被って丸くなりたい。

昨夜の自分を殴り飛ばしたい。

むしろ死にたい。

そんな悲壮な雰囲気を漂わせる修にポーラが食い下がる。


「で、ですが・・・。せめて何か口に入れないと治るものも治りません!」


奴隷の鑑である。

その好意が辛いんです、とも言えずに、修は力なく頷いた。


「・・・・そう、だね。・・・・じゃあ、軽いのを少しだけお願い」


「はい!すぐにお作り致します!少々お待ちください!」


ポーラはすっ飛んで行った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・」


修は布団に包まり丸くなった。






「あの、ご主人様。昨夜作られた杖についてなのですが・・・・」


「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええ!!!もう分かってるのぉぉぉぉぉぉおおお!!!!」


修は丸一日布団から出てこなかった。

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