118話 ハッピー
ポーラは、修が動く気配を感じて目を覚ました。
寝ぼけた振りをしてしがみ付きたい欲求もあったが、何とか振り切った。
そしてうっすらと目を開けると、修と目があった。
修はいつも通りの笑顔を浮かべていたので、ポーラの頬にも自然に笑顔が生まれた。
「おはよう、ポーラ」
毎朝の挨拶ですら、ポーラにとっては幸せだった。
「おはようございます、シュウ様」
いつも通りに挨拶を返し、軽く抱き合ってチューをした。
これがあるから毎朝が楽しみなのだ。
二人の顔が離れ、見つめ合う。
(もう一回行けそう!)
とポーラが考え、再び顔を寄せようと決意したところで、修が言った。
「お誕生日おめでとう」
「…え」
ポーラ、18歳の誕生日だった。
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LV.53
ポーラ
獣人:♀
18
剣士LV.57
二刀剣士LV.50
『探索者』
『○○○』
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寝起きドッキリで頭が回っていないポーラに服を着せてやり、修はポーラの手を引いてリビングに降りた。
リビングには、人が居た。
カマンの屋敷で働いているメイドさんズだ。
彼女たちは一般人なので、気配を隠せる訳も無いのだが、ポーラは気づけなかった。
ポーラは呆然と、テーブルの上に並んだ料理を見つめた。
ポーラが起きて来たことに気付いたメイドさんズは、一人また一人ポーラの肩に手を置き、「おめでとう」と言って帰って行った。
数人には「しっかりキめなさいよ?」とか言われた。
嵐の様に、メイドさんズが帰った後、ポーラはようやく修に話しかける機会を得た。
「あ、あの!ど、どうして?!」
色々な意味が含まれたどうしてだ。
「カマンさんが教えてくれたんだ。だからこっそり準備をしてたんだ」
ドッキリを成功させた修がしたり顔で頷いた。
そしてテーブルの真ん中に置いてある、小さな箱を持ち上げた。
箱が開き、中から風が漏れている。
その風が、部屋の床や壁や天井を覆い、音を遮断していたのだ。
「気付かなかったのはね、コレ。カマンさんからのプレゼントなんだけど、なんか風の魔法でなんたらかんたらで、半日は音を隠すらしいよ?はい」
修は途中で説明を放棄し、ポーラに手渡した。
「……こんな、高価な……」
ポーラは震える手で箱を見つめた。
じわりと目に涙が盛り上がった。
「ほら、冷めないうちに食べよう」
修がポーラの肩を押して、席に運んだ、
「…はい」
ポーラは涙ぐみながら、ガツガツと喰らった。
泣かない様に誤魔化しているように見える。
ポーラが食べ終わると、数人のメイドさんズがするすると現れて片付けを開始した。
手伝おうとするポーラを全員で捕え、修の元に運んで来たくらいだ。
修は苦笑して、ポーラを捕獲した。
最初は手持無沙汰にしていたポーラも、修の腕から逃げることはせずにもじもじしていた。
そしてメイドさん達が帰った後。
「じゃあこれは俺からのプレゼント」
修がポーラの腕を取り、指輪をはめてやった。
サイズはメイドさん調べ、物はカマンさん仕入だ。
小粒のダイヤモンドっぽい宝石が散りばめられている。
「……」
ポーラはぽかんと口を開けて、指に収まった指輪を見た。
次の瞬間、ぶわっ!と涙が溢れだした。
マジ泣きだ。
「…あ、ありが…どう、ごじゃいばず…」
ぐずぐずと鼻水まで流して、ポーラがつっかえつっかえ感謝の言葉を放った。
「うん。ほら、泣き止んで」
修がポーラをよしよししながら、チリ紙を鼻に押し当ててやった。
><ちーん!とポーラさんが鼻をかんだ。
「うぅ……」
なでなでされているうちに、ポーラは段々泣き止んで来た。
しかし目はじっと指輪を捕えていて、油断するとまた溢れ出てきそうだった。
「迷宮では付けれないでしょ?だからはい、これも」
修がチェーンを渡した。
ポーラの目から、また涙が溢れだした。
「……あ”い”」
もう完全に駄目な声になっていた。
「ほら、また」
修がまたちり紙を教えてた。
><チーン!
ポーラがようやく泣き止むと、何とカファが歩み寄って来た。
「……」
迷宮以外では、自室から出て来ることすら珍しいのに。
一体どういうことだろうか。
「……カファ?」
カファは無感動な瞳のまま、むむむむと力むんだ。
気がした。
すると、唐突に髪に花が一つ咲いた。
カファは頭に咲いた花を取り、ポーラに渡した。
「…ありがとう、カファ」
またポーラの鼻に刺激が。
カファはもう、やることはやったとばかりに、ポーラに背を向けた。
「……」
スゲーふらふらしてる。
物凄く体力を使うのだろうか。
カファはそのまま自分の部屋に消えた。
最後に、修があるものを取り出した。
「あと、これ」
むっちゃ神々しい。
「こ…これは!!」
神から強請った、ゴッドソード・改だった。
そんな素敵な剣だが、修は実に普通にポーラに手渡した。
「す、凄い、剣です。こんなのが、存在するなんて…」
ポーラは震える手で受け取った。
探索者の目でゴッドソード・改を見つめ、ゴクリと喉を鳴らす。
「何でも切れるらしいよ?」
神はそう言っていた。
けど修は切れない。
たぶん、神も切れない。
何でもじゃないじゃん。
「そんな気がしますね…」
ポーラは握りや重心を確かめていた。
連続で馬鹿みたいに高価な剣を貰えているので、こうやって渡されても、最早抵抗なく受け入れることが出来る。
ちょっと試したが、魔法も切れた。
二刀流で振り回していたら、ぶつかったミラードラゴンの剣も切れた。
慌てて修理に出した。
鍛冶屋のおっさん、すまねぇ、と思いながら。
ポーラは一日ご機嫌だった。
暇さえあれば指輪を見て、時々涙ぐみ始めるくらいだ。
ちなみに音が出なくなる箱は実に素晴らしかった。
防音機能とは素晴らしい物で、修はこの日、本気でポーラさんを喜ばせてみた。
獣の咆哮は、外には全く漏れなかったようだ。
シーツどころか床の掃除までしなければならなくなった。