103話 なんとかクラッシャー
修が鼻と顎を鋭角にした翌日。
三人で迷宮前に向かって歩いていた。
「む…」
突然、修がおかしな方向を見た。
「どうかされましたか?」
ポーラも視線を追って見たが、何もないし誰もいない。
早朝と言うことで人の居ない、寂しい道が延びているだけだ。
修は視線を戻して肩を竦めた。
「いや、何でもないよ。行こうか」
修がすぐに歩き出した。
「はい…」
ポーラは不思議そうな顔のまま頷き、修の後に続いた。
カファは普通に、修の視線を追いもしなかった。
30層。
今までの経験上、ここのボスはRI・KI・SHI系だろう。
が、その前に普通の魔物だ。
そして探索を進めると遭遇した。
「マジかよ…」
修は思わず呻いてしまった。
コイが、普通に浮いていた。
魚の形をしているなら、せめて水の中に居ろよ、と心の底から思った。
マーマンですら水辺から出て来るのに。
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LV.30
サイコイ
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コイの目が修を見つめた。
と思ったら、コイの周囲に散らばる小石が浮いた。
「お?」
そして修に向けて一斉に飛んで来た。
実に懐かしい。
昔こういう攻撃をしてきた相手も居たものだ。
小石群は、修に激突する前にシュバッ!と音を立て消えた。
叩き落すどころか、粉にしてしまった。
あと一歩で消してしまうところだった。
また神に苦情を言われてしまう。
しかしこのコイ、超能力を使うのだろうか。
そのまんまの名前だ。
もっと頑張れ、神よ。
「ファイアバースト」
焼き魚にしてやろうと、修が火球を飛ばした。
着弾すると思った瞬間、サイコイの姿が消えた。
「は!?」
一瞬で1Mほど離れた場所に移動して、ふよふよと浮いていた。
高速移動とかちゃちなものではない。
修がじっくり見ていたので間違いはない。
本当に、消えたのだ。
「あ」
火球が破裂し、近くにいたサイコイが巻き込まれた。
1M程度では、その猛火から逃れることは出来ないのだ。
サイコイが燃えながら、パッ、パッ、と消えては現れる。
どう見ても瞬間移動だが、タイムラグがある。
連発は出来ないようだが、まさかそっちまで使えるとは。
修は過去の強敵を思い出し、実に懐かしさを覚えた。
そうこうしている間に、サイコイは燃え尽きた。
瞬間移動で火を消そうとしていたのかもしれない。
無駄だったが。
落としたのは、普通に輪切りにした鯉だった。
今夜は鯉こくかもしれない。
サイコイの瞬間移動はやはり連発は出来ないようだ。
小石飛ばしはカファがあっさりと防げるし、瞬間移動直後も停止する。
易々とポーラに叩き落されている。
しかし修には見せていない攻撃があった。
それはポーラが良い感じで追い詰めた時。
サイコイの開いた口に紫色のパワーが出現したのだ。
それを見てポーラは警戒を強め、サイコイから距離を取った。
「カファ」
サイコイから視線を逸らさぬまま、カファに呼びかける。
「……」
カファも痛いのは嫌なので、しっかりとサイコイを見つめた。
すると、サイコイの口から紫色の力の塊を飛ばしてきた。
速度は中々の物だ。
「っ」
ポーラがおかしな軌道を描いてこないか注意しながら、回避した。
普通に素通りした。
そしてカファは大盾で受け止める。
「……」
あっさりと受け止めた。
衝撃は少ない様だ。
そして更に。
「おお!」
紫色の塊が、跳ね返った。
サイ○パワーなのに魔法判定かもしれない。
正確に反射された紫色の力の塊を喰らい、サイコイは大きく震えた。
反動でもあるのだろうか、微動だにせず直撃していた。
今にも地面に崩れ落ちそうなふらふらっぷりを見るに、あと一歩で死ぬだろう。
ポーラが止めを刺そうと近づこうとした。
しかし、途中で眉を寄せて立ち止まった。
サイコイの感情の読めぬはずの瞳に、不屈の闘志を見たのだ。
「む?」
修も闘気を感じ取った。
コイなのに、見上げた奴だ。
まるでその闘気を象徴するかのごとく、サイコイの全身が紫色のパワーに覆われた。
そして弾丸の様に突進した。
狙いは、近くに居るポーラだ。
「おお!!」
そのガッツに、修が思わず感嘆の声をあげた。
「…」
ポーラさんはサイコイの進路から体を反らすと、進路上に剣を構える。
ミラードラゴンの方の剣だ。
そして衝突した。
「っ!」
その瞬間、ポーラが力を込めて打ち返す。
すると、コイの形をした紫色のパワーだけが、突進と反対方向に打ち返された。
そして本体はと言うと。
そこにはコイの切り身が落ちていた。
サイコイのガッツに乾杯だ。
鯉の切り身は大きかったので、すぐにリュックがいっぱいになってしまった。
その為、ボスまで辿り着けなかったが、帰ることにする。
夕食は案の定、鯉こくだった。
とても美味しかった。
やはり味噌は素晴らしい物だ。
とはいっても、それだけではない。
ポーラさんが午後から、お肉を入手しに行っていたので、牛肉もたっぷりある。
ビーフ&フィッシュだ。
修は腹に入れば何でもいいやよ言わんばかりの勢いで食べ続ける。
「ポーラは何でも美味しく作ってくれるね」
修は、ガツガツと貪り続けながら、ポーラを褒めた。
「はい!」
ポーラさんは満面の笑みで頷いた。
図太すぎる。
夜はいつもの如く楽しんだ。
もうポーラさんも、カファのことは気にせずに叫ぶ。
カファも耳栓をしているし、随分慣れているので構わず安眠中だ。
ちなみにポーラさんは、わんわんスタイルが好きだ。
これは野生の血なのだろうか。
待望の普通の敵