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その拳にご注意を  作者: ろうろう
128/136

125話 透す

翌日は死屍累々だった。

生存者数名と言った有り様で、ほとんどの者が頭痛と吐き気に苦しんでいた。

飲み過ぎである。

恐るべきは『獅子殺し』。

人のリミッターを容易く解除していくのかもしれない。


ポーラは、前回の経験から軽症で済んだ。

獅子殺しは初めだけだったのが幸いだったのだろう。

それでも多少はきつそうだった。

最終的には寝ていたのを、修が背負って帰ったのだから、当然と言えば当然かもしれない。


大変だったのはカマンの店だ。

カマン自体は無事なようだが、ほとんど全滅状態なのである。

臨時休業の看板が立てられていたが、隠し切れぬほどの酒臭さが漂って来ていた。

そして酸っぱい匂いも。

耳をすませば呻き声まで聞こえて来る。


修は冥福を祈っておいた。




更に翌日、迷宮に潜った。

ポーラもナイアガライオン相手に苦戦しなくなったので、実に順調だ。

ボスを発見できた。


----------------------------


LV.36

ボス・ナイアガライオン


----------------------------


相変わらず寝ている。

見事なくらいの爆睡っぷりだ。

しかも、そこかしこに空き瓶が転がっている。

飲み過ぎであろう。


「行きますよカファ」


「…はぁ」


今回はカファも参戦だ。

セオリー通りの戦いをするのだ。


「はっ!」


兎にも角にも、まずは一発だ。

ゴッドソード・改では一撃になりかねないので、メテオドラゴンの剣で脳天に一撃だ。


一撃叩き込むと、ポーラは飛び離れる。

そしてナイアガライオンの動きに備える。


「お?」


ナイアガライオンは吐かなかった。

ゆらぁり、と立ち上がったかと思うと、すぅっと構えた。

その構えはまさしく。


「蟷螂拳!?」


修が叫んだ。

最早、酔拳は関係ないとばかりにカマキリの構えだ。


ナイアガライオンは疾風の如き勢いで、ポーラに襲い掛かった。

吐瀉物を垂れ流しながら。

酔っぱらった後の急な運動は危険ですよね。


「うわっ?!」


ポーラは叫んで、思いっきり後ろに飛んだ。

危うく、吐瀉物がかかりかけた。


「……」


ポーラは飛び離れたが、カファは鋼の精神でも持っているのだろうか。

カファが平気な顔でナイアガライオンの攻撃を受け止めた。


「汚らしい…!」


着地したポーラが、忌々しそうに叫んでナイアガライオンの背後に回る。

実に正論である

しかし蟷螂拳も様になっているが、そもそも鋭い爪を持っているのに。


ナイアガライオンの爪と、カファの盾が激突し、ガギャギャーン!と大きな音が鳴る。

カファは見事に、その猛攻を受け切った。


効果なし、と判断したナイアガライオンの行動は早かった。

体を丸めたと思うと、何と、背中からカファの盾に体当たりを仕掛けた。

ズシン!と足が地面を鳴らすほどの、見事な震脚付きだ。


「鉄山靠!?」


それはまさしく、有名なアレだった。

ナイアガライオンは蟷螂拳だけでなく、八極拳まで収めていたのだ。


「……ぅ」


ナイアガライオンの鉄山靠は素敵な威力らしく、盾越しにカファに衝撃を伝えた。

ぐらりと傾いたカファに、ナイアガライオンがその防御を食い破ろうと攻撃を仕掛ける。


そうはさせじと、後ろに回ったポーラがナイアガライオンに斬りかかった。


「やっ!!」


ナイアガライオンはそれに対し、実になめらかな動きで回転し、ポーラに相対した。

同時に手を回し、ポーラの剣戟を受け流した。


「八卦掌まで?!」


修もびっくりだ。

こいつは一体いくつの武術を身に着けているのだろうか。

しかし、ナイアガライオンの反撃も、ポーラは横っ飛びに回避した。

その間に、カファはナイアガライオンから離れた。


ポーラとナイアガライオンがにらみ合う。

と、ポーラが一度、大きく深呼吸をした。

そして息を止めた瞬間、一気に懐に潜り込み、怒涛の連撃を叩き込んだ。

ライオンの八卦掌は未熟なようで、すぐに受けが決壊した。


ならばとばかりに、ナイアガライオンは爪を伸ばして力任せに迎撃を始めた。

周囲に火花が散る、激しい激しい打ち合いが始まった。

しかし、剣と爪である。

硬度で勝る剣が、あっというまにナイアガライオンの爪をカットし、削って行く。

そして火花が散らなくなった頃、


「はぁぁっ!!」


ポーラが渾身の突きを、ナイアガライオンの眉間に叩き込んだ。

それを受けたナイアガライオンは一瞬静止し、白目を剥いてから、どぅ、っと倒れ伏した。

そしてすぐに酒瓶に変わった。


ナイアガライオンの絶命を確認したポーラが、ふぅーっと息を吐いてから、剣を収めた。

修は、中国拳法全般を仕込むか悩んだ。


「強敵でした」


酒瓶を抱えたポーラが感慨深く呟いた。

しかし外傷はないようだ。


「だね。カファは大丈夫?」


むしろ鉄山靠を受け止めたカファが心配だ。

カファは、凄く嫌そうな顔をしていた。


「……いたい」


衝撃に良い感じで襲われたようで、まだ腕が震えていた。

修が治療すると、元の無表情に戻った。

とても分かりやすい。



帰ってアルコールを取り込んでから、修とポーラが訓練を行った。

カファも一緒だ。

浸透勁を使って来る敵が居れば、カファも厳しくなるかもしれないのだ。

しかし問題がある。


修も浸透勁は使える。

発勁とか超余裕だ。

しかし、威力が問題なのだ。

ぶっちゃけ、相手が爆発してしまうのだ。

まず、修がそのあたりの力の調整をから練習しなければ。


そこらへんの木に、手加減して放ってみた。

爆発した。


「むむ」


これでもまだ駄目なのか。

修はもっと弱めて木に発勁を放つ。

爆発はしなかったが、中心からへし折れた。


「むぅ」


これでは、人体もへし折れる。

更に更に手加減してみた。


「…」


木が揺れるだけで済んだ。

と思ったら、ミシミシと音を鳴らして、崩れ始めた。

更にもう一発。


「…」


木の裏が弾けとんだ。

人間なら、背中がさよならかもしれない。


それから何度も何度も、試行錯誤を重ねた。

その結果。


「これくらいかな!?」


木が揺れるくらいで済んだ。


「よし、じゃあやってみようか!?」


やる気満々の修が、カファに向き直った。

が、カファはブンブンと激しく首を振っていた。

何本の木が木端微塵にされるのを見せられたことか。

しかし修は、笑顔でカファの額をコンッと叩いた。


「ほら、大丈夫だよ」


先ほど以上に手加減した。

しかし、カファはぶるりと震えた後、倒れた。


「ぐふっ」


ご丁寧に、断末魔まで。

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