14話 え、強かったの?
三層も余裕になった。
修は元々余裕だったので、ポーラが、だが。
そろそろボス部屋に向かおうかと思った時。
突然それは現れた。
グルードッグではなかった。
二足歩行していた。
全身が青白く、体表がザラザラとしていることが見て取れる。
そして頭が、巨大な鮫の口だった。
それだけではない。
両手にも、手の代わりに鮫の顔がついて居た。
ポーラがそれを見て、顔を真っ蒼に変えて硬直した。
修は落ち着いて鑑定を行った。
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LV.15
シャークヘッズ
水魔法Lv.9
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三層だというのに、レベルが15もあった。
レベル的に見れば、15層が妥当なはずだろう。
確かにグルードッグとは比べ物にならないくらい強そうではあった。
それに水魔法まで使える。
「・・・シャークヘッズ?」
ポーラが震える声で呟いた。
その瞬間、シャークヘッズの一番大きな口から、特大な水の塊が飛んだ。
見た感じ、アクアシュートの様だった。
しかし、修の放つ物よりも随分と大きい。
そもそもどうやって口から出したのだ、と言いたくなる程の特大な水球が、恐ろしい勢いで吹っ飛んで来た。
「むっ」
修がその大きさに眉を歪めた。
自分の魔法が、こんな変な魔物の魔法以下であることに、自尊心を傷つけられたのだ。
「ご主人様、お逃げくださいっ!!」
ポーラは悲壮な声と顔で、修を庇う様に飛び込んで来た。
肉の壁になるつもりであることは良く分かった。
修は目の前に飛び込んで来たポーラの、頭にある両耳を押さえた。
「カッ!!!」
修は腹の底から気合を飛ばした。
目に見えはしないが、猛烈な気合が水球を迎え撃ち、破壊した。
アクアシュートが、水の塊になって地面に落ちた。
一瞬ポーラとシャークヘッズが止まった。
心底何が起きたのかわからないと言う顔だった。
シャークヘッズの、鮫の感情を宿さない瞳も、不思議そうな雰囲気を漂わせていた。
しかしシャークヘッズはすぐに我に返った。
二本の足で助走した後、地面を蹴って飛んだ。
あろうことか、空中に浮いた。
更には空中でバタ足を行い、とんでもない速度で空中を泳いで突撃して来た。
「ご、ごしゅーっ!!」
呆然としていたポーラが、それに気づいた。
しかし、グルードッグとは比べ物にならない速度の突撃に、満足な反応をすることは出来なかった。
せめて盾になろう。
そう決意するポーラの前に、するりと修が現れた。
ポーラにもシャークヘッズにも見えなかった。
しかし、慌てたような動きでもない。
ゆっくりとした動きなのに、一瞬で移動したようだった。
しかし、シャークヘッズは気にしない。
どちらも倒す気だったのだから。
シャークヘッズの頭にある、一番大きな口が開いた。
鋭い牙が無数に並ぶその口を大きく開けて修に向かって突撃する。
そう見せかけ、突如修の左側から鮫が襲ってきた。
シャークヘッズの、右手の鮫だった。
更に、下から修の腹に向かって鮫が突撃して来た。
残った左手の鮫を、掬い上げる様に突撃させたのだ。
三方向からの攻撃。
止めとばかりに、シャークヘッズの体は固い。
皮膚を擦るだけで、人間の皮など容易く持っていく。
しかし。
「セイッ!!」
その全ての動きを上回る速度の正拳が、シャークヘッズの頭部に突き刺さった。
金属の様に硬い鮫肌は、容易くひしゃげた。
シャークヘッズは、皮になった。
ポーラは、その大きな瞳が零れ落ちないか心配になるほどに目を見開いていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
修はそれに気づかぬまま、シャークヘッズのなれの果ての皮を拾った。
鑑定したら、『鮫肌』とあった。
鮫の皮では駄目なのだろうか。
修はふとそう思った。
しかし、三層にレベル15が現れるなど思いもよらなかった。
「今のってボス?」
ポーラに向かって質問をした。
ポーラは何かを悟ったような空虚な視線を修に向けていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ。・・・・迷宮には、稀にあるのですが、その、上層の魔物が現れることがあるそうです。滅多にないことですが、熟練の探索者の方々が命を落とされる原因の最大の理由なのです。なのですが・・・・」
ポーラは乾いた声でぽつぽつと説明した。
迷宮で最も恐れられる出来事の一つだった。
そもそも、迷宮は儲かる。
順当に、少しずつ鍛えて上に登れればいい。
しかし、今回の様に突然高レベルの魔物が出現することがある。
『はぐれ』と呼ばれる現象だ。
詳しくは不明だが、同じ探索者があまりに長い期間、同じ層に留まって居ると発生するらしい。
丸一日潜った結果、現れた例もある。
毎日潜り続け、10日ほどで現れた例もある。
その為、探索者は半日以上は潜らない。
五日に一度は、休むか違う階層に行く。
しかし今回は、恐らく誰かが長い時間ここに留まり、発生させてしまったのだろう。
滅多に起きることではないが、起きたが最後、その階層に居る探索者のほとんどが殺されてしまう。
遭遇した時は、奴隷を足止めに主人が逃げ切ることも日常茶飯事だ。
その為に探索者は奴隷を雇うのだが。
「まあ大丈夫だね」
修は何でもないことの様に呟いた。
「・・・・・そうですね。ええ」
ポーラは乾いた瞳で、カクカクと頭を動かした。
それからしばらく戦った。
グルードッグしか現れなかった。
リュックが一杯になったところで、ギルドに向かった。
ギルドは罵声が飛び交っていた。
様々な人があわただしく動き回り、職員と強そうな探索者が数人話し込んでいた。
それを不思議そうに眺めながら、修は清算をお願いした。
急いだ様子で清算を済ませようとしていた受付が、目を丸くした。
「犬の皮・・・!ご無事でしたか!?」
受付は、見るからにホッとした顔で胸を撫で下ろしていた。
「・・・はい?」
修は首を傾げながら頷いた。
受付は厳しそうな顔で言った。
「それは良かった。今三層では・・・・・鮫肌?!」
言っている途中で、鮫肌を見つけて愕然として立ち上がった。
ガタッ、と大きな音が鳴り、喧騒が一瞬止んだ。
「シャークヘッズとか言うのが落としました」
修が言うと、受付は信じられぬものを見た、と言う目で、修を見て来た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ぽかんと口を開けたまま、じーっと修を見つめて来る。
あわただしそうにしていた職員や探索者たちが驚愕に顔を染めてこちらを見ていた。
「シャークヘッズ・・・?」「は?」「おい、どういうことだ?!」
受付が、辛うじて呟いた。
「・・・・よくご無事で・・・」
「まあ何とかなりました」
視線を集めた修は、照れ臭そうに笑った。
ポーラは、自分の驚きは間違いではない、と確認できて、うんうんと一人で頷いていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・ソウデスカ」
受付が渇いた声で呟いた。
力無く椅子に座り込み、じーっと鮫肌を見つめている。
動く様子をみせない受付に、修が控えめに口を開いた。
「・・・あの、清算を・・・」
受付は、カタカタと機械的に腕を動かして清算を済ませた。
それとは別に、違う職員が袋を持って走って来て、受付に渡した。
「・・・・・・ハイ、コチラデス。・・・・・・・・おほん。『はぐれ』を倒して頂いたそうなので、こちらはその分の報酬です」
「あっ、ありがとうございます」
修は嬉しそうに受け取った。
ほくほく顔でギルドから出て行く修と、その後ろに着いて行くポーラを、ギルド内に居た人達が呆然と見つめていた。
この日もカマンが居た。
誘われるままに昼食をごちそうになり、迷宮での話をした。
「『はぐれ』を?!」
カマンは、ソーセージもどきをころりと落として驚愕した。
「はい」
修が食事をつめこみながら頷いた。
カマンは、しばらく修を見つめていたが、そっと視線を動かして、後ろのポーラを見た。
ポーラは頷いた。
「・・・・・・・流石はシュウさんですね。いや、実に素晴らしい」
カマンは呆れた様な、感心した様な口調で言った。
後ろに控えているメイドさんズは、すました顔のままでドン引きしていた。
帰って調べてみたら、レベルが上がっていた。
シャークヘッズ効果だろう。
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LV.9
ポーラ
獣人:♀
17
剣士LV.7
『探索者』
『奴隷』
『○○○』
主
カンザキ シュウ
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LV.13
カンザキ シュウ
人間:♂
18
拳士LV.■■
経験値獲得アップLV.3
攻撃魔法LV.3
回復魔法LV.3
鑑定
状態異常無効
称号変更
『探索者』
『拳を極めし者』
『神を殴りし者』
『ご主人様』
所有物
ポーラ
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迷宮に適正レベルがあるかは分からないが、もう少し上に行けるのではないかと思った。
優しい感想有難うございます。
ぽんぽんは八割がた回復しました。