132話 再び舞い降りた
修は爽やかな目覚めを迎えた。
夢の中とはいえ、久々に全力のパンチを使ったのだ。
やはり全力を出すのは良いことだ。
引き続き38層の探索に向かう。
ポーラも頑張ってはいるのだが、やはり弾を避けるのは無理っぽい。
修の助言通り、基本は遠距離から攻撃をすることにしていた。
しかし、ただ攻撃するだけではなく、豆を燃やす様に意識している様だ。
撃ってくるのは所詮豆。
燃やせばあっという間に燃え尽きるのだ。
どうやって豆にあの威力を持たせているかは分からないが、そういうものだと理解するしかない。
38層で数日を費やし、ようやくボスを発見した。
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LV.38
ボス・ボイルド
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普通の元の、見た目に大きく変わりは無い。
しかし、腰に二丁のリボルバーが吊るされていた。
両方使ってきそうだ。
と言うか使ってきた。
しかし、攻撃頻度が倍になってもカファが全て防ぐし、ポーラがじわじわと斬線を飛ばしていくことで、特に山場もなく戦いを終わらせることが出来た。
そして迷宮を出て街を歩いていたが、最近何だかにぎやかな気がする。
お祭り前のムードと言いたいところだが、それにしては緊張感もある。
「何かあるのかな?」
修は久々のポーラ先生の出番を期待した。
「え?あ、はい。そろそろ『狩り』なので」
ポーラは初めは不思議そうだったが、すぐに説明してくれた。
無知ですいません。
「…『狩り』?」
『狩り』と言う言葉自体は分かるが、一体全体それがどういう狩りなのかが分からない。
キツネ狩りとか、そっち系だろうか。
「はい。魔物が沢山出てきます」
ポーラが何でもないことの様に言った。
「え?それは不味くない?」
修はびっくりだ。
魔物が沢山って。
普通に街が攻め滅ぼされそうな気がする。
修が不安げに聞いたが、ポーラは明るい顔のままだった。
「大丈夫です。迷宮の魔物と違って、弱いのばかりですから。温泉へ行くときに出会ったような奴らばかりですよ」
そう言われると何とかなる気がする。
レベル1の群れなら、確かにポーラ一人でもある程度の数は捌けるのだし、強い人が数人いればある程度の数はどうにかなるだろう。
「そうなんだ…。どれくらいくるの?」
気になる数も聞いてみた。
ポーラは少し上を向いて考えた。
「毎回違いますが、前回は千匹くらいだったはずです」
千匹。
修ならまず余裕。
ポーラもコボルト相手なら、一人で百は行けるだろう。
割と余裕で。
数が多くても、一度に戦う数は知れているのだ。
スタミナが持つ限りは虐殺し続けることが出来る。
むしろ経験値的には美味しいかも。
修は「ふーん」と呟いた後、一番気になることを聞いた。
「なんで来るんだろうね」
散発で襲って来ることなら、ままある。
が、一気にまとまってくると言うのはどういうことなのだろうか。
迷宮から溢れたわけでもないのに。
「私には分かりませんが…。ただ、この時期に突然群れを成して襲って来ることくらいしか」
ポーラ先生も分からない様だ。
ならば、考えるだけ無駄だろう。
「ふーん」
修はあっさりと思考を放棄した。
「おかげで、素材が沢山手に入ります。皆さん、それの準備で忙しいのかと」
ポーラは忙しく動き回る商人達を見ながら言った。
「なるほどねぇ」
修は頷いた。
千匹の素材が一気に市場に流れると考えると、物価がどえらいことになりそうだ。
その辺は、商人達が上手く調整するのかもしれないが。
とりあえず、『狩り』が始まるまでは迷宮は控えめにすることにした。
正確には、牛肉と酒を取るだけにしたのだ。
訓練もしていたが、あまりやり過ぎると体力を使いすぎる。
ほどほどにしておいた。
そうすると、空いた時間がだいぶ出来た。
カファは言わずもがな引きこもっていた。
ポーラはカマンの屋敷に出向き、メイドさんズの手伝いをしつつ、厨房で料理を習っていた。
修は何を作っても「うまいうまい」と貪って行くので作り過ぎてしまう。
そしてどんどんストックが失われていくのだ。
首から指輪を下げ、料理を手伝い続けていた。
ちなみにポーラ一人で歩くと、良くナンパに会う。
指輪を見せてにっこり笑うと、すごすご引き下がって行くのでとても楽だ。
「申し訳ありませんが、私にはもうお相手がおりますので」
顔と声は申し訳なさそうだが、こう言えるのが正直嬉しいポーラさんである。
修は疲労など問題ないので、平気で親方達のお手伝いだ。
しかも獅子殺しを取って来るので、良く飲み会も開かれる。
ある日の夜。
修が親方に、差し入れを持って行った。
張り切ったポーラさんが作りすぎたので、御裾わけだ。
全部食べようかとも悩んだが、美味しかったので。
そして勝手知ったる何とやらで、事務所に入った。
「こんばんーッ?!」
修は息をのんだ。
親方とゴンザレスさんが居た。
それとは別に、見知らぬ人が二人。
4人で麻雀をしていた。
しかし、様子がおかしい。
何故か机に穴が空いており、更には殆どが透明な牌だ。
右手には手袋まで。
親方とゴンザレスがとても疲れている。
対照的に、見知らぬ二人、特に老人の方が凄くテンションが高かった。
「ロンッ……!ロンッ……!ロンッ……!ロンッロンッ……!ロンッ……!ロンッ……! ロォンっ……!」
何か連呼していた。
がくり、と親方の肩が落ちた。
直撃されたのだろう。
修は難しい目で、卓を眺めた。
そして項垂れた親方の背を叩いた。
「……おお?ボウズか…」
親方の目に、生気が無い。
修は力強く親方に頷いた。
「俺に任せて下さい」
「いや、しかし…」
親方は悩んだ。
この悪魔の様な男に勝てるものなど。
いやしかし。
修ならばあるいは…。
「クククッ!構わんぞ…!」
悩む親方を差し置いて、老人が余裕の笑みを浮かべていた。
次の瞬間、修の顎と鼻が伸びた。
そして親方の代わりにどっかと座り、呟いた。
「行こう……!もう一度死線をくぐりに…!」
始まってしまった。
※金や血液を賭けていないクリーンな麻雀です