130話 遠距離
抜けてた!
ポーラも段々鍛えられてきたようで、多少激しい夜を過ごした翌日でも、元気だった。
この調子で進化してほしいものである。
38層に来た。
荒野だった。
何処からともなく風が吹き、オカヒジキ属っぽい植物が風に乗って、地面をコロコロ転がっている。
絶対それっぽい魔物が出て来る。
修は確信した。
そして魔物に出会った。
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LV.38
ボイルド
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何処からどう見てもハードボイルドな感じだ。
葉巻をくわえ、頭にはハット帽。
腰にベルトが巻かれ、リボルバーが吊られている。
鳩だが。
どう見ても鳩だ。
平和の象徴が、ハードボイルドな感じで立っている。
「……」
修が見つめていると、ボイルドがこちらに気付いた。
気づいてまずしたことは、駆け寄って来ることでも、羽をはためかせることでもなかった。
羽の先で、くいっとハットをあげてこちらを見て来た。
感情の読めぬ目でこちらを見ると、次に羽の先で葉巻を掴んだ。
どうやってるかは聞かないでほしい。
説明などできないのだ。
嘴から、ふぅー、と煙を吐いてから、こちらに向き直った。
そして抜き打ちの構え。
「ファイアーバースト」
修が火球をぶん投げた。
その瞬間、ボイルドの右の羽が霞んだ。
一瞬の早業で腰の銃っぽい何かを抜き、パンパンと弾を撃って来た。
火球に呑みこまれて、弾は全て燃え尽きた。
そして火球はそのままボイルドに着弾し、燃え盛った。
落としたのは『鳩肉』だった。
もう突っ込みは必要ないだろう。
二匹目に出会った。
「俺が行くよ」
何を撃って来るか気になって仕方ない修は、接近することを選んだ。
「はい」
ポーラは頷き、何をしてくるのかをじっと観察し始めた。
修が近づいて行っても、ボイルドは撃ってこなかった。
微動だにせずこちらを見続けている。
目を見ても、感情が全く読めない。
後五歩、というところまで近づいた時、ボイルドは動いた。
早業で腰の銃を抜き、パンパンと撃って来た。
「ほい」
修は平気な顔で、弾をキャッチした。
撃たれた経験は山ほどあるのでは分かるが、実弾よりも遅い。
そして手の中の物を見た。
「……豆?」
豆だった。
一口で食べれるような可愛らしい豆が。
こんなもん当たっても痛いくらいではないのか?
そう考えた修は、更に撃って来る弾をあえて受けてみた。
「むむ?」
衝撃を受ける。
豆なのに、結構威力がある。
これは素の体で受けたら、貫通するまではいかなくとも皮膚は貫くだろう。
豆とは思えぬ。
しかも当たった豆は砕け散った。
「セイッ!」
取りあえず、細首に逆水平チョップを叩き込んで倒しておいた。
「出来るだけ直線状には立たない方が良いでしょうね」
ポーラも見ていたが、辛うじて銃を抜くのを見れたくらいだ。
少なくとも弾は見えないので、修みたいにはキャッチは出来ない。
鎧越しでも直撃すれば、体勢は崩すことになるだろう。
「そうだね」
修も同意見だ。
「頼みますよ、カファ」
ポーラは動く肉壁、カファに前衛を託すことにした。
前回危ういところを救出してくれたことで、ポーラの中でカファの株は大いに上がっていた。
「……はぁ」
やる気ない返事だが、いつものことだ。
三匹目からは相談通りだ。
「行きますよ」
ポーラがカファに声をかけると、カファはちゃんと前に出て、ずんずんと歩き始めた。
ポーラはカファの影に隠れ、後ろに着いて行く。
やはりあと五歩、と言ったところでボイルドは銃を抜いた。
パンパンと撃ってきたが、火花が散っていないので火薬は使っていないはずだ。
一体どういう原理で。
カン!カン!と言い音を立てて、カファの盾が豆を弾き返した。
ボイルドは連射するが、あっさりと全て防ぎ切った。
リボルバーの装填数は六発。
発射音が六回なったところで、ポーラが飛び出した。
見ると、やはり弾が切れており、装填の動きを行っていた。
しかし回転式では装填に時間がかかる。
その隙を逃すポーラさんではない。
が、ボイルドが取り出したものを見て修は仰天した。
「ムーンクリップ?!」
スピードローダーを取り出し、迅速に装填した。
「?!」
ポーラの目の前で装填が完了した。
そして見事な早業で、ポーラに精進を合わせた。
パンパンパンパン!
「わっ!あっ!くっ!のっ!」
何とポーラは、必死の顔で弾を避けた。
やはり弾は見えないが、完全な第六感だ。
しかし四発が限界だった。
次は避けられない。
それを理解したポーラは、メテオドラゴンの剣をボイルドに向けてぶん投げた。
同時に、パン!と弾が撃たれる。
「ぐっ!」
ポーラの胴体に豆が激突し、ポーラが苦悶の顔を浮かべて衝撃に押される。
しかしぶん投げたメテオドラゴンの剣も、ボイルドに激突して、最後の一発は防いだ。
ポーラは体勢を崩しながらも、転がり込む様にカファの背後に隠れた。
カファもポーラの前身に合わせて前に出て来たので、すぐに隠れることが出来た。
ボイルドは残弾一発となったリボルバーを開き、迅速に装填し直そうとする。
そこに、カファが盾を振りかぶって、叩き付けた。
ゴイーン!と良い音が鳴った。
巨大な盾で頭部を殴打されたボイルドは、ぐらりと傾いた。
ハットも歪に凹んでいる。
そしてその隙を逃すポーラではない。
「っ!」
顔を歪めながらも飛び出し、ゴッドソード・改を叩き付ける。
ボイルドは一刀両断された。
流石の攻撃力だ。
「…助かりましたよ、カファ」
ポーラは深く息を吐きながら、まずメテオドラゴンの剣を回収した。
ここ数日、ポーラの中でカファの株が大いに上がっている。
「治療するよ」
修がポーラの元に歩み寄った。
「はい。お願いします」
ポーラは痛そうに腹を押さえていた。
鎧を緩めて、中に手を入れてから直接治療してあげた。
探索を続ける前に、反省会を開いた。
「…あれを避けるのは、難しいですね」
装填にあそこまで時間がかからないとは考えなかった。
もっと近づいてから出るべきかもしれないが、離れられたらどうしようもない。
「遠くから攻撃しようか」
修は接近戦を止めて、遠くからちくちく攻撃することを提案した。
チクチクとは言いながらも、メテオドラゴンの剣なら威力は十分だ。
「多少時間かかりますが…」
それでも、実際に叩き切るのとは速度が違う。
「安全第一だよ」
しかし修は戦いにはシビアだ。
避けられない物を喰らうよりも、時間をかけて進めた方が良い。
「はい。そうさせて頂きます」
ポーラも大人しく従うことにした。