10話 選択とご褒美と
修たちは、二層でしばらく戦った。
ポピーも、当然のことながら
「セイッ!!」
で即死だったが、ポーラはブルーラビットよりも多少時間がかかっていた。
しかし、手慣れて来たのか、同じくらいの時間で倒せるようになっていた。
暫くの探索で、リュックが猪の皮でいっぱいなった。
「よし、そろそろ帰ろうか」
それを確認して、修がポーラに話しかけた。
「はい」
ポーラも異議はないようで、素直に頷いた。
二人で入り口まで戻りながら、ふと修が呟いた。
「しかし帰るのはめんどくさいね」
ポーラが目を丸くした。
「え?」
修も不思議そうに首を傾げた。
「ん?」
ポーラは、すぐにいつものアレだと気付いた。
「あ。えーっと、帰るときはすぐです。二層に居るので、一層への扉を潜れば、外に出るか一層に戻るか選べます」
ポーラの説明を聞いて、修は感嘆した。
「・・・それは便利」
ポーラは頷き返し、続けて言った。
恐らく、これも知らないのだろうと思った。
「はい。・・・あと、潜る時も、到達階層まで一気に潜れます。PTリーダーのご主人様がいらっしゃれば、ですけど」
修は感心しきりだった。
「至れり尽くせりだね」
思わず呟くと、ポーラは曖昧に頷いた。
「・・・はぁ」
この世界に生きるポーラにとっては当然のことであったのだ。
何と言ったらいいのか悩んでいるうちに、修はさくっと頭を切り替えたようだ。
「それじゃあ帰ろうか」
「はい」
ポーラの言う通り、扉を掴むと頭の中に何か出て来た。
便利だなぁ、と思いながら、迷宮の外に出たいと念じると、その通り、突如入り口に転移した。
受付は何人もいるようで、初めて見る顔だった。
どっさりと素材を渡すと、受付は少し目を見張った。
しかし手慣れた様子で換金作業を行ってくれた。
「はい。換金できました。こちらが報酬です」
「ありがとうございます」
ブルーラビットよりも高かった。
ギルドを出てもまだ夕暮れ時だったため、修がポーラに語り掛けた。
「食材買って帰ろうか」
「あっ。ご主人様はお先に休まれていてください。私が買って参りますので」
ポーラはしっかりと言ってきた。
奴隷としての矜持があるのだろうか。
しかし、修は首を振った。
「いや、いっしょに行くよ」
「は、はぁ。・・・・すいません」
ポーラは何故か頭を下げて来た。
気を使ってもらったと勘違いしたようだ。
勿論それもあるが、それだけでもない。
修もいろいろ見て回りたいのだ。
苦笑していった。
「俺が行きたいんだから、謝る必要はないよ」
「は、はい」
カマン商会に行って、ポーラが食材を見繕っているうちに、カマンを訪ねた。
しかし、残念ながら不在の様だった。
仕方なくポーラの元に戻ると、食材を決め終えたようだった。
ポーラのリュックに満載された食材を見て、修は呟いた。
「たくさん買ったねぇ」
ちなみに、半分受け持とうとしたが、断固として断られた。
ポーラは頷いた。
「はい。ご主人様はたくさん食べて下さいますので」
何だか無駄飯ぐらいだと言われたような気がして、修が苦笑いした。
「ははは・・・ごめん」
ポーラは修が勘違いしたことに気付いたようで、慌てて口を開いた。
「あっ!違います!う、嬉しいんです・・・。ですから・・・・」
「そっか。ごめんよ」
修も自分の勘違いに気付いて、素直に頭を下げた。
「・・・はい」
ポーラはほっと胸を撫で下ろしていた。
二人で無言で歩いていると、正面から数人の女性がきゃいきゃいと騒ぎながら歩いて来た。
すれ違ったその時に、ポーラの瞳が女性の首に光るネックレスを捕えていた。
修は、それを目ざとく見つけた。
「・・・欲しいの?」
ポーラに話しかけると、ポーラは少し意識を飛ばしていたようで、慌てた様子で言った。
「・・・え?あ!いえ、その・・・・」
正直に言えば欲しいが、奴隷の身分でそんなものをねだるわけにもいかない。
意を決して断ろうとしたが、その前に修が何でもないことの様に呟いた。
「いいよ。今日は結構稼げたし」
「で、ですが。その・・・・」
ポーラの決心がぐらぐら揺らいだ。
「ほら、あそこにお店あるよ」
そんなポーラの手を引いて、装飾店と思われる店に向かってずんずんと歩き始めた。
「あ・・・・・・・・」
ポーラは結局装飾店に連れ込まれた。
きらきらと輝く金属と宝石の中で、ポーラは視線をせわしなく動かしていた。
「ほ、本当に、よろしいのでしょうか・・・・?」
恐る恐る修に問いかけると、修はにこやかに笑った。
「いいよいいよ。ポーラは美人なんだから。もっと綺麗になると嬉しい」
ポーラの頬が紅色に染まった。
「・・・・・ありがとうございます」
「じゃあ好きなのを選んで」
修はそう言って、端っこに逃げた。
「はっ、はい」
修は女性だらけの店の雰囲気に押されたのだ。
しかし、修も女性の様な見た目だ。
あまり違和感は無かった。
もっとも、女性にしては背が高めだが。
ポーラはふらふらと、女性たちの中に紛れて行った。
無心で壁と一体化していた修の元に、ポーラが現れた。
「あっ、あの」
「ん?決まった?」
修が精神的擬態を解いた。
ポーラの手には、三つのアクセサリーがあった。
どれもチョーカー型だった。
「ここまでは決めたのですが・・・。宜しければ、ご主人様に選んで頂けると、その・・・・」
OH!!
修は心の中で呻いた。
この展開は知っている。
アニメや漫画で何度か見た展開だった。
外すとビンタコースだ。
「う~んう~ん」
修は冷や汗をかきながら必死に見つめた。
どれも、動き易さを重視したものだった。
激しく動いても邪魔にならない様に、チョーカーを選んだのだろう。
もしかすると犬だからかもしれない、と微かに思いもしたが、雑念を振り払って必死に選んだ。
しかし、修が見ても、どれも似たデザインだった。
ちらりとポーラを覗き見ると、期待するような瞳でこちらを見ていた、
「・・・・・・・・・」
修は心臓の鼓動を激しく感じた。
何度も何度もポーラの首にチョーカーを合わせて、似合うかどうか調べた。
どれも似合っていた。
ならばとばかりに、ポーラの反応を伺う。
(これかっ!!)
「これかな」
一つを指差した。
真っ黒なチョーカーで、中心に銀の飾りが輝いている。
小さな飾りだが、品の良さを感じるものだった。
「ありがとうございますっ!!」
正解だったようだ。
修は全身の力を、溜め息と共に吐き出した。
購入したチョーカーを修に着けてもらったポーラは、上機嫌だった。
「~~~~~~♪」
リュックに荷物を満載だと言うのに、鼻歌を歌いながら踊る様な足取りだった。
豊満な胸がぷるんぷるんと震えて、男の視線を釘づけにしていたが、気付く様子も無い。
尻尾もパタパタと激しく動いていた。
その日の夕食は、やけに気合が入ってた。
丁寧なのはいつも通りだが、なんだかそういう気を感じた。
夜にベッドで横になった頃に、またポーラが現れた。
称号を変えてみた。
何にとは言わないが、ポーラはとても乱れた。
ポーラは結局、修のベッドで力尽きた。
すーすーと安らかに寝息を立てるポーラを見て、こっそりポーラのベッドは必要なかったのではないかと思い始めた。
そして、寝る前に鑑定をしてみると、レベルが上がっていた。
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LV.10
カンザキ シュウ
人間:♂
18
拳士LV.■■
経験値獲得アップLV.3
攻撃魔法LV.3
回復魔法LV.3
鑑定
状態異常無効
称号変更
『探索者』
『拳を極めし者』
『神を殴りし者』
『ご主人様』
所有物
ポーラ
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LV.4
ポーラ
獣人:♀
17
剣士LV.5
『○○○』
『探索者』
『奴隷』
主
カンザキ シュウ
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ポーラの上りが凄かった。
恐らく、そのおかげでポピーを倒す速度が上がったのだろう。
スキルによっても、上がりやすさが違うのかもしれない。
ポーラの称号を戻して、修も目を閉じた。




