117話 階級の壁
あのウサギが出したとは思えぬサイズの大きさの肉に、リュックはすぐに一杯になった。
ブルーバニーの肉は、やはり食べたくはない。
そういう訳で、全て売り払った。
食材を求めているお方たちには、歓声を持って迎え入れられた。
ウサギシリーズは鬼門だと言うのに。
トーシロはこれだから困るのだ。
そんなひどいことを考える人は誰も居る訳は無く、ただ無表情で売って帰った。
知らぬ人は美味しく食べれる。
それけでいいではないか。
そして知った人はそれを売ればいい。
緊急事態以外では、決して口にしたくは無いのだ。
気分的に。
二刀流のポーラさんには、修はこっそり技を教えてみた。
○陽交叉と、陰○撥止だ。
回天剣舞○連はまだまだ先だろう。
しかし、「あの、剣が傷ついてしまいます」と言う至極もっともな意見を受け、修の野望は潰えた。
その日の夜、修は枕を濡らした。
と思いきや、ポーラさんの胸に搭載された枕で、すぐに気分はageageになった。いやっふぅ!!
現金なことだ。
修は、ポーラとカファの訓練を再開した。
修もセイントたちの一戦で学んだことがある。
とりあえずまず攻撃をさせまくるのだ。
修は受け続け、思い出したように攻撃を仕掛ける。
そういう訓練方法を編み出した。
とはいっても、カファのぶちかましは指先一つで止めるし、足払いを喰らってもびくともしない。
カファが引こうとしても、何故か引くことすらできなくなるのだ。
修の指は吸盤か何かなのだろうか
そんな状態で、ポーラが飛びかかって来るのをまた片手でいなし続ける。
剣が二本あろうとも、足技を使われようともお構いなしだ。
「やっ!!」
この日のポーラさんは、早速新技、浴びせ蹴りを仕掛けて来た。
修の顔を、ポーラの尻尾がパサリと覆う。
甘い香りがするぜ!
そして天国の後の地獄。
ポーラさんの踵が修に迫る。
甘い匂いに、ついトリップしてしまった紳士・修に、ポーラの踵が直撃した。
「え!?」
全力でぶち込んだポーラさんがびっくりだ。
着地も忘れてずるりと地面に落ちた後、慌ててガバッと立ち上がった。
「シュ、シュウ様、大丈夫ですか!?」
まさか直撃するとは夢にも思っていなかったのだ。
ポーラが修に齧りつき、目を見開いて顔を見た。
「え?うん」
修はピンピンしていた。
額にポーラさんの足跡がくっきりと残っているくせに、それは全て汚れだ。
肌には傷一つない。
人間じゃねぇ。
「…よかった」
ポーラは心の奥底から安堵し、深い息を吐いた。
「隙あり」
そこに、修のデコピンが叩き込まれた。
血も涙もねぇ。
ちなみに、呉鉤十○も指先一つで止められた。
結局、体力の尽きるまで攻撃を続けたが、以降は一発も当たらなかった。
そして体力の限界を迎えたポーラはデコピンで倒された。
カファも修と押し合いをした挙句、ぶっ倒れた。
ちなみにその夜、修はポーラさんに乱れる牡丹的なことを試してやった。
ちょっと拘束してみると、自由に動けず、きゃんきゃん鳴くだけのポーラさんがとても可愛いかった。
そのせいでちょっとハッスルしすぎて、ポーラさんはしばらく帰って来れなくなってしまった。
修が慌てて介抱したくらいだ。
ご近所さんに通報されてしまいかねない。
目を覚ましたポーラにも、流石に続行は不可能だと告げられた。
腰が抜けていたのだ。
動けないポーラの代わりに修がシーツを変えて、ようやくお休みの時間だ。
ポーラは一瞬で寝落ちした。
寝顔が可愛いぜ。
ちなみにその頃のカファ↓
( ˘ω˘)スヤァ
慣れきっている。
33層での探索を進めた。
緑のウサギを連想しかけるが、やはりアレと比べるべくも無い。
全身が羽毛で覆われている効果だろうか。
やがてボスを発見した。
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LV.34
ボス・ブルーバニー
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肉厚だった。
グリーンほどではないが、全身に一回りも二回りも肉が付いている。
どう見ても。
「階級が上がっている!?」
階級が上がっているのに、その動きは依然と何ら変わりは無かった。
死神の鎌が唸る。
「……」
それをカファが受け止める。
ガンガンと音が鳴っているが、拳は痛くないのだろうかと聞きたい。
ブルーバニーは痛くないようで、どんどんとカファを押し込もうとして来る。
そうはさせじと耐えるカファ。
そこに、やはりポーラが接近した。
尻尾で目隠しは修に止められてしまっていた。
あんなすばらしいことを敵に味あわせるなど、とんでもない話である。
ポーラも飛んでくる攻撃は分かっている。
修曰く、チョッピングライトだ。
ポーラは、一本の剣をブルーバニーの攻撃に対する保険として顔をカバーし、もう一本でリバーを抉ろうとした。
「っ?!」
そこで、嫌な予感に眼を見開き、咄嗟に飛び退いた。
ポーラの顎のあった場所を、ブルーバニーの拳が下から薙ぎ払った。
「アッパーカッツ!?」
まさしくアッパーカット。
上から来ると思わせておいての、下からの奇襲だ。
ポーラさんの第六感が物を言った。
危ういところだった。
「くぅ!!」
拳圧に薙ぎ払われるようにして、ポーラは背中から転がった。
ボス・ブルーバニーがポーラに追撃をしかけようと、やはりキュッキュと足音を鳴らし、軽快なステップでポーラに接近する。
そこにカファが割り込んだ。
ナイスなカバーだ。
ブルーバニーが、今度はカファにアッパーカットを行う。
長い手の効果か、カファの予想よりも更に下か衝撃を叩き込んで来た。
「っ!」
カファの体が浮いた。
盾ごと押し切られたのだ。
何と言う馬力だろうか。
やはり階級の壁は厚いのだと分かる。
しかし拳一発分の時間を稼いだおかげで、ポーラが体勢を整え、今度はカファの代わりに前に出る。
互いが互いをカバーしあう、理想的な動きだ。
ブルーバニーはまたしても、ポーラに向かってフリッカーを連続で叩き込む。
ポーラは小刻みな動きで、しかもダッキングしながら回避し、更に前身をし続けた。
流石の動きだ。
懐に入り込むと、ポーラはより一層神経研ぎ澄ました。
上からも下からも、どちらでも対応できるように。
打って来たのは、チョッピングライトだった。
ポーラは首の動きだけでそれを回避した。
ヒュゴォッ!と、ポーラの耳に空気を切り裂く音が響く。
しかしポーラは一切ひるまず、左右の剣を叩き付けた。
「ふっ!!」
二発入れると、それ以上欲張らずに飛び離れる。
遅れて、ポーラの居た場所にアッパーカットが通過した。
やはり、まだこの階層ならばポーラの動きの方が早い。
先ほどは死角からの攻撃に動揺しただけだったのだ。
落ち着いてかかれば問題はない。
「やっ!」
ポーラは飛び離れながらも、メテオドラゴンの剣で虚空を薙いだ。
炎の斬線がブルーバニーを襲い、追撃を阻む。
またその間に、着地したカファが駆け戻って来た。
燃えるブルーバニーを実に嫌そうに見つめながらも、逃げようとはしない。
防ぎきれれば燃え移ることは無いのだ、と自分に言い聞かせているようにも見えるが。
そこからは臨場感のある場はなく、ポーラが切り殺した。
心なしか、感想は人一倍貰えている気がします。
ありがとうございます。