128話 ラッパ
新しい宿も完成したし、ポーラとカファが追いついたことで、先に進むことになった。
温泉でのイチャコラは省く。
どうせポーラのスポンジが猛威を振るっただけなのだ。
37層は、草原だった。
レゴタウロスが居た草原よりも草が長く、そこかしこに木まで生えている。
日光は必要ないのだろうか。
少し歩くと、おかしなものを見つけた。
木の横、上手く草原に紛れているが、何かが伏せっている。
「……」
修がポーラを見ると、ポーラもこくりと頷いた。
敵だ。
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LV.37
トラッパー
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修は取りあえず、鑑定してみた。
が、名前からはどんな魔物か想像もできない。
良く目を凝らしてみても、何かが居ると言うことしかわからない。
大きさはかなりのものだろう。
草原に紛れすぎだ。
と言うかギリースーツではないのだろうか。
修は近づいてみた。
「お?」
そこで気づいた。
木の前に、看板がある。
修は更に近づいた。
『押すな』
看板にはそう書いていあった。
そして看板の麓に、赤いスイッチが。
「……」
修はジェスチャーで、ポーラとカファに離れているように指示を出した。
二人は大人しく従って、離れる。
ある程度離れたことを確認した後、修は躊躇いなく、スイッチを押した。
ポチっとな。
「のぉ!?」
その瞬間、修の足元が開いた。
地下に真っ逆さまだ。
そして修が視界から消えた瞬間、ポーラは見た。
伏せっていた魔物が機敏に立ち上がった。
虎だった。
ギリースーツを着た虎だった。
しかも片手に、小さなラッパを持っている。
トラッパーはラッパを咥えた。
『ぷぴー』と者悲しい音が鳴ると同時に、木の上から、修の落ちた穴に向かって岩石が墜落した。
どうやって木の上に仕込んだのか不思議なほどの大きさだった。
「シュウ様!」
ポーラの叫びが響くと同時に、
「セイッ!」
と言う声が響いた。
巨大な岩石が、バラバラになって吹っ飛んだ。
次いで、穴の端に修の手が引っかかった。
「…やれやれ」
修が平気な顔で穴から出て来た。
するとトラッパーは、再びラッパを鳴らした。
『ぷぴゅるー』
次の瞬間、どでかい丸太が修に向かって突っ込んで来た。
それも修の背後から。
丸太が、修の脳天に直撃した。
「あっ!!」
ポーラが思わず叫んだが、修は微動だにしなかった。
丸太にピシリと亀裂が走ったかと思うと、真っ二つに裂けた。
どうなっているんだ。
『ぷっぴぷー』
トラッパーは、三度ラッパを鳴らした。
すると穴の底から、無数の竹槍が飛んで来た。
どういう仕掛けだ。
修の足から幾本もの竹槍が激突したが、一つも突き刺さることなく、弾き飛ばされた。
鎧がしっかりしているし、そもそも素で喰らっても余裕だ。
『ぷーぴー!』
更に、トラッパーがラッパを鳴らした。
すると今度は、修の足元に縄が現れ、修の両足を拘束した。
そして、修の体を天井に向かって勢いよく放り投げた。
「おおおおおお」
吹っ飛ぶ修は、平気な顔だった。
どうやったかは分からないが、空中で体勢を整え、足から天井に着地した。
力を込めた様子も無いのに、足を縛っていた縄が千切れていた。
「……」
そして逆さまに直立し、『次は?』と言う目をしてトラッパーを見下ろした。
トラッパーはしばらく停止した。
打ち止めだった。
『ぷぴゅぅ…』
一応音を鳴らしたが、何も飛んでこなかった。
「アースバースト」
修が土の塊を撃った。
トラッパーに激突した瞬間破裂し、弾き飛ばした。
ドロップは『虎の皮』だった。
実に普通だ。
鬼のパンツでも作ろうか。
天井から飛び、シュタッ!と着地した修は平気な顔をしていた。
「ちょっとトリッキーだねぇ」
お前ほどじゃないよ。
ポーラはそんなこと言いませんけどね。
「はい」
大人しく頷いた。
あの縄には注意しなければ。
ポーラなら叩き切ればいいが、カファならそのまま打ち上げられかねない。
「足元には注意するように」
カファにしっかりと注意をしておいた。
「……はぁ」
カファの返事からはやる気を感じれないが、痛いのは嫌いなので分かっているだろう。
それにしても、初めのスイッチを押さないとどうなるのか。
それがとても気になるが、ポーラが証明しくれる。
トラッパーはまず、気づかれていることに気付かない。
「はっ!!」
接近されて、ポーラのどえらい一撃喰らっていた。
ギリーースーツが燃えると、中から普通の虎柄が出て来た。
それだけでも十分迷彩効果はあると思うのだが。
慌てて起き上がったトラッパーは、
『ぷぴゅー!』
と大きな音を鳴らした。
すると、ポーラの後ろから丸太が飛んで来た。
音は関係ないのか。
しかし勢いがあるとは言え、ただの丸太。
「……」
カファがあっさりと防いだ。
ポーラは続けて攻撃し続けると、トラッパーは必死によけながらラッパを鳴らした。
『ぷ、ぷぽんっ!』
面白い音が出た。
と言うか爪とか使えよ。
そう突っ込みたくなる。
トラッパーはポーラの攻撃を、転がる様に避ける。
そして追撃しようと踏み出したポーラが目を見開いた。
「!?」
足元に細い紐があった。
ワイヤートラップだ。
トラッパーがニヤリと笑うと、ポーラの顔をめがけて一本の矢が飛んで来た。
「っ!」
ポーラは見事な反射神経で、それを叩き落した。
そして、固まったトラッパーに向けて追撃を仕掛けた。
トラッパーはその爪も牙も使うことなく、息絶えた。
ここでは、向こうからは攻撃してこない為、カファはあまり動く必要は無さそうだ。