104話 バカモン!
「ボスを倒せても、暫く30層に居ようか」
帰宅した修は、唐突にそう言った。
「は、はい」
ポーラさんとしては別に反論する気も無かったが、どういうことだろう、とは思った。
しかし、修の笑顔に包まれて誤魔化されてしまった。
カファに至っては言わずもがなである。
30層で戦うとはいっても、サボるわけではなかった。
戦闘自体は実にしっかりと、むしろ普段以上に行っていた。
むしろボスを探すことはせず、サイコイと戦ってばかりだった。
どういうことなのだろうか、とポーラは心の中で首を捻るばかりだ。
そしてある日、ボスに遭遇した。
RI・KI・SHIではなかった。
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LV.30
カッツォ
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カッツォ。
い○の家長男を思い出すボウズ頭だ。
今にも眼鏡をかけた友人が、「野球しようぜー!」とか駆けこんできそうな雰囲気を感じる。
しかしふてぶてしい笑みを浮かべ、首がものすっごい太い。
一体何者なのだろうか。
そして修は神にもう一発ビンタをかますことを決意した。
しかも、ビンタ二発を引き替えに、拳一発を発動させる俺様ルールを決定した。
「……普通のボス?」
修が取り合えずポーラに聞いてみた。
「いえ、これは…『あっちむいて、ホイ』です!」
ポーラが厳しい顔で、どえらいことを言った。
「なん、だと…!」
修は思わず呻いてしまった。
この世界、じゃんけんもあっちむいてホイがあるのか。
カッツォがこちらを向き、手招きして来た。
悪だくみをしていそうな顔がハイパームカツク。
「…」
修が無言で進み出た。
近づいてみると、やはり首が太い。
超太い。
何でこんなに首だけが。
近づく修に対し、カッツォは余裕の表情で何か屈伸とかしている。
あっちむいてホイにそんなことが必要なのか。
そして立ち上がったカッツォが構えた。
その瞬間、
『じゃんけん、ぽん!』
神の声が響いた。
遊び過ぎである。
カッツォと修が手を出した。
修は軽く目を見張った。
カッツォの手は、停止するまでの間、凄まじい勢いで動き、何を出すか読めない。
と、普通の人は言うだろうくらいの勢いで変わっていた。
修はあっさりと見切った。
修がパーで、カッツォがグーだ。
「…」
負けたカッツォは、余裕の笑みを崩さない。
『あっち向いて~、ホイ!』
修がぎりぎりまで停止し、カッツォの動きを待った。
ギリギリまで動かなかったカッツォが、上を向きかけたのを筋肉の動きで察知し、指を上に向けた。
瞬間、カッツォの首の筋肉がみちりと音を鳴らし、カッツォは無理矢理左を向いた。
はずれだ。
カッツォはニヤリと小馬鹿にするように笑った。
激しくムカツクく顔で、「~~~♪」と口笛まで吹いて来る。
今にもトーサンに拳骨をもらいそうな面をしている。
ピシリと修のこめかみに青筋が浮いた。
「シュウ様!頑張ってください!」
後ろからポーラの声援が聞こえた。
カッツォは、実にふざけた相手ではあるが、実は強敵だ。
PTの誰か一人でも、カッツォの反射神経を上回るものが居なければ次の階層へは永遠に向かえないのだ。
修はポーラの声援に、手をあげて答えた。
カッツォは、ブッ!と噴き出して、腹を抱えて笑った。
『じゃんけん、ぽん!』
再度、神の声が響いた。
修はまた再び、あっさりと勝利した。
『あっち向いて~、ホイ!』
修は今度は迅速に動いた。
人差し指を伸ばし、カッツォの頬に突き刺した。
そのまま左に振り抜くと、カッツォの筋肉が悲鳴をあげた。
修は、カッツォの首の骨ごと左に向かせてやった。
白目を剥いて倒れ伏すカッツォ。
本来であれば、筋肉で防ぐはずの禁じ手だったが、修の腕力には敵うはずも無かったのだ。
修も、勝とうと思えば普通に勝てた。
が、それでは気が済まなかったのだ。
『勝負ありッ!!』
神の声が響いた。
「流石です、シュウ様!!」
ポーラが嬉しそうに叫んだ。
未だ気分が晴れない修は突然構え、虚空に拳を突き出した。
「セイッ!!」
ポーラとカファには見えなかったが、その拳の先端が世界から消えた。
『ぶべらっ!!』
どこかから悲鳴が聞こえて来た。
修がちょっと次元を切り裂いて神の頬にグーパンを叩き込んだのだ。
「???」
ポーラは不思議そうな顔できょろきょろと周囲を見回していた。
31層には一応足を踏み入れたが、すぐに30層に戻った。
そして、やはりそこで戦い続けた。
そしてある日の夜。
修は珍しく、一人だった。
気配を完全に消して、夜の街を駆けていた。
暗闇の中、一直線に。
そのまま街を抜け、森の中に入った。
それでも全く速度を緩めず走り続ける。
そして唐突に、腕を伸ばした。
「っ!?」
その腕が何かを捕えた。
修はそれを木に叩き付けた。
それは黒づくめの人間だった。
不意に修に首を刈られ、恐ろしい勢いで木に叩き付けれられたのだ。
「~~~~~~~ッ!!」
首を押さえて悶絶する暗殺者を、修がこつんと蹴った。
「?!っ?!っ?!」
それだけで、暗殺者は首から下だけがピクリとも動かせなくなった。
本当に、指一つ動かせない。
修はそこまでしてようやく、鑑定を行った。
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LV.35
ガーラー
人間:♂
32
剣士LV.34
『暗殺者』
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本当に暗殺者だった。
「さ、色々教えてもらおうかな」
修はガーラーに馬乗りになった。
「舌を噛み切っても治すし、毒を飲んでも治すよ」
ガーラーは、何が起きたのかもわからぬまま、呆然とした顔を修に向けた。
まさかの展開