133話 そんな馬鹿な話があるか
修が無双した。
以前とは違い、小さな手で連続で上がるのではない。
ただ只管に老人を狙った、どえらいえげつない手ばかりだった。
容姿も進化し、最早顎で人が殺せそうだ。
その余りの鬼畜っぷりに、余裕の顔だった老人も、どんどん蒼白になっていった。
あがれる手を持ちながらもあえてあがることなく、
「あなたを殺せないのだからしかたがない……!」
と言い放つほどだ。
老人も
「悪魔めっ…!わしなどまっとう……!このガキこそ悪魔だっ……!」
等と、二人の世界を構築し始めた挙句、修は老人に止めを刺した。
実にあっさりだった。
しかし親方やゴンザレスさんには、何故か10年以上続けているように感じたという。
全てが終わった頃、老人は真っ白に燃え尽きていた。
「死ねば助かるのに…」
修はそう言って、立ち去った。
※お金、ましてや血液など賭けておりません。クリーンな麻雀です。
39層に来た。
とてものどかな風景が広がり、小川が流れている。
少し探索してみたが、何故か魔物が居なかった。
地面の下に変態でも潜んでいるのかと探してみたが、そんなこともない。
修とポーラは見つめ合い、首を傾げた。
そんな時。
「ん?」
修が小川を見た。
ポーラもつられて修の視線を追った。
そこには桃があった。
大きな大きな桃が。
「…」
「…」
二人の視線を一身に受ける桃は、大きかった。
そのまま、どんぶらこどんぶらこと流れて行き、修達の視界から消えた。
修とポーラは再び視線を絡ませた。
修の「あれ?」と言う視線を受けたポーラは、自信の無さそうな顔で頷いた。
少し歩くと、また桃が流れて来た。
修は鑑定をしてみた。
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LV.39
ゴブリンピーチ
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魔物だ。
間違いなく、あの中に魔物が入っている。
あの神は、最早なんでも取り入れているのだろうか。
しかし、ただ流れるだけの桃にいちゃもんをつけるのはどうだろうか、と修が難しい顔で悩んでいると、突如桃が開いた。
「オギャーッ!!」
奇声と共に、桃色のゴブリンっぽいのが飛んで来た。
生まれたばかりだと言うのに、包丁っぽい何かを持っている。
その包丁は、本来はおじいさんが持っている物ではないのかな?
「セイッ!!」
空中高く飛び上がり、修に向かって襲い掛かって来たゴブリンピーチが破裂した。
要らぬ気づかいだった。
そして落としたアイテムを見て、修が唸った。
「でかっ…」
『ビッグピーチ』。
桃だった。
流石にゴブリンピーチが入っていた桃よりは小さいが、それでもでかい。
でかすぎる。
ポーラの頭くらいはあるだろう。
リュックに辛うじて一つは入ったが、二つ目は無理だろうと確信するサイズだ。
「…これは大きいね…」
遭遇率は高くないだろうが、6個で限界だ。
いっそ放置して帰るべきかと修は悩み始める。
「そうですね。食べてしまいましょうか」
ポーラさんの提案を採用して食べたが、とってもジューシーで美味しかった。
ビバ!現地調達!
そこからも、時々どんぶらこどんぶらこ、とモモが流れて来たが、数回スルーすると、
「オギャーッ!!」
と、勝手に飛び出してきたので、ポーラが普通に処理していた。
苦戦する様子は無い。
そう思っていたのだが。
「…あれ?」
交戦中でも何でもない、普通に歩いていた時に、突然ポーラがふらりと体を傾けた。
「ポーラ!大丈夫?!」
あの桃に毒でも仕込まれていたのだろうか。
しかし、カファは平気な顔だ。
「……はい。すいません、なぜか少々気分が」
何故かポーラは顔色が悪くなっている。
「一度帰って、お医者さんに診てもらおう」
恐縮するポーラを抱えて、修は迷宮を出た。
カファに家に戻っているように伝えると、修はポーラを病院に運び込んだ。
そして、修の目ん玉が飛び出した。
医者の言葉を聞いて、だ。
「おめでたです」
コイツは一体何を言っているんだ???
修とポーラは、理解不能な物を見る目で医者を見た。
そんな目で見られた医者は、気圧されながらも繰り返した。
「いえ、赤子が、おりますが…?」
「「えええええええええええええええ?!」」
修とポーラの叫びがシンクロした。
異種族での子供は、出来ないはずなのだ。
つまり、ポーラが子供を作るには、同種族と致す必要がある。
が、ポーラにはそんな記憶は毛頭ない。
「違います違います!!私はシュウ様としかシていません!!他の男の汚らしい物なの食いちぎってやります!!」
ポーラは一息でまくしたてた。
その際に見えた犬歯が輝いて恐ろしい。
医者は思わず腰を引いてしまった。
修も頭を真っ白にし、口をパクパクと動かしていた。
すると、脳裏にエレガントなゴッドなボイスが響いて来た。
(本当ですよ。シュウさんの子供ですよ)
(ちょっ!!出来ないって言ってたじゃん!!)
修は慌てて神に噛みついた。
そう聞いていたから、避妊とか一切気にせずやらかしていたというのに。
(ええ、普通は出来ませんよ。修さん、あなたの体どうなってるんですか?)
しかし神にも想定外だったようだ。
心底不思議そうに聞き返された。
()
修はぐうの音も出なくなった。
反応を示さない修に、誤解されていると勘違いしたポーラが、必死にキャンキャンと喚いていた。
修は一度、実に深く深く深呼吸をした。
「…………ポーラ」
それが、断罪の刃の様に感じたポーラは、なお一層金切り声をあげた。
「シュウ様!!私はー「結婚しよう」」
それを、修をが遮った。
「……………………………………」
ポーラの口がピタリと閉じた。
瞳の奥が、ぐるぐるとまわっているのが見て取れた。
修の言葉の意味を、脳が上手く理解していないのだ。
「……………………………………」
その為、修は待った。
只管待った。
すると、ポーラが頬を真っ赤に染め、瞳からポロポロと涙を流し、耳と尻尾をきゅーん、と項垂れた。
「…………はいぃ……」
嬉しそうに、幸せそうに頷いた。
そして嬉し恥ずかし、超桃色空間を作り出した二人に、医者が勇敢に立ち向かった。
「あー、他にも患者居るから、さっさと出てってくれんかね?」
修とポーラはその足で、専門の医者に行った。
そして滅茶苦茶怒られた。
ポーラは妊娠していても、見た目には出ない体質だったらしく、もうかなり大きくなっているそうだ。
そこから話は、トントン拍子に進んだ。
迷宮も当然ストップし、結婚準備に出産準備に大忙しだ。
そして、式を挙げ、すぐに元気な男の子が生まれた。
どう見ても、修の子供だった。
ポーラの特徴は、特徴的な鋭い犬歯しかなかったほどだ。
目の色も髪の色も、修と瓜二つ。
修の遺伝子強すぎである。
(修さんは、いつも私を驚かせてくれますね……)
神の声が聞こえた気がしたが、修は黙殺して子供のおむつを交換した。
子育て、忙しすぎである。
そんな訳で最終回です。
こんなのですいません。