109話 愛などいらぬ
ゴッドソード・改を使うのはまだ先だ。
今のところは無くても問題ない。
まだあわてるような時間じゃない。
ポーラさんをいい感じで催眠にかけて、隠したベッドの下を見ない様にしておけば完璧だ。
32層に向かった。
とても不思議な場所だった。
まず海がある。
エメラルドグリーンに輝く実に美しい海だ。
だと言うのに、陸地もしっかりとある。
そして陸地には、小さなピラミッドもどきまである。
一体ここには何が出て来るのか。
魚介類か、ミイラでも出て来るのだろうか。
そう思って探索を進めると、魔物と出会った。
「うわぉ…」
魚介類ではなかった。
ミイラでもなかった。
ペンギンだ。
スーパーハードをつけていそうだ。
イワトビペンギンだろう。
しかし髪が金色だ。
神は間違った知識を得てしまったのだろうか。
そしてそのペンギン。
海に浮かぶ玉座に座っていた。
スッゲー偉そうに。
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LV.32
カイザー
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雰囲気は確かに皇帝っぽい。
神は皇帝ペンギンとイワトビペンギンを同一視しているのではないだろうか。
カイザーはこちらに気付くと、手招きして来た。
その瞳は間違いなく、「果たしてこのおれを倒すことができるかな」と語っていた。
「サンダーバースト!!」
修は手始めに雷球をぶっ放した。
手始めと言うには威力が高すぎるが。
雷球が迫る中、しかしカイザーは余裕の顔を崩さなかった。
突如、カイザーの体が海に沈んだ。
「!?」
雷球が空中で弾け、空しく放電を続ける。
それが収まった頃に、カイザーが海から飛び出て来た。
体勢は全く変わっていない。
だと言うのに、グングンと近づいて来る。
玉座だ。
玉座が動いているのだ。
「ま、まさか!?」
修が目を凝らして玉座を見た。
その瞬間、玉座が飛んだ。
そして、玉座が全ての姿を修達に晒した。
「シャチじゃねーか!!!」
カイザーが座っていたのは、背びれが玉座の形をしたシャチだったのだ!!
普通に天敵である。
何故食われないのかと問い詰めたい。
カイザーは、飛んだシャチの背から、更に跳んだ。
そして空中で、その羽で宙空を十字に切り裂いた。
次の瞬間、十字の何かが飛んで来た。
南斗爆○波ではないか!
修はそれに対し、空中に両手を突き出した。
「ホォアタァ!!」
すると、修の指先から何かが跳んだ。
それはカイザーの南斗爆○波をあっさりと突き破り、未だ空中に居るカイザーに直撃した。
これぞまさしく天破○殺。
空中で修の攻撃を喰らったカイザーは、べちゃりと地面に落ちた。
何と、生きている。
口から血を流し、涙を流しながらも何故かピラミッドに手を伸ばした後、ガクリと力尽きた。
死んだのだ。
最後に、目が「お師…」とか言っていた気がするが、気のせいだ。
「シュウ様の攻撃を…耐えた!?」
ポーラさんは違うことでびっくりしていた。
彼女は、魔物相手に慈悲の心は無いのだ。
ちなみに落としたのは『ペンギンの卵』だった。
というか普通にペンギンかよ。
割れない様に注意しなければ。
カイザーは、待っていれば普通に接近しに来てくれた。
玉座の役目を終えたシャチは普通に帰って行くのがとても印象的ではある。
とにもかくにも、まず先制はカイザーが取って来る。
南斗爆○波を放ち、そこから一気果敢に攻めて来る。
「わが拳にあるのはただ制圧前進のみ!!」と言わんばかりだ。
その攻撃の激しいこと激しいこと。
バーサクラッコを思い出す勢いだ。
しかしカイザーはレベル32。
柔らかそうな羽であるにもかからわず、カファが攻撃を受けると激しい音を響かせている。
「……」
カファは、その一気呵成の攻撃を受けることしかできない。
下手に手を出そうとしたら、制圧されてしまいそうだった。
しかしカファに反撃の必要はない。
こちらにも頼れるアタッカー、ポーラが居るのだ。
「はっ!!」
ポーラがするりとカイザーの後ろに回り込み、二刀を叩き込んだ。
たった二発である。
武器の威力がぶっ飛んでいるので、ダメージは確かにでかいはずだ。
しかしたかが二発。
それだけで、カイザーは「ぐほっ!!」という顔をしてぶっ飛んだ。
地面に倒れ伏し、起き上がる姿はどう見ても瀕死である。
「ぺらっ!!」
ペライ。
どこの柔らか皇帝だ。
修は思わず叫んでしまった。
攻撃以外無振りなのだろうか。
何と言うチャレンジャーな人生なのだ。
それでも辛うじて立ち上がったカイザーは。
瞳に不屈の闘志を燃やしていた。
「帝王に逃走はないのだーーーー!!」と言わんばかりの瞳をしている。
あっぱれなガッツだ。
「やっ!!」
そこにポーラが襲い掛かった。
喰らえば死亡間違いなしの剣戟を、カイザーは大きく後ろに飛ぶことで回避した。
「!?」
瀕死の体で行ったとは思えない大跳躍。
カイザーはそのまま、ピラミッドの上に着地した。
そして大きく羽を広げ、まっさかさまにポーラに向けて飛んで来た。
天翔十○鳳だ。
その命の輝きを、修は瞼に焼き付けた。
ポーラは、自分の攻撃が避けられた時の様に、大きく後ろに跳躍して回避した。
バック宙まで華麗に決めた、スカートだったら丸見えだったのに、と残念に思うくらいの大跳躍だ。
カイザーは、誰も居ない地面に突き刺さった。
そして二度と立ち上がることは無かった。
命を燃やし尽くしたのだ。
修は目礼した。
「シュウ様、これをお願いします」
ポーラさんが『ペンギンの卵』を修に手渡してきた。
卵入りのリュックであんなアクロバティックな動き出来ませんしね。
最後の天翔十○鳳は近い方に撃ってくるようだ。
カファも受けてみたが、多少ぐらついていたが受け止めていた。
衝撃が凄かったようで、すごく嫌そうな顔をしていたが。
しかし、ポーラもすぐに学習した。
カイザーには最初から二発は当てず、一発だけにする。
そして次の攻撃時に二発叩き込む。
こうすると、天翔十○鳳は使われずに「お師…」だけして息絶える様になっていた。
それでもたった三発って。
激しく動き回るポーラ以外の二人のリュックがいっぱいになったところで、この日は帰った。
最近すっかり描写していなかったが、とても高く売れている。
おかげでポーラさんとカファにお小遣いまで与えられているほどだ。
ポーラには、家事代金、と言った形だが。
ポーラも初めは恐縮していたが、段々と受け取ってもらえるようになった。
幾つか新しい私服を購入しているようだ。
ポーラはスカートをあんまり好んでいないようだが、修の為に、短めのスカートのものまで買ってくれている。
ポーラさんの絶対領域は素晴らしいものがある。
ふともものライン、スカートから出ている尻尾、丸いお尻。
実に素晴らしい。
めくると広がるワンダーランド。
修も、何度我慢しきれなくなったことか。
一枚脱がすか、ずらすだけで良いので楽でもあるし。
残りのお金は、何だか溜めている様である。
カファは溜めていない。
収入が入れば、すぐにふらりとどこかに外出に行く。
アレを買っているそうだ。
面倒くさがりのカファが自ら足を運んで購入するアレとは一体…。