131話 キャトられる
探索はゆっくり進めた。
倒すのも今まで以上に時間がかかることもあるが、ポーラも何とか豆を避けようと頑張っていたのだ。
まだまだ無理そうだが、挑戦する心を無下にする様な修でもない。
ポーラさんが痣だらけになるのは、修が阻止しなければならないし。
乙女の柔肌は守らねばならないのだ。
ポーラが頑張り修が癒す。
暫くはそういう生活が続きそうだ。
そして夜。
修がいい汗をかき、ポーラが汗以外にもいろいろ流した。
虚空を見据えつつ、涎が溢れているポーラの口を拭ってやり、抱きしめてあげると、ポーラは段々と落ち着いた息を立て始めた。
失神から睡眠に。
朝までは意識を取り戻すまい。
修もポーラを抱き枕にして、目を閉じた。
修は夢を見ていた。
16歳のある日の出来事だ。
修は世界各国を駆け巡り、ミステリーハンター的なことをしていた。
何故か良く世話になっていた、「HAHAHA!!」と笑う金髪のおっさんとまたしても出会い、おっさんの家に招待された。
そこは大きな牧場で、搾りたての牛乳や肉をたらふく食べさせてくれた。
ちなみに言葉は通じないが、ジェスチャーでどうとでもなる。
修とおっさんの絆は、それほどの物になっていたのだ。
修は数日、お世話になった。
実に牧歌的な雰囲気が、修の心を癒してくれたのだ。
実は金髪のおっさんは困っていた。
最近、飼っている牛が死体になって発見されることがあるのだ。
それも病気などではなく、不思議な死体なのだ。
目や性器などが切り取られたり、やけに鋭利な切断面であったり、血液がすべて抜き取られていたり。
実に摩訶不思議な死体ばかりが残されているのだ。
お世話になった修は、おっさんの為に事件を解決しようと考えた。
おっさんは修の手を握りしめ、とても感謝してくれた。
くどいようだが、ここまで全て会話ではない。
全てジェスチャーだ。
魂で会話してるんじゃないかこいつら、と言う状態だ。
そして夜。
修は完全に気配を殺して待っていた。
牛や虫も気付かぬほどの隠れっぷりだ。
そうして数時間が経過した。
何もないのかと思い始めた時、突如ふぃんふぃんふぃんと不思議な音が鳴り始めた。
「…?」
修は音の元を探した。
音は上から鳴っていた。
修が上を見ると、なんか円盤が飛んでいた。
「……」
修がぽかんとした顔で、それを見上げた。
修が見ているうちに、円盤が近づいて来る。
そしてその円盤が牛の真上に来た時、円盤から光の柱が落ちた。
それが牛まで届いたとき、牛が突然浮き始めた。
ダイナミック・牛泥棒!
「む…」
おっさんを悩ませる犯人とは違うかもしれないが、泥棒行為を見過ごすことは出来ない。
修が立ち上がり、気配を発し始めた。
すると、円盤は牛を降ろした。
円盤は光を発したまま、修を追い始めた。
それが修の体を照らした時。
「むぉ!?」
修の体も浮き始めた。
修は一瞬悩んだが、泥棒を逃すわけにはいかない。
浮くのなら、その勢いのまま攻撃を仕掛けてやることを決めた。
「はぁっ!!」
修はアッパーカットの体勢のまま、地を蹴った。
円盤の高度にも楽々と届くが、引き寄せられている分、楽だった。
修の拳が、円盤にめり込んだ。
「固い!?」
貫通するつもりだったが、めり込んだだけだった。
しかし、円盤が大きく揺れ、光が消えた。
修はスチャッ!と地面に着地して、円盤を睨み付けた。
ならばとばかりに、修は呼吸を整えた。
こほぉぉぉぉ、と凄い気炎が吐かれるたびに、修からプレッシャーが発せられる。
その修に、円盤は脅威を感じたのだろうか。
円盤からぴゅいーん、とレーザー発せられ、修に襲い掛かった。
「ッ!」
修は掌を回し、あろうことかレーザーを受け流した。
それはそれは見事な、マ・ワ・シ・ウ・ケだった。
矢でも火炎放射器でも持ってこい!と言わんばかりだ。
円盤もびっくりだ。
一瞬レーザーが止まったかと思うと、狂ったような勢いでレーザーを乱射して来た。
「ズゥェイッ!!」
それに対して、修は気合一閃。
猛烈な蹴りを、地上から放った。
衝撃波っぽい何かがレーザーを蹴散らし、円盤に襲い掛かった。
それが着弾する瞬間、円盤の周りに半透明な壁が発生し、修の衝撃波を防いだ。
どうみてもバリアーだ。
「にゃろう…」
攻撃を防がれた修は歯噛みした。
まさか防がれるとは。
その時、金髪のおっさんが飛び出してきた。
ナイトキャップを被った、寝起きスタイルだ。
おっさんは円盤を見上げて、叫んだ。
「OH!? U.F.O?!」
円盤の注意がおっさんに向いた。
気がした。
最早手加減は無用だ。
修は跳んだ。
「セェェェイッ!!」
円盤は慌てたようにバリアーを張った。
修の左の拳がバリアーに直撃した。
ピシリ、とバリアーにひびが走った。
「セェイヤァァアア!!」
修は続けて、右手の拳をバリアーに叩き込んだ。
バリィン!と音は鳴らなかったが、砕け散った。
修の拳の勢いは止まらず、何かヤバい物を纏いながら円盤に激突した。
円盤は粉々に砕け散った。
そして着地した修は空を見上げる。
やはり円盤は、跡形も無く消え去っていた。
欠片一つ残していない。
本気のパンチを叩き込んだので、当然かもしれないが。
「ふぅぅぅ…」
泥棒は退治した。
「Miracle boy!!You are the man!!」
おっさんが抱き付いて来た。
元々の犯人を見つけることが出来なくて、修は申し訳なさでいっぱいだ。
明日も張り込まねば。
そう思っていたが、もう張り込みはしなくても良いそうだ。
あの円盤が犯人だったのかもしれない。
後に知ったが、あの円盤はUFOだったのかもしれない。
サインもらっておけばよかったー!!
「…なるほど」
そしてそれを、草葉の陰から神が見ていた。
ここは修の夢の中なので、こんなことも可能なのだ。
神はまた要らない知識を導入してしまった!
しかし、あのおっさんは以前も見た気がするが何者なのだろう、と神は思った。
そしてこそこそと夢から離脱しようとした。
突然、修の顔がぐるりと動き、神の隠れている草葉の陰を捕えた。
「はっ!?」
その瞬間、景色が歪んで何時もの不思議空間になった。
そして修が神に歩み寄っていく。