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その拳にご注意を  作者: ろうろう
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115話 男爵

ポーラは首を傾げていた。


「あれ…?」


探したが、見つからない。

今日は迷宮が休みのため、外出する予定の無いポーラは、短いスカートを装着していた。

黒のニーソックスまで身につけている。

絶対領域が眩しいぜ。


そんなポーラが、一通り洗濯物を漁った。

一度畳んだ物をひっくり返し、一つ一つ調べる。


「…?」


見当たらない。

ポーラは無意識に、修とお揃いのバングルを撫でながら首を傾げる。

パンツが無い。

エロ系ではなく、普通のパンツだ。

初めに修に買ってもらったうちの一つである、純白のレースがついたパンツだ。

かなりのお気に入りだった。


ポーラはしばし悩んでいたが、やがて得心がいったと言う顔をして立ち上がった。

そしてリビングでお茶を飲んでのんびりしている修に会いに行った。

のんびりしていると思いきや、空気椅子だった。

それでも平気な顔だ。

クレイジー。


「シュウ様」


最早そんなことには突っ込みは入れず、ポーラが修に声をかけた。


「うん?」


「うめー、お茶うめー」と言う顔をしていた修が、キョトンとした顔でポーラを見た。

空気椅子の疲労など、微塵もない。


「あの、私のパンツが欲しければ、言ってくださればいつでも…」


ポーラは恥ずかしそうにもじもじとしながら、スカートの中に手を入れようとする。

中は紐なので、脱がなくても外せるのだ!


しかし、修は仰天だ。


「いや、ちょっと待って!?どういうこと!?」


ポーラも仰天した。


「…え?あの、シュウ様が私の下着を取り込んだのでは…?」


てっきり修が確保しているのだと思ったのだ。

ポーラの中で、修は一体どういう扱いになっているのだろうか。

後で詳しく確認する必要がある。


「違います!」


心当たりのない修は叫んだ。

大事なのは中身だよ!と言うのは、マイスター修の魂の叫びだ。


ポーラはしばし停止した後、ゆっくりとカファを見た。

陽の当たる場所でぼんやりと座っている。


「カファ?」


カファがゆっくりとポーラを見て、首を横に振った。


「……」


カファがそんな面倒臭いことをするわけがない。

実に億劫そうにズボンを降ろし、トランクス型の下着を見せた後、またぼんやりとし始めた。

履き直せよ。




ポーラの目が凍り始めた。

下着は室内に干している。

それが行方不明になったと言うことは。


「……」


ポーラは無言で武器を持ってきた。

装備品が保管してある部屋は、シュウがちょっと致命的なトラップを仕掛けているので、何も知らない人が触れば普通に死ぬ。

当然と言うべきか、装備は無事だった。


次に下着を干していた部屋の匂いを執拗に嗅ぎ始めた。

侵入されたのか?

シュウは午前中は親方達の手伝いに行っていた。

しかしそれでもポーラは家に居たのだ。

そうやすやすと侵入されるとは思えない。

そしてここは家の中だ。

ハイドワームも現れることは無いだろう。


後考えられるのは…。

窓だ。

二階の外からは見えない角度で干しているが、窓を開けて手を伸ばせばあるいは…。


「……」


ポーラは窓を見た。

鍵が開いていた。

干す時にしっかり閉め、それ以降開けた記憶は無い。

ポーラは鼻を鳴らした。

ビンゴだ。

記憶にない匂いがある。


ポーラの目が殺意の波動に輝いた。




取りあえず、普通に泥棒なので騎士団に通報しに行った。

修が近くに居ないと、ポーラさんが今にも殺意を溢れさせそうなので一緒にだ。

ポーラはホットパンツに履き替えてしまったが、これはこれで。


「……またですか」


顔見知りの騎士団員は、困った顔で呟いた。


「また?」


修が訝しげに眉を寄せた。


「最近、多いんですよ」


騎士団員は、疲れた溜め息を吐いた。

何と言うことだ。

この世界にも、下着ドロは存在するのだ。

あの変態ワーム以外で。


「年齢は関係なく女性の下着が盗まれています。…傾向としては、使い込んだものばかりですね」


騎士団は何度も説明したのだろう、とても疲れた顔だ。


「……」


ポーラさんの殺意が溢れ出した。

騎士団員が気圧されたので、修はポーラさんの手を握った。

夢の恋人つなぎだ。

おかげで、少し殺意が収まった。


「…匂いは覚えました。犯人を追います」


ポーラが殺意に震えた声で呟いた。

ポーラさんはとても鼻が良いのだ。


「…それなら少々お待ちを。我々も同行します」


騎士団員は、慌てて同僚を呼びに走った。

ポーラが犯人を殺りかねんと考えたのだ。




ポーラを先頭に、手をつないだ修と、後ろに騎士団員二人が歩いていた。

犯人の匂いは、実は微かにしか残っていない。

その為追うことは難しかった。

しかし、ポーラは修の匂いを追っているのだ。

あのパンツに、修の匂いを沢山匂いをつけておいてよかった。


騎士団を同行していると、とても目立った。


「え、犯人!?見つけたの?!」


店番をしている若いねーちゃんが目を丸くして騎士団の話を聞いていた。


「…これからです」


ポーラが殺意に塗れた声で呟くと、ねーちゃんは一度店に引っ込むと、すりこ木を持って走って来た。

やる気だ。


「あたしも行くよ」


後ろから更に声がかかった。

ゴブリン如き、片腕で捻じり伏せそうなほど剛腕を持った中年のご婦人が居た。


「女将さん…」


親方の、奥さんだ。

隣には親方もいる。


「おう、俺も行くぜ。よくも俺の女の…!」


親方は腕まくりをし、逞しすぎる腕を晒した。

めっさ殺意に溢れている。

まだまだラブラブなのだ。


「あんた…」


女将さんがうっとりとした顔で親方を見た。

家でやってくれ!


そうして一人また一人と人数を増やしながら進み、遂に辿り着いた。

街外れの小さな小屋だった。

ポーラはノックもせずに、突然扉を蹴り破った。


「うっ…!!」


「こ、これはっ!!」


そしてそこに広がる光景を見て、全員が怯んだ。

蹴り破ったポーラすらも、後ずさった。


小屋一面に紐が張られ、びっしりと女性用パンツが吊るされていた。

ハイドワーム級の変態だ。


「おやおや、ばれてしまいましたか」


その中央で、黒づくめの男が座っていた。

男の前には桶があり、水が張られていた。


「へ、変態だ…」


騎士団員が恐れ戦いて呟いた。

男は、「変態」と言う言葉を聞いて忌々しそうに眉を歪めた。


「変態?違いますよ!!私が趣味で集めているとでも!?」


実に心外そうな叫び声だった。


「ち、違うと言うのか!?」


どう見ても趣味です。

本当にありがとうございました。


しかし男は胸を張って叫んだ。


「違う違う違います!浅はかですな!!…む」


そして、ポーラを視線に捕えた。

男は、桶の中に手を突っ込み、中から白い布きれを取り出した。

パンッ!と音を立てて、良く見える様にそれを開いた。

ポーラのパンツだった。


「ふふ。お嬢さん、染み抜きは完璧だが、洗い方がいかんよ。ほら、ここにほつれが」


男はポーラの下着の股間部を指差し、くすりと笑った。

染み抜きしておいて、本当に良かったと心から思う。

ポーラが跳んだ。


「くたばれ変態がっ!!」


全身全霊を込めた蹴りだった。

常人が喰らえば即死間違いなしの蹴りだったが、変態はひらりと回避した。

レベル50のポーラの蹴りを。


「おおっと!!」


しかも余裕がある。


「なっーーー!?」


避けられたポーラは愕然とした。

更に、ポーラの攻撃を見えなかった人たちも。


「くっくっく!!その程度の攻撃でこのパンテー男爵をとらえ切れるとでも?!」


ばさりと男の服がはためいた。

身に着けていた黒いのは、マントだった。

その下には、やはり女性用パンツ一枚。

変態は身を翻し、逃走を図った、が。


「セイッ!!」


修の拳が男の頬にめり込んだ。


「ごっはぁっ!!」


男は錐揉みしながら壁に叩き込まれた。

我に返った人たちが、一斉に倒れた男に襲い掛かった。


「死ねっ!!」「くたばれ!!」「なんつー羨ましいことを!!」


一人おかしいことを言っていた気がする。


「ぐはっ!!ぐっ!!ふっ、ふははははは!!もっとだっ!!もっと蹴るが良い!!私の情熱はこんなことで消えはしない!!ふぁーっはっはっはっはっはがはぁっ!!パンツ教に、栄光あれーッ!!!」


変態は潰えた。

持っていた私物は、女性用パンツとミニチュアハイドワーム像だけだった。

邪教だ。

お遊び回です

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