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その拳にご注意を  作者: ろうろう
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15話 怒る奴隷と気にしないご主人様

『はぐれ』の報酬は、朱金貨一枚あった。

がっぽがっぽだ。

わざと『はぐれ』を出して倒してお金を稼ぐことも一瞬考えたが、他の探索者の迷惑になることも考えると諦めるしかなかった。

今日も今日とて、ポーラと同じベッドで朝を迎えた後、迷宮に向かった。

すると、迷宮の前に一つのPTがあった。

誰も彼もが使い込まれた装備に、良く鍛えられた体をしていた。

その中の一人が、修に歩み寄って来た。

まだ若い男だった。

男は気楽に笑いながら修に話しかけて来た。


「初めまして。俺はジェイアスと言う。君が『はぐれ』を倒したっていうのは本当かな?」


修は取りあえず挨拶をし返した。


「え?修です。初めまして。そうですよ」


ジェイアスは、訝しむような視線で修の全身をジロジロと見つめた。


「・・・そうか。三層で戦っていると聞いたのだが・・・」


細い、そう思ったのだろう。


「そうですね。今は三層です」


修が頷くと、ジェイアスは少し困った風に笑った。


「どうやって『はぐれ』を倒したんだい?」


「こう、です」


修は、虚空に軽く正拳を放った。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさか」


ジェイアスは、苦笑して首を振った。

修が首を傾げた。


「?」


ジェイアスは言い聞かせる様に修に言う。


「シャークヘッズは金属の様に硬い。素手で倒せるほど弱い魔物ではないよ」


修は不思議そうな顔のままで軽く頷いた。


「確かに固そうでしたね」


見た目は、と呟く。

その呟きはジェイアスに聞こえなかったようで、困ったように視線を動かした。

そして、修の後ろに居るポーラを見つけた。


「・・・・・・・そちらの御嬢さんはPTメンバーかい?」


更に腰にあるダマスカスソードを見つけて目を丸くした。


「っ?!・・・良い武器だな。それなら、貫けるだろうが・・・」


しかし、ポーラは首を横に振った。


「いえ。私は何もしておりません。ご主人様が倒されました」


ジェイアスは疑わしそうに、ポーラと修を交互に見つめた。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当なのか?」


「はい」


修が頷いても、ジェイアスは少しばかり考え込んでいた。

そして、首を横に振って呟いた。


「・・・駄目だ。信じられん」


修は困った風に笑った。


「そういわれましても」


事実なのだから仕方がないのだ。

ジェイアスは何かに感づいた、と言った顔をした。


「もしかして、こちらの御嬢さんが倒したのではないか?それを自分の功績にしたとか・・・?確かにPTメンバーであることには変わりはないが」


苦々しく言ってきた。

ジェイアスのPTメンバーであろう探索者たちも、困ったような、非難するような視線を修に送って来た。


「はぁ・・・」


修は頭を掻いた。

ジェイアスに、ポーラが噛みついた。


「・・・違います。ご主人様が倒されました。私では手も足も出ません」


じとっとにらむ様な瞳でジェイアスを見つめる。

ジェイアスは慌てた風に手を振った。


「・・・いや、気を悪くするだろうが・・・御嬢さんは彼の奴隷だろう?口裏合わせは幾らでも出来るし・・・」


ポーラがぎりぎりと歯を食いしばった。

瞳にどんどん険を宿らせていく。

そんなポーラに、ジェイアスは申し訳なさそうに言う。


「その、責めている訳ではないんだ。ただ、仮に実力でないとすれば、だ。評価が上がれば上の方から依頼が来る時もあるんだ。そう言う時に、恥をかくときもあるんだよ。恥ずかしい話だが、実際そういう探索者も居て」


修は納得した。

ジェイアスは、どう見てもシャークヘッズを倒せそうにない修を、心配して言ってくれているらしい。

結構いい人だと思った。

彼のPTメンバーの数人は、汚い物を見るような目で見て来ていたが。


「あー、なるほど。大丈夫ですよ」


修があっさりと頷いた。

ジェイアスは、自分の話の意図が伝わっていないと感じたのだろう。


「・・・・・・そうか。一応、手合せをお願いできないだろうか?手加減はちゃんとする」


そう切り出してきた。


「・・・・・・失礼ですよあなた」


ポーラが唸る様な声で呟いた。


「いいよ、ポーラ」


今にも飛びかかりそうな雰囲気のポーラを諌めて、修が進み出た。


「む。すまないな・・・・」


失礼な行為であることは自覚していたのだろう。

ジェイアスは申し訳なさそうに頭を下げて来た。

修は、ジェイアスに鑑定を使ってみた。


----------------------------


LV.41

ジェイアス

人間:♂

25


剣士LV.38


『探索者』


----------------------------


なるほど中々に強そうだった。

剣だけなら、もう少しで領主に匹敵しそうだ。

PTメンバーも似たり寄ったりだった。


先ほどからさげずんだ目で見て来る人は、魔法使いだった。

見るからにプライドの高そうな顔をしている。

レベルも中々に高い。

その分、不正で強く見せかけている、と思える修を嫌っているのだろうか。


迷宮から少し離れたところで、修とジェイアスが向かい合った。

ジェイアスは剣を構え、気楽な様子で構えた。


「よし、ではいつでも来てくれ」


修は当然無手のままだった。

一度頷くと、一歩踏み込んだ。


「はい、行きますよ」


修が消えた。

ジェイアスもポーラも、ジェイアスのPTメンバーもそう思った。

気付けば、ジェイアスの目の前に拳があった。

こん、と鼻に拳がぶつかると同時に、ジェイアスの顔に豪風が吹いた。


「っ?!」


ピクリとも動けなかった。

ジェイアスも、そのPTメンバーも全員が口を半開きにしてぽかんとしていた。

ポーラは誇らしげにふふん、と鼻を鳴らしていた。

修が拳を降ろして首を傾げた。


「もういいですか?」


「・・・・・・・・あ?あ、ああ。いや済まない。うん、良く分かった」


我に返ったジェイアスが、慌てて何度も頭を振った。


「はい、では」


ペコリと頭を下げて踵を返そうとする修に、ジェイアスは慌てて呼び止めた。


「あっ!待ってくれ!何故君は三層に居るんだ?もっともっと上層に潜れるだろう?」


心底不思議そうな声だった。

ジェイアスはこの街の探索者の中でも指折りだ。

そのジェイアスが、手も足も出なかったのだ。

修は、もっともっと上層に居るはずの境地に立っているはずなのだ。


修は恥ずかしそうに笑った。


「先日潜り始めたところなので・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうなのか?いや、そうか。分かった。すまなかった。頑張ってくれ。君ならすぐ上に登れるだろう」


ジェイアスは心底不思議な生き物を見るような目で修を見つめた後、カクカクと頭を振った。


「はい。そちらも頑張ってください」


修は頭を下げて、今度こそ踵を返した。

ポーラが尻尾を振ってその後ろに着いて行った。



グルードッグを数体倒したところで、扉を見つけた。

ポーラ単身でもグルードッグは容易く倒せるようになっているのだ。

問題は無いだろう。


「じゃあ今日はボスに行こうか」


修が言うと、ポーラは待ってましたと言わんばかりに頷いた。


「はい!」


その張り切り具合に修は苦笑した。


「ポーラがやる?俺がやる?」


「よろしければ、私にお任せ下さい」


ポーラは相変わらず、瞳をめらめらと燃やしながら返事をしてきた。

修は頷いた。


「危なそうだったら助けるからね」


「はい」


扉の中には、いつも通りの展開だった。


『ぐるるるるるるるるるるるるるるるるぅぅぅぅぅぅ』


----------------------------


LV.3

ボス・グルードッグ


----------------------------


大きい分、五月蠅かった。


ポーラは突撃をひらひらと躱して攻撃を当てていく。

やはりでかいだけのようだ。


しかし、違う点があった。

足払いが曲者だったのだ。

尻尾が巨大になったことで、飛んで躱すには大きく飛ばなくてはならない。

すると、滞空時間が増え、着地を狙われやすくなっていた。

ポーラは盾で弾き、剣で受け流していたが、やがて足払いはバックステップで躱すようになった。

そうなると、もう一方的だった。


追い詰められると、グルードッグはやはり立ち上がった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


シュッシュッと虚空にジャブを放つグルードッグを修は何かを憐れむ様な瞳で、ポーラは油断なく見つめていた。

グルードッグが、足を踏み出した。

何とそのまま、ポーラに向けて鋭いジャブを繰り出した。


「くっ!?」


ポーラは慌てて後ろに飛んで回避した。


グルードッグは更に軽快なステップを踏み、ポーラに詰め寄った。

左拳と右拳が、ほぼ同じタイミングで空中を走った。

咄嗟に、更に後ろに飛んだポーラの鼻先を掠めた。

実に鋭い、ワンツーだった。


「うっそぉ?!」


ポーラも修も驚いた。

まさか本当のジャブを使って来るとは予想もしていなかった。

そればかりか、やけに完成度の高いワンツーまで。

表情を更に引き締めたポーラが、油断なくグルードッグの隙を伺う。

先ほどのワンツーを躱せたのは偶然が大きかった。

決して油断はできない。

そう思い、じりじりと間合いを詰めて行くと。

グルードッグが四足に戻った。

そして飛びかかって来た。

ポーラの反撃を喰らい、グルードッグは犬の皮になった。


「やりました!」


ポーラが皮をもって走り寄って来た。

きらきらと瞳が輝いていた。


「お疲れ様。・・・・凄かったね」


ばふんばふんと振られる尻尾に苦笑しながら、修はポーラの頭を撫でた。


「はい。けれど何とか勝てました。あれを連打されると危なかったと思います」


ポーラは頭を撫でられ嬉しそうにはにかんだ。

しかし、顔とは裏腹に、放った言葉はアレだった。


「四層もちょっと見てみようか」


修がそういうと、ポーラの顔がキリッと戻った。


「はい!」

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