11話 宝箱と喜ぶ奴隷
何だかいきなり多数の方が訪問されるようになりました。
有難いことでございます。
頭をからっぽにして、ネタとしてお楽しみくださいませ。
二層を歩き回っていると、よくポピーと遭遇した。
明らかに一層よりも数が多い気がする。
修は魔法を使おうかとも考えたが、あまり使いすぎると使えなくなってしまうことも知った。
いざという時に回復魔法が使えなければ不味いだろう。
恐らくMP的な物があるのだろうと考えると、それを伸ばすにはレベルだろう。
迷宮を歩いていると都合よく、ポピーがひょこひょこと現れる。
片っ端から戦うことにした。
ポーラが張り切って戦っていた。
面白いことに、急にポーラの動きが良くなるタイミングがある。
「なんだか体が軽いです。恐らくレベルがあがったのだと思います」
言われてみると、確かにレベルが上がっている。
それだけでもない。
剣の振り方も、突然鋭くなったりもする。
ポーラは首を傾げていたが、修は鑑定を使ってみて納得した。
剣士のレベルが上がっていたのだ。
普通の人はスキルレベルの方は見れないと神が言っていたので、ポーラもスキルレベルを知らないのだろう。
「・・・剣が軽くなった気がします」
不思議そうにつぶやいていた。
数日の探索で、2層のボスを発見した。
「ボスも、ポピーの大きい奴?」
「はい」
中にはやはり、大きなポピーが居た。
体の大きさの割に短すぎる手足をちょこちょこ動かして、しかし猛烈な勢いで駆けて来る。
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LV.2
ボス・ポピー
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名前もそのままだった。
「俺がやってみるよ」
修が進み出た。
「はい」
ゆっくり歩いているように見えるが、修が猛烈な速度でポピーに向かって進んでいく。
ポピーが、飛んだ。
初撃から回転体当たりを仕掛けて来た。
「セイッ!!」
修が正面から正拳で迎え撃った。
ボス・ポピーはあっさりと砕け散った。
後には猪の皮5枚だけが残った。
「・・・・ご主人様!」
ポーラが叫んだ。
「ん?」
周囲に敵の気配はない。
修は首を傾げてポーラを見ると、ポーラが興奮した顔で何かを見つめていた。
みるからに宝箱だった。
「・・・・宝箱?」
修は眉を顰めて呟いた。
先ほどはこんなものなかったはずだったが。
「はい!これはとても運が良いです!」
ポーラは興奮に頬を染めてこくこくと頷いた。
ポーラは興奮しているが、修にとっては良く分からないものだ。
とりあえず疑問を投げかけてみることにした。
「迷宮って他の人も来るよね?なんで未開封なのかな?」
今までも迷宮の中で、探索者と出会ったことはある。
誰も彼もがポーラに下卑た目を向け、修を羨ましそうに見ていた。
人によっては修に熱い視線を送っていたが、恐ろしくてさっさと逃げた。
「あ、えーっと、宝箱は突然現れるのです。中には貴重な装備が入っていることが殆どなのです。一攫千金のお宝でほぼ間違いありません」
ポーラはふんふんと鼻息荒く言って来る。
尻尾が興奮でぱさぱさと揺れていた。
「ふーん」
「上の階層では中々人が通らない為宝箱も良く見つかります。ですが、低層で見つかるのは滅多にないことです。これは本当に、凄いことです」
そういうことか、と修は納得した。
「開けてみようか」
「はいっ!」
修が宝箱の前に膝をつくと、ポーラも後ろから興味津々の顔で覗き込んで来た。
宝箱は特に鍵も無く、普通に開いた。
中には、木目状の模様を持つ剣があった。
見るからに鋭そうだ。
ポーラが後ろでごくりと唾を鳴らしていた。
修は鑑定してみた。
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軽快のダマスカスソード
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「『軽快のダマスカスソード』だってさ」
修が呟くと、ポーラは目を丸くした。
「え?!・・・・わ、分かるのですか?」
ポーラにも、ダマスカスソードであることは理解できた。
今使っている鉄の剣よりも随分とレベルの高い剣だ。
それだけでも驚きだったが、まさか特殊効果まで見破るとは思いもよらなかった。
普通、探索者が特殊効果を調べるには、検証を重ねて調べるものだ。
持てば分かるものもあるが、見るだけで、となると本職の職人でなければ不可能だ。
少なくとも、探索者に出来ることではない。
それをあっさり行った修に驚愕と尊敬の瞳を向けた。
「うん?」
しかし修は不思議そうに首を傾げた。
まさか出来て当然だ、などと思われているのだろうか。
ポーラは慌てて弁解した。
「いえ、そのぉ・・・・・・・。わ、私には、ただのダマスカスソードにしか見えません。とても高価な武器であるのは知っていますが、効果まではその・・・・」
申し訳なさそうに頭を下げてくるポーラに、修は頭を掻いて呟いた。
「あー・・・・うん。まあ気にしないで」
「・・・・そうですか」
ポーラは口をもごもご動かした。
言いたいことはあっただろうが、纏めて呑みこんだ。
修は何でもないことの様に、ポーラに言った。
「ポーラ、これ使ってみて」
ポーラは更に目を丸くした。
「えっ?!しかし・・・よ、よろしいので・・・・?」
ダマスカスソードは第一級のPTが振るっているような武器だ。
それに特殊効果がついているのだ。
少なくとも、駆け出し奴隷に持たせるものではないだろう。
思いっきり恐縮し始めたポーラに、しかし修が頷いた。
「剣使うのポーラだけだしね。ほら」
ポーラは震える手を宝箱に伸ばした。
「あ、ありがとうございます・・・・」
ダマスカスソードを掴み、持ち上げた。
軽い。
小枝を握っているような感覚だった。
その割に、振ると空気を切り裂く重い音が鳴った。
ポーラは具合を確かめる様に、数回素振りをした。
「『軽快のダマスカスソード』って、どんなのか分かる?」
修がポーラを眺めながら聞いて来た。
「えっと、とても軽いんです・・・。軽くても威力が変わらないので、攻撃がとてもしやすいです」
ポーラは言いながら、修にダマスカスソードを手渡した。
「うわっ、軽っ!・・・でもなんで宝箱に入ってるんだろうね」
修は目を丸くしてダマスカスソードを振った。
感心した風にダマスカスソードを見ながら、またポーラに手渡してきた。
「詳しくは分かりませんが、元々は迷宮に潜った人の装備だと言われています。戦死して迷宮に落ちている装備は、ある日突然消えるのだそうです。迷宮の魔力が装備に宿って宝箱として排出すると言われていますが・・・」
ポーラはそれを受け取って、腰に下げた鉄の剣と交換し始めた。
「ふーん・・・。何でそんな親切設計なんだろ」
修が不思議そうにつぶやくと、ポーラは『何を言っているんだろうこの人は』と言う目で修を見た。
「人が来るようになりますから」
何でもないことの様に呟いた。
修はひとり言のつもりだったのだろう。
「うん?うん、そうだね」
一度首を傾げた後、うんうんと頷いた。
そして、視線で先を促してくる。
ポーラはそこで思い出した。ご主人様は、当然のことも知らないのだ、と。
「あ、宝箱目当てで人が来て、志半ばで息絶える人がいます。迷宮は、その遺体の魔力を食べるそうです」
修の瞳に納得の光が灯った。
「・・・・・・撒き餌みたいなものね」
ぼそり、と呟いた。
「はい・・・」
ポーラも頷いた。
二人はまず三層に向かった。
足を踏み入れただけで先には進まず、Uターンした。
「ちょっとそれ試してみようか」
ポーラの腰にあるダマスカスソードを見て呟いた。
「はい!」
ポーラはやる気に満ち溢れた顔で頷いた。
軽快のダマスカスソードは実に便利だった。
今までポーラは、敵の攻撃を回避して一発叩き込んでいた。
それが、一度の回避で二、三発叩き込めるようになった。
更に、威力もグンと上がったようだ。
ポピーはあまりにもあっけなく猪に皮になった。
「・・・軽くても、本当に威力変わらないんだね」
修が感心した風にポーラを見つめた。
「はい。とても使いやすいです。ありがとうございますご主人様!」
ポーラは満面の笑みで修に頭を下げた。
PTも偉い勢いで上がっております。
有難いことですが恐ろしい(((( ;゜Д゜))))